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テロ組織との一件が落ち着き、王国の王都に平和が戻ってきた頃、執務室でアーティファクト捜索開発部門の話をしているとキルゲ・シュタインビルドは黒崎創建からある話を聞かされた。
それは隣国のバラスト王国の事だった。
「魔学?」
「はい。隣国バラスト王国の調査を行っていた聖兵からの情報です。バラスト王国は精霊の力を借りて、超常的な力を酷使する法則がありますが、その精霊の力を体系化し、誰でも使える技術として昇華しようとする動きがあります。本人はそれを魔学と呼称しているようです」
「ふむ、この世界は基本的に貴族などの特権階級が存在し、それが市民より上にいられるのは魔法を使用できるからであると認識してますが、そんな存在、貴族たちが許さないでしょう」
「そのとおりです。魔学が市民に広がれば王族や貴族や王家の権威は失墜し、自由の名のもとフランス革命のギロチン祭り状態になるでしょう」
「特権階級はこれまで踏みつけていた市民たちに下剋上される。魔法が誰でも使えれば特権は消失するのは通理です。そして自由と富の分配、平等を正義として民主政治へ移行する。しかし、それは予想できることです。ならば魔学の発展は許されないのでは?」
「いえ、宗教的な理由で疎まれているものの排除する動きは少しです。魔学は最先端過ぎて、それが広がった場合を想像できていないのでしょう。地球でいう産業革命に類するものが一切起きていない世界ですから、便利なものが量産化され一般化した結果、どうなるのか、というのを正しく予測できていないようです」
「ふむ。なるほど。魔法という貴族の特権階級が使える技術のおかけで文明レベルが遅滞し、それに伴って精霊信仰が混じり合い未来予測ができないと」
「はい。それに加え、開発している本人はそれが劇薬だと認識しているようです。だからこそ、その情報は広がっていません」
「良くも悪くも魔法によって、王と貴族が統治する世界だからこそ、圧倒的な力でねじ伏せられ革命に結びつかず、魔学の開発者はそれが一般に普及すれば国が荒れると理解している、と」
「その様子です」
「アーティファクト集めも難航していましたし、そちらの魔学という新しい学問のアプローチも良いかもしれませんね。それで、その魔学の開発者は?」
「フィア・ヴァン・バラスト。バラスト王国の第一王女で冒険者最高ランクで二つ名は『魔獣喰らい』です。幼少の頃から奇行が目立ち、魔法を使えないとわかってからは無能の烙印を押されていました。王位継承権も剥奪されています。しかしそんなフィア王女の評判がここ数年で覆ります。下水道敷設の為の工事現場のご意見役、工事の援助の為の魔道具の開発。続けて街道の新規開拓で監査役として同行し、襲い来る魔物の群れを全滅させるなどの功績を瞬く間に打ち立て、魔法さえ使えれば彼女が王であったのに、と評価されています」
「王族ですか。魔法が権威に繋がる世界で魔法が使えず、魔法の代理を産み出すとは、革命を狙っているのでは?」
「プロファイリングでは、彼女は魔法は人々を笑顔にするもの、と定義しており、ある程度の善性と思慮もあり、独善的であるが周囲の軋轢を良しとしない善人です。王の継承権も放棄するのも、弟に配慮した結果であり、また立場を気にしない王族として一般市民とも良好な関係を築いています」
「善良な人間……ですか。恐らく魔学の対人用の兵器転用も相応の理由がない限り良しとしないのでしょうね」
「どうしますか?」
「この国でやることはおおよそ終わりました。次はその魔学に手を出してみるとします。調査に派遣している聖兵に連絡をしてください。私が出ます」
「キルゲさん自ら、ですか?」
