『戦争なんてなんの意味があるんですか⁉︎日本は負けるでしょう!平和に生きることが一番ではないのですか⁉︎』
そう叫ぶ彼女は🌸。普通の町人だった。戦争がひどくなり親を亡くし兄弟を亡くし、友達も仕事の先輩も亡くし…最近は恋人も特攻隊としていなくなってしまった。
彼女はこんな世の中にうんざりしていた。こんな戦争はなくなるべきだ、と毎日のように演説を行なっていた。長いこと兵の手から逃げつつ活動をしていたがつい先日ついに捕まってしまった。
ただ徴兵によって男だけでなく人手自体が減っている現状、女だからと極刑になることはなく軟禁されることが決まった。
牢に入れられるだけでなく手には手錠、足には壁と繋がった足枷が繋がれて身動きが取れない状態になっていた。
さて、先ほど女だから刑がゆるいとはいったものの所詮非国民の罪人。祖国の勝利を信じる一般兵には退けられ、暴力や罵詈雑言の数々を浴びせられることは珍しくなかった。
精神だけは強かった彼女も時間が経つにつれて動く気力もなくなり、日々の不味いじゃがいもを希望に生きることしかできなくなった。
そんなある日その地域で改革があった。
改革といっても良いものではなく、今まで看守として使われていた一般兵はもれなく徴兵。その代わりに怪我をした兵士、まぁ簡単に言うと戦争に出しても意味のない兵士たちをこちらによこすというのだ。
これは戦況が悪化していることを表し、今まで1日に一回与えられてたじゃがいもですら与えられなくなることになることになっていた。
そのことを知った🌸は恐怖と共に安堵を覚えた。今まで自分を傷つけてきた看守は消えるのだ。だが次の看守がそういうことをしないとは限らないわけで。外見えない独房では生きることに意味もなく食糧不足で死ねることに彼女は希望を覚えた。
「キミが🌸…だっけ?ゴッメーンあんま興味なくて覚えてないヤ」
そういって牢に入ってきたのは長い赤髪を下ろした目の細い人だった。隊服を着ているあたり新しい看守なのだろうが、この薄汚い牢なんかに入ってきたのはこの人が初めてだった。
しかも床に倒れ込んでいる私を見下ろすそれは今までに見たことのない色味を帯びていたため私はそれを悪魔かと思い込むところだった。だが彼は片足がないように見え、右足が義足になっていた。義足があるほど裕福な家系なのは間違いないだろうが、彼も戦争の被害者の一部であることを認識し、親近感を覚えた。
『…あなたは、酷いことをしないんですね。』
「ヒドイこと?アー、キミなんだっけ、平和主義者だから秩序のためにウンタラカンタラで捕まったやつか。まーこのご時世で平和がどうだこうだ言ってる時点で頭がイカれてんだろうなーとは思ってたケド。思ってたより顔がいいんだよネーキミ。いやほんと俺の好みにドンピシャリ!…🌸チャンの態度次第じゃ。ここから出るお手伝いでもしてあげるケド?」
…何をいってるんだこの人は。そもそも囚人が好み?脱獄?手伝い?ばかなんじゃなかろうか。それが仮にできるとして彼になんの利益があるというのだろうか。裏があるんだろう。
『…なにが狙いな訳?私はもう動く気も…正直ないよ…ハハ、もしこれがさ、冗談ならあなたも十分非国民だよ。私と一緒だねぇ。』
嘲笑と挑発を混ぜて吐き捨ててみる。さぁ、のってくるかどうか。
「🌸チャンそんなこわーい事言うんだネー。ま、俺としてはのぞみはヒトツなんだけド。端的に言うとぉー、キミ!ネネ、ここから出たら俺たちで結婚しない?あ、もちろん俺が養うよーん」
と言うと私のそばにしゃがみ込み、対抗する力もない私を自分の肩にもたれかけさせて痩せ細った私の体をなぞり始めた。
『や、めて…気持ち悪いっ…!』
「えー?そんなこと言わないでヨー。なんなら上の指示どうり🌸チャンをすぐに極刑にすることもできるんだけどナー。」
『な…、は?極刑?殺す…ってことでしょう?なんで、今更…』
「うーん、正直に言うと犯罪者はもういらなーいって言う上の判断!今まで生かしてたやつにかける食費ももったいないしねー。俺の奥さんになってくれるなら助かれるのにね。それを拒否るとかバカだよネー。ね?」
「だから結婚、しよ?」
強い圧で私の体を包み込もうとする言葉に私は逃げられるわけもなく、その言葉を了承した。
逃げた当初こそビクビクした生活をしていたが、彼の家は昔から続く良家らしく私の生い立ちを隠すことで暖かく迎え入れてもらえた。私の貧相な細い体も貧困によるものと考えられて優しくされ、思っていたよりも良い生活を送れている。
よく彼ーーあぁ、覚さんに「逃げたくはないのか」と聞かれるけど、今となっては感謝しているし優しい彼が好きでもある。
ま、うまいこと彼に捕まっちゃったのかもね。
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