前回までのあらすじ
デブとデブが激しくぶつかり合い、その魂の交錯を目の当たりにして、デブも又新たな階位へと自身を昇華させた。
一切の躊躇い(ためらい)を見せず、鬩(せめ)ぎ合うデブ達の中へ我が身を躍らせたのであった。
戦いは三つ巴となり、更に激しさを増していく。
まるで、怪獣映画のハイライトシーンを彷彿(ほうふつ)とさせる様な、超重量級の肉体がぶつかり合う迫力に気圧(けお)されながらも、関亜(せきあ)鬼男(きお)(本名 鈴木ひとし)はカメラを回し続けた。
かの超有名なミスターと呼ばれる都市伝説の語り部、彼の名前を丸パクリして配信を始めて以来、鳴かず飛ばずであった鬼男に、初めてのビックチャンスが到来していたのだ。
この世の物とは思えない、たぶん本当に異界から現れた、三体のUMAが、自分の目の前で凄まじい戦いを繰り広げている。
戦闘開始から、結構すぐにカメラを回した事で、動画の尺も結構な撮れ高になっている筈である。
ここまではっきりとした証拠映像があれば、万が一にも信じない馬鹿はいないだろう。
そう、信じる信じないの選択肢は既に潰されているのだ。
信じざるを得ない物を自分の手によって、社会に対しぶちかませるのである。
体の奥から沸き起こる愉悦(ゆえつ)と先行きへの期待が交じり合った興奮に、関亜(せきあ)鬼男(きお)(本名 鈴木ひとし)は武者震いを止められないでいた。
その振動がカメラに伝わり、手ぶれ補正をオフられていた映像が、ぶるぶるがたがた焦点を合わせられなかった為に、『信じない貴方次第』が|大勢《たいせい》を占めてしまう事になるのだが……
この時の関亜(せきあ)鬼男(きお)(本名 鈴木ひとし)は、知る良しも無かったのであった。
(※本作品はフィクションであり、登場する人物は架空の存在です。 実在する関君や、ハロバイ、金成君とは一切関係ないことを御了承下さい)
本堂で魔力、正確には聖魔力に目覚めたコユキは、それからの数日間を魔力の操作方法を学ぶ事に費やした。
ラマシュトゥが主な先生である。
彼女はスプラタ・マンユの中でも最も魔力の操作に長(た)けていた、反面魔力の総量は七柱(ななはしら)の中では最小であった。
コユキの聖魔力量は、七柱の中でも最大のアヴァドンを、優に超える代物であったが、万が一枯渇(こかつ)した場合、死ぬ、事を過度に恐れたコユキが土下座して頼み込んだ事を受けて、ラマシュトゥによる、魔力を節約しながら戦う精緻(せいち)な操作を学ぶ事になったのである。
ここでも、意外に器用な所を見せたコユキは、ラマシュトゥの期待を超えた成長を見せていた。
「コユキ様、素晴らしいですわ! 聖魔力を纏(まと)ってご自分を保護し続ける技『聖纏(ヴェール)』でしたかしら? 即時発動をこれほど早く習得されるとは、正直信じられませんわ」
「ふっふ~ん! 凄いでしょ♪」
コユキはドヤ顔をしているつもりだが、例によって表情は変わってはいなかった。
ラマシュトゥはコユキの顔肉の多さを気に掛けるでもなく、続けて聞いた。
「ところで、本当に『鉄盾(アスピーダ)』や『エクス・プライム』を習熟されなくてもお宜しいのかしら? 『聖纏(ヴェール)』での防御は、決して高くはございませんのよ?」
当然と言った風にコユキは答えた。
「うん、いいのよ、あれお腹が空くのよね~」
だそうだ。
実の所、ここ数日間でコユキが実行可能な、聖魔力を使ったスキルはこれだけでは無い。
どころか、メチャクチャ多くの事が出来るようになっていた。
とはいえ、『蠍毒棘針(デス・ニードル)の使用時に拳や腕、肩を保護する身体強化(極小)や、疲れや怪我を治す回復速度を僅(わず)かに上げる自然回復UP(極小)、『散弾(ショット)』の破壊力を気持ち上げる破壊効果上昇(極小)、『回避の舞い(アヴォイダンス)』中に見つかり難(にく)くなる気配隠蔽(極小)と言った具合の、消極的すぎるスキルばかりだったが……