「ええ、王家との交渉です。最高外交官としての立場がある私が赴いた方が良いでしょう。しかし本人相手にするのは苦労しそうですね。王位継承権を弟のための剥奪されるように動いた、と言いましたが、その弟の評価は?」
「ガルド・ヴ・バラスト王子の評価は、一言いえば凡庸です。学内での成績や王家の振る舞いも悪くりません。しかし人望や目立つ功績もなく、姉のフィア王女のように独創性もありません。このまま王となって国の運営に携わっても革命か、衰退していくでしょう。現国王が現状維持を国の方針として定めてしまっている以上、あるのは崩壊です。少なくとも光の帝国に逆らう力は持つことはないでしょう。隣国の技術発展により占領されるか、僕たちの光の帝国の属国になるかの二択です」
「そこで魔学……ですか。精霊信仰、神学とは別系統の学問。アーティファクトとは別の脅威になりますね。では、行くとしましょう」
「わかりました。聖兵を用意します」
「いいえ、私が一人のほうが良いでしょう。この二割の世界の調査はほぼ終わっています。力こそ全て。速やかに手に入れてしまいましょう。幸い、魔学の第一人者は研究者気質です。権力にも富より己の好奇心を優先させる。ならば、それを存分に振るえるように場を整えます」
「つまり」
「はい。バラストの国王には消えてもらいます」
◆
バラスト王国王城、バラスト王国の王位継承権第一位を有する王太子、ガルド・ヴ・バラストは護衛を連れて自身の私室に向けて歩いていた。心安らげる時間は何よりも貴重と言える。王となる為の学業は激務であれど、王子として心の余裕を保つのは大事だと。
……そう思わなければやっていられない。いつだって政治には頭を悩まされるし、それ以外にも頭を悩ませる事は多い。
特にその筆頭たる姉の王女の顔が浮かび、振り払うように首を左右に振った。
最近、あの突拍子もない事を繰り返すアネは大人しい。ようやく分別を弁えたかと思いたいが、それは絶対にあり得ない。
これは何かが起きる前兆なのではないかと、どうしても不安が拭えない。
それに『計画』のこともある。
「お疲れ様です、ガルド・ヴ・バラスト様?」
「貴様、何者だ! 衛兵!」
ガルド・ヴ・バラストが自身の部屋に入ると白い制服を着た男が椅子に座っていた。
「叫んでも誰も来ませんよ。魔法もこの部屋では使えない。ここは監獄ですからね」
「……何が目的だ」
部屋には青い光の結界が張られており、魔法を発動することも声を外に出すことも不可能だと悟った。
「少しお話を少々」
「話、だと?」
「ええ、貴方のお姉様が傾倒している魔学について伺いたく思いまして」
その言葉にガルド・ヴ・バラストは嘲笑の笑みを浮かべる。
「残念だったな。俺はそんなもの知らないし興味もない」
「おや、そうなのですか? では趣向を変えましょうか。この国の未来について」
「なんだと?」
「私はキルゲ・シュタインビルド。世界の八割を手中に収め統治している光の帝国・星十字騎士団所属・先遣統括隊長最高外交官です。目的はこの二割の世界の調査です」
「光の帝国だと? その外交官が、何故そんなものがここにいる」
外交官というのであれば話す対象は王である筈だ。わざわざ王子の部屋に無断侵入なんてしてくる意味がない。
「言ったでしょう? 貴方のお姉様についてお聞きしたいことがあると。具体的には、魔学について」
「また、姉上か」
ガルド・ヴ・バラストは姉について劣等感を持っている。それを刺激されて苦い顔をする。
「噂は聞いてますよ、世界を変革する者、王国一の変人、そして魔学の第一人者だと」
「なら、俺に用など無いはずだ。随分と大掛かりな真似をしたようだが無駄だったな。俺は何も知らん。聞くなら姉上に直接聞くことだ」
「いえいえ。魔学も本命ですが、貴方にある方法を提示するために来たのですよ。この国を変える野心がある貴方に。ハッキリ言いましょう、革命しませんか?」
