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狐十@アイコン変えた!!
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その夜、仁人が店に入ると、カウンターにはもう一人、見知らぬ男の姿があった。
普段この時間帯は勇斗が一人で店を回しているはずだったが、今夜はシフトの引き継ぎか何からしく、深夜担当のもう一人のスタッフが顔を出していた。細身で儚げな雰囲気を纏った、どこか浮世離れした美貌の持ち主だった。勇斗とは対照的な、静けさを湛えた立ち姿が印象的だった。
「あ、仁人くん。ちょうどいいところに。こいつ、柔太朗。俺の後輩」
「柔太朗です。よろしく」
低く落ち着いた声と柔らかな笑みで、柔太朗は軽く会釈をした。仁人も釣られるように頭を下げる。
「仁人です。勇斗さんの、その、知り合いです」
「知り合い、ね」
柔太朗は、観察するような視線を向けつつ、どこか面白がるように口元を緩めた。仁人はその微妙な間に、少しだけ居心地の悪さを覚える。
「勇ちゃんから話は聞いてますよ。──随分、熱心に口説いてるみたいで」
「柔太朗」
勇斗が咎めるように名を呼んだが、柔太朗は涼しい顔で受け流した。
「隠すことでもないでしょう。勇ちゃん、こんなに一人の人間に構うの、珍しいですし」
「うるさいな、お前も似たようなもんだろ」
「まぁ、確かに。人のこと言えた立場じゃないですけど」
柔太朗はグラスを一つ取り出し、慣れた手つきで氷を入れながら、静かに続けた。
「俺も、最近ある人間に、すっかり振り回されてるので」
その言葉に、仁人はわずかに興味を引かれた。目の前の男は、一見して、誰かに振り回されるようなタイプには見えない。落ち着き払った所作の一つ一つに、余裕が滲んでいる。
「振り回されてる、って、あなたが?」
「意外ですか」
「──ちょっと」
「よく言われます。でも、実際そうなんですよ。誘惑してるつもりが、いつの間にか、こっちが翻弄されてる感じで」
淡々とした口調とは裏腹に、その内容は思いのほか赤裸々だった。仁人はそれを聞きながら、ふと隣の勇斗を見やる。勇斗は決まり悪そうに視線を逸らしていた。
「なんか、大変ですね」
仁人がぽつりと零すと、柔太朗はグラスを磨きながら、興味深そうに目を細めた。
「んー……どうでしょう、勇ちゃんもなかなか大変だと思いますけど」
「大変?」
「たぶん、じわじわ外堀埋めていくタイプでしょう。焦らないふりして、実はがっつり囲い込みにいってる」
「おい」
「あれ、違いました?」
柔太朗に問われ、勇斗は苦い顔で黙り込んだ。その反応こそが、何よりの肯定だった。仁人はその様子に、思わず小さく噴き出しそうになる。
「──図星みたいですね」
「仁人くんまで、そっち側につくの?」
「いや、別に。ただ、なんか、勇斗さんらしいなって思っただけです」
「らしいって、どういうことよ」
「余裕ぶってるくせに、意外と一途っぽいところ、ですかね」
その指摘に、勇斗は珍しく言葉に詰まった。柔太朗はそれを見て、満足そうに笑みを深める。
「勇ちゃんがこんなふうに言い返せなくなるの、初めて見ました」
「お前な……」
「まぁ、いいことだと思いますよ。誰かに本気になれるって」
柔太朗はそう言うと、グラスを一つカウンターに置き、静かに帰り支度を始めた。
「──今日はこのへんで。お邪魔虫は、退散するので。後はどうぞ二人で」
「もう帰るのか」
「ええ。──俺にも、待たせてる人がいるので」
その言い方には、どこか甘やかな響きが滲んでいた。仁人はそれを聞いて、この落ち着き払った男もまた、誰かに深く心を捕らわれているのだと、改めて実感した。
柔太朗が店を出た後、しばらくの沈黙が流れた。仁人はグラスを傾けながら、先ほどの会話を反芻する。
「勇斗さんって、本当に、そういうタイプなんですか。じわじわ囲い込むタイプ」
「……否定はしないよ」
観念したように、勇斗は肩をすくめた。いつもの飄々とした態度が、少しだけ崩れている。その素の表情に、仁人は不思議と好感を覚えた。
「別に、悪いとは言ってないです」
「そう?」
「むしろ、ちょっと安心しました。適当に口説いてるだけじゃないんだって、分かったので」
言ってしまってから、仁人は自分の言葉の意味に気づき、慌てて視線を逸らした。勇斗はそれを見逃さず、嬉しそうに目を細める。
「──今の、結構いいこと言ってくれたね」
「別に、そんなつもりじゃ」
「あ、そうですか、って言わないんだ。今日は」
指摘されて、仁人は言葉に詰まった。いつものそっけない返しが、今夜はうまく出てこない。
コメント
2件
コメント失礼いたします^_^ 最高の作品に、出逢いました! 主さん天才すぎます♪続きも楽しみにしております!💛これからも主さんの作品色々拝見させて頂きます🙇