見た目に反して臆病な性格のコユキ本人が、より上位のスキルの習得を頑として受け入れようとしなかった結果であった。
私が観察した上での判断では、善悪が一回で気を失ってしまう『エクス・ダブル』でも、十回位は発動できるのでは無いかと見当を付けているのだが……
何故そんな事が分かるのかといえば、答えは簡単至極、コユキがそれ位太っているからである。
痩せてから心配すれば良いのである。
しかし、そんなビビリマクリブーのコユキであったが、ある種のスキル獲得だけは積極的に取り組んできたのであった。
それはズバリ、神聖銀のかぎ棒を使った一連の攻撃スキルである。
最初に成功した『短刀(ダガー)』だけでなく、通常の状態から気弾を連続して打ち出す『聖魔弾(スリング)』、『短刀(ダガー)』にしてからかぎ棒を強く振り、聖魔力の刃を飛ばす『聖魔飛刃(ファルシオン)』、聖魔力を帯びたかぎ棒を独立行動させる『遠隔操作(オートマタ)』など、夢中になって覚えていったのだ。
特に『遠隔操作(オートマタ)』が、かなりお気に入りだったようで、持ち前の集中力を発揮して、結構な腕前になっていた。
今朝も、善悪の家庭菜園へ無人で飛んで行ったかぎ棒が、熟してそろそろ収穫かと善悪が目星を付けていたイチジクを、掻(か)っ攫(さら)ってコユキの元まで飛んで帰り、追いかけてきた善悪にこっ酷く叱られたばかりだ。
かぎ棒のサイズを変えずに、内包する聖魔力の濃度を調整することで、飛距離も継続時間もコントロール可能な域まで到達していたのである。
事情通(モラクス)の弁によると、そのレベルまで習熟するには、人(悪魔)によっては数百年を要する場合もあるのだとか。
また、ある遠隔バフの専門家(ラマシュトゥ)は次のように語った。
「二本のかぎ棒を同時に操る事は一筋縄ではありませんのよ。 それをあの様に自由自在に…… 天性の才能ですわ! んん~…… マラナ・タ!」
ちょっと軸に歪(いびつ)な信仰が含まれている事が気にはなるが、大筋では間違ってはいない事を信じたい。
兎に角、こんな調子で、びびったり煽(おだ)てられたりしながら順調(?)に能力を開花させていったのであった。
「コユキ様と善悪様が仰る通り、次に具現化するのがアジ・ダハーカである場合に備えて、いくつか魔力紋を準備しましたの、よろしければお使いくださいませ」
そう言ってラマシュトゥがコユキに示した物は、幸福寺で普段良く使われるチラシの裏ではなく、綺麗に切りそろえられた羊皮紙の束であった。
「はてな? これは一体なんぞや?」
善悪の説法の真似だろうか、ふざけた話し方のコユキを怒るでもなくラマシュトゥは丁寧に説明をして行く、優しいったらこの上ない悪魔だ。
彼女の説明によると羊皮紙に刻まれた魔力紋は三種類、それぞれ数枚づつ準備されているとの事だった。
三種類の内訳は、ラマシュトゥの『再生雨(エピストロフ)』、パズスの『鉄盾(アスピーダ)』、モラクスの『暴爪弾(アサルト・バレット)』だという。
ラマシュトゥからは、今からスクロール、いわゆる巻子本(かんすぼん)に加工する際に、軸に微妙な細工を施して、見分けが付く様にすると言ったのだが、覚えていられるかどうか、いまいち自信を持てなかったコユキに、羊皮紙自体に文字を記入して良いかと尋ねられてしまった。
端の方ならとのラマシュトゥの言葉を聞いたコユキは、取り出したサインペンで、『ひーる』『たて』『たま』と雑に書き殴るのであった、台無しである。
その後、スクロールにすると|嵩張る《かさばる》からと言って折り畳みポッケにしまった時は、ラマシュトゥの表情はほぼガッカリであった。
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