「革命……それは俺に暴力でこの国を支配しろと? それを光の帝国が援助してくれると?」
「ええ。二割の世界の全ての国に我々は強い影響力があります。なんせ一つの意思のもと八割の世界を支配しているのです。どんなものだって揃います武器、弾薬、情報、魔法、食料、その他全て」
「そして俺には傀儡政権になれということか」
「いいえ? そんな面倒なことはしません。私の目的は調査です。その国々の歴史や学問について調査する。それだけです。そのために王が融通してくれればやりやすいだけで、この国を乗っ取ろうとは思いません。虐殺をしたければ良いし、改革した国を作ろうと思えば作れば良い、逆に今の政権に賛同しているのなら、そのまま今の王を傀儡にすれば良い」
「ただの調査でそこまでするのか? 利益は? 損得ではないのか?」
「調査すること。それが我々の利益です。この国から得られる資本的な利益なんて今持っている世界に比べたら雀の涙ほどです。要りません。どちらかというと精霊信仰による魔法の調査がしたい」
「なるほどな……だが何故、俺なんだ? もっと相応しい役割を果たす人間は他にいるだろう」
「貴方が、王に相応しいと思ったからです」
「何故だ、魔学ならば姉上が、傀儡政権にするなら他の貴族でもよいだろう。何故俺なんだ?」
「野心がある……この言い方では誤解を招きますか。もっと具体的に言うならば行動力があるからです。人を踏みつけ、死骸の上の玉座に座る覚悟がある。誰かの笑顔ではない。己の為に他者を犠牲にして駒を進める人間であると、私は思っている」
「……何?」
キルゲ・シュタインビルドはテーブルにバサッと紙の束を広げる。
「ルシエ男爵令嬢はヴァンパイアであり、魅力を使って人を洗脳している。それを貴方は知った上で、利用するために側に置いている。違いますか?」
「馬鹿な、何故それを」
「調査してますから。防諜にはもう少し気を使ったほうが良いですよ。といっても我々の存在を見破れるとは思えませんが」
「……全て、お見通しか。俺が、いや、私が次代の王として自らの道を切り開くと決めたその覚悟さえも、貴様にとっては都合の良い道具か」
「いや、どうでも良いんですよ。そんなこと。私の役目は調査です。この国がどうなろうが知ったことではない。しかし同じ人間として、最低限の礼儀として一方的な武力制圧ではなく内部からの改革によって我々と協調路線を行く国になって欲しいというだけです。皆殺しにして情報を奪うだけならすぐにできます。しかしそれではあまりに非人道的だ。私達は人間です。話し合いができる。ならばそれは理性に則った当事者たちどの交渉で自ら身を捧げてほしいと思うのは、人間として当然のことでしょう?」
「武力を背景に軍門に下ることを迫っておいて交渉か」
「それが政治です、王子様。国と国の政治は戦争による殲滅戦という最終手段があるのが前提で成り立ちます。近代の地球では戦争しても意味がない場合が多く、戦争はすぐに絶滅戦争へ移行しますが、この世界には領土や物質や人間を奪うことができる。故に戦争に意味があるのですよ。だから軍はなければならない。しかしこの国は……あまりに脆い。それは貴方も感じていることでしょう?」
「そのとおりだ。冒険者に戦闘を委託し、兵士はそのサポートをする。人間同士の戦争よりも、国内部の派閥争いに力が注がれている。これでは国そのものが崩壊するのも時間の問題だ。しかしそんな強引な改革を進めれば貴族からの反発があるからと王は手が出せない」
「ならば貴方がやるのですよ。王座を奪い、圧政を敷き、恐怖の神の力を借りて団結し、人にも、怪物にも負けない強い国にする。それは貴方にしか出来ない。どうしますか? 私は貴方に力を授ける事ができる。全てを恐怖と暴力で押さえつける圧倒的な力を」
「私は……俺は……王族として国と民を守る義務がある。だから、俺は、俺が未来を切り開く。乗るぞ! その提案!」