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井野匠
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#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
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「日継は十年も前、厳格な進学校じゃった。 大学への高い進学実績に、徹底した指導体制。 でもなぁ、それは生徒の自由を縛りに縛った結果に得た数字じゃ。 耐えきれんなった生徒達が抗議運動を始めてのう、それを皮切りに生徒の自主性と自由意志を最大限尊重する校風に急旋回したんじゃ。 進学意識のある生徒には特進クラス、個別に合わせられるよう文系理系などに分けられた授業ロードマップ、多数の選択授業。 あとは部活動もじゃな、同好会にサークル……、ほとんど差は分からんけどなあ」
学校だというのに、家のリビングに置いてあるような黒ソファに腰掛けて角砂糖入りコーヒーを飲んでいる。
これが、校長室特権か……!
「多様性の時代じゃからのう。 生徒の未来、将来の選択肢を広げるためには、大人から見たら遊んどると思われることも真剣に取り組まにゃいかんよ」
「校長、お話はありがたいんですが、オレが聞きたいのは……」
「分かっとる分かっとる、あまり急くなよ神無月くん。 君が聞きたいのは一条くんが提出してきた、この除籍推挙の件じゃろう?」
校長がデスクから取り出したのは、ピッシリと整ったフォーマットで書かれた一枚のプリント。
下には一条大亞のサインに判子までしっかりと押されている。
「一条くんには個別で話を聞いた。 結論から先に言うとな、わしら教師陣から出来ることはほとんどないのじゃ」
「そんな……! じゃあオレ達は、本当に退学になるってことですか?」
「流石にそんな事はない、と言いたいがのう。 どうじゃろうな、それは君次第かな。 君は喧嘩事までしてしまったらしいじゃないか、退学とはいかずとも、停学級の行為は犯していることは間違いないしの」
「普通に考えて、こんなことで即退学ってありえないですよ。 罰にしては……、やりすぎだ!」
提言書を掴んで引きちぎってしまいそうな勢いで机に手をついた。
まぁまぁー、と校長。
「一条くんの提言したこれは確かにやりすぎた処罰じゃよ。 けれどもな、提出の理由は明白で、信頼高い生徒会長、しかも風紀委員の委員長でもある彼がここまで強く指名するのだから、蔑ろにすることは出来んのじゃぁーよ。 跳ねのけられん、いっそ、わしらからすれば褒め称えたいほどに貴いものよ。 自由を尊重するからこそ、生徒が声をあげた時には応援してやるのがこの学校の職員の在るべき姿じゃもの」
「……じゃあ、こういうことですか? 生徒会長は言い分は信用出来るから、転入生のオレは不当な罰を受けるべきだって……!」
校長がこのスタンスなら、校内の教師陣からは助けは見込めないだろう。
そう思うと……、怒りが湧き出した。
過ぎた処罰だと理解しながらも、どうして軌道修正をしようとしない?
こんなのがまかり通るなら……、きっとこの先、この学校ではなんでも起きる。
冤罪は頻発する。
違和感も善悪も、権力で決まるようになる。
そして、それを止める装置はない。
こんなのは……、何より間違ってる。
校長に八つ当たりしても何にもならないと分かりつつも、握り拳に力がかかってしまう。
「……そう! それじゃよ、神無月君」
「えっ? それって……?」
「今、君は怒っておるな。 それが嫌ぁーな気持ちであれのぉ、それはエネルギーじゃ。 気力とか、意地とか、そういうものじゃの。 人というものはな、実はかなりのナマケモノでのぉ、理由がないと動けない、動こうとはせんものよ。 怒《いか》りであれなんであれ、エネルギーが湧けば人は動くことができる。 神無月君は、やっと動く理由ができたわけじゃな」
「よく……、分からないんですが」
「さっき君は、退学になるかどうかと聞いてきたな。 相手さんは名高い生徒会長、頼りの大人は動いてくれない。 皆の協力がないと、この状況はひっくり返せん。 でもな、わしは君にこう答えたよ。 結果は君次第だと。 一条君が正義感をエネルギーに君を退学にしようとしているのと同じように、君も不当への怒りのエネルギーで退学を撤回させるんじゃ。 仲間を集めて、意思をぶつけてなさい。 君が怒りで心が動くのと同様、教諭や君のクラスメイト達も理由がないと動かない。 君が皆の動く理由を作るんじゃよ。 皆が君の退学を不当だと認知し、一緒に戦ってくれるようにのう」
