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りつ
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昼休みが終わり、午後の授業が始まった。屋上での熱いキスの余韻がまだ唇に残っていて、僕はノートを取るフリをしながら、ひたすら手元の文字に意識を集中させようとしていた。
隣の席からは、シャープペンシルが紙を滑る規則正しい音が聞こえる。
横目を向ければ、そこには背筋をピンと伸ばして黒板を見つめる、完璧な優等生としての「黒崎煉」の横顔があった。誰もあいつの本性が、男としての重すぎる独占欲の塊だなんて気付くはずがない。
そんな時だった。前の席の男子生徒が、不意にくるりとこちらを振り返った。
「なぁ、白石。ここ、なんて書いてあるか読める? 黒板の字が眩しくてさ」
人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてきたのは、クラスのムードメーカー的な男子、高橋だった。
ただの他愛のない質問。心を閉ざしていたはずの僕だけど、普通に話しかけられたことに少し動揺して、「あ、えっと……」とノートを差し出そうとした、その時。
カツン、と隣の席から硬い音が響いた。
煉がシャープペンシルを机に置いた音だった。
高橋は気付いていない。けれど、僕にはハッキリと分かった。
煉の切れ上がった瞳が、一瞬でハイライトを失い、ドロリと昏い濁りを帯びて高橋をじっと見つめている。あいつの周囲の空気だけが、一気に氷点下まで下がったかのような強烈な威圧感。
「あ……、いや、やっぱり大丈夫だわ! 自力で何とかする!」
高橋が、本能的な恐怖を察知したように顔を引きつらせて、慌てて前を向いた。
僕は冷や汗が背中を伝うのを感じながら、そっと煉の方を見る。
煉は再びシャープペンシルを拾い上げ、何事もなかったかのようにノートを取り始めていた。
だけど、あいつの左手は、机の下で僕の制服のズボンの裾を、ぎゅうっと強い力で握り締めていた。
それは、他の男と喋るなという無言の警告であり、今すぐここで僕を自分のものだと叫びたい衝動を、必死に抑え込んでいるような、痛いほどの強さだった。
『律が怖いと思うことは、したくない』
昼休みにそう言って手を震わせていたあいつが、僕の知らないところで、これほどまでに暗い狂気を孕んだ独占欲を爆発させている。
嫌だと思わなければいけないのに、その重すぎる愛の重圧に、僕の心はまた歪な安心感を覚えてしまっていた。
その日の放課後、チャイムが鳴り響いた瞬間、僕の腕はガシッ、と強い力で掴まれた。
昼休みのように逃げる隙さえ与えられなかった。
「……きて、律」
煉の声は、今まで聞いたことがないほど低く、ひび割れていた。
クラスメイトたちが驚いたようにこちらを見る。だが、煉は完璧な笑顔を浮かべ、「白石くんに、委員会の手伝いをお願いしちゃった」と澄んだ声で嘘を吐いた。誰もあいつの長い指が、僕の肉に食い込むほどの力で手首を圧迫していることには気付かない。
連れてこられたのは、旧校舎の奥、さらに使われていない暗い物置部屋だった。
バタンと扉が閉まり、鍵がかけられた瞬間、僕は煉によって埃っぽい床へと押し倒されていた。
「な、に、するんだよ、煉……っ!」
「……高橋と、何をお喋りしてたの?」
上から僕を見下ろす煉の瞳には、ハイライトが一切なかった。
その顔は、嫉妬と独占欲で完全に猛獣のそれだった。
「ただ、黒板の字を聞かれただけで……っ」
「嘘だ。あいつ、律のことを見て笑ってた。律も、あいつに優しくノートを見せようとしてた……!」
煉の大きな手が、僕のシャツの襟元を掴んで乱暴に引き剥がす。
昼休みにあれほど「怖いと思うことはしたくない」と震えていた理性が、跡形もなく吹き飛んでいるのが分かって、背筋に強烈な悪寒が走った。
「嫌だ……、怖いよ、煉……っ」
僕が小さく身を縮めると、煉の動きがピタリと止まった。
『怖い』という言葉に、あいつの脳に冷や水が浴びせられたように、煉の瞳に絶望と激しい葛藤が走る。
「あ……、ごめん、律、ごめん……っ。怖がらせたくないのに、僕、またお前を傷つける……っ」
煉は僕のシャツを掴んだまま、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。独占欲で頭が狂いそうなのに、僕を大事にしたい気持ちが強すぎて、自分自身の醜さに引き裂かれそうになっている。そのあまりにも重く、歪な愛の姿に、僕の胸は激しく締め付けられた。
泣きじゃくりながら、僕の顔を愛おしそうに、でも壊れ物を触るように両手で包み込んでくる。
そんな煉を見つめながら、僕の頭の中はぐじゃぐじゃにかき混ぜられていた。
嫌じゃない。あいつのこんな狂った独着が、心地いいとさえ思ってしまう。
でも、これは本当にあいつを『好き』だからなのか?
ただ、誰かにこれほどまでに執着され、必要とされることで、自分の汚い存在を許されたいだけなんじゃないか。あいつの体温に依存して、過去の傷を舐め合っているだけなんじゃないか。
「ねえ、律……。僕のこと、好き? 好きって言ってよ、お願いだから……」
縋り付くようにキスをねだり、泣きながら僕を乞う煉。
本当の気持ちが分からない。恋愛なのか、依存なのか、それともただの共依存の地獄なのか。
何も分からないまま、僕は煉の背中にそっと手を回し、その引き締まった身体を強く抱きしめ返した。
「……わからないよ、煉」
僕のずるくて、汚い告白の言葉は、煉の熱く、激しいキスによって、一瞬で溶かされて飲み込まれていった――。
コメント
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うわ、すごい…煉くんの独占欲の描き方、狂気と哀しさのバランスが絶妙だね。昼休みに「怖がらせたくない」って震えてたのに、放課後にはあの豹変。でも泣きながら律を求めるギャップが、逆に「本気で愛してる」って伝わってくる。律くんの「わからない」も、依存なのか恋愛なのか、自問しながら抱きしめ返すところが苦しくて美しかった。続きが気になる…!