「……そうか。 日継高校は生徒の自主性と自由意志を重んじる学校……、校長は最初からそのつもりで……」
「やり方も任せるよ。 ……すまんなぁ、苦しいことをさせているのは分かっておる。 でもな、人が人間として強くなるには、他の人間を突き動かす経験をするのが一番なのじゃよ。 これはわしの恩師の教えじゃ」
つまりは……、校長はこう言っているのだ。
一条の提言した処罰はやり過ぎたものだ。
しかし、自主性と自由意志を強く重んじる当校において、それは尊重の対象であり、跳ね除けるわけにはいかないのだと。
だから退学の未来から逃れたいのなら、怒りを原動力にして一条のやり過ぎた正義感と闘え。
共感してくれる仲間を集め、不当を訴え、一条のように強い意志を見せてみろと。
「学生とはいえ、自分の危機に行動せずただ誰かが、家族が、先生が、友人が、どこかの誰かがどうにかしてくれるなどと思っている者には、手は差しのべられん。 じゃが、自主的に動き、意志を示したのならわしらは全身全霊をもって手助けする。 神無月君、期待していますよ」
校長は、終始柔らかく微笑んでいた。
その表情には、悪戯にオレを苦しめようとしているような暗い腹積もりは感じられない。
どこにでもいる普通の学生。
その普通って称号に与えられた権利を使ってどこまで足掻けるか試してみなさい、人間として成長する稀有な機会が巡ってきているのですよ、と諭すような思慮が伝わってきた。
教師は生徒を見捨てているわけではなかった。
物事の見方を変えれば、今回の問題はただの生徒間のイザコザに過ぎない。
大人が介入してしまっては、ただ決着するだけで終わってしまう。
オレのことを学生としてではなく、一人の人間として見ているからこその考え抜かれた不介入だった。
「ほんっと、すまんなあ。 昨今は、わしらが生きてきた時代よりずっと若者に厳しい世の中になってしもうた。 君には、ただ荒波に流されるだけの人になってほしくない……。 何か問題が起きればわしらが止める。 逆説を唱えるなら、わしらが止めるまでは君も自由にしていいんじゃよ」
「いえ……、オレのことを考えてくださってありがとうございます」
学生だからこそ、人間だからこそ。
そして、記憶喪失で過去を失い、自分から仮面の界隈に関わったりと向こう見ずに生きているからこそ。
こんな半端者なオレの未来を案じてくれたことに、強い感謝を感じるのだ。
「……やってみます、足掻いてみます」
校長はただ微笑んで、首を小さく縦に振った。
――――――――――――――――――――――
「それで、どうやってあの偽善者に勝つ気だい?」
校長室での会話、その全てを野崎に伝えた。
外が小雨だからか、『いつもの場所』にはオレと野崎以外は誰も集まっていない。
「それは……、まだこれから考える」
「はっ。 良いように言っているだけで、校長が言ったのはただ不介入の事実だけさ。 面倒事は誰だって巻き込まれたくないだろうからね」
「そんなのじゃない! あの人は……」
「どうしてそう言い切れる? ……はぁ、まあいいだろう。 そんな言い争いをするより、ずっと気がかりなことがある」
「……『支配者』のことか?」
ジョン・ドゥの忠告。
野崎にも情報共有した正体不明存在。
その名の呼ばれ方からして……、
「一条大亞。 あの圧政を敷く偽善者の生徒会長は、同時に治安維持委員会の会長も務めている。 当然、校内政治は彼の手中。 まるで為政者みたいなやり口さ、彼はこの学校の『支配者』であると言えるだろう。 ……それに君も聞いたな? 彼の生徒会選挙期間に起きた珍事を。 全ての対抗馬が選挙を辞退? 有り得るものかそんなことが。 ……きっと仮面が絡んでいる。 一条が忠告に名前が挙がった『支配者』かもしれない」
コメント
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うわあああ第78話、めっちゃ熱い回だったね…!!🔥🔥 校長の「怒りをエネルギーにしろ」って言葉、めっちゃ刺さったよ…!大人が介入せずに「君次第」って突き放すスタイル、一見冷たく見えるけど、神無月くんを一人の人間として信頼してるからこその距離感なんだよね…😭💕 それにしても一条大亞、やっぱり怪しさMAXじゃん…!「支配者」って呼ばれるのも納得の圧政っぷり。野崎くんの推理も冴えてるし、この先どう動くのかマジで気になる…!! 次回も絶対読むからね!!📖✨