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注意、オメガバース
なつが笑ってるときほど、
俺は、怖くなる。
どんなに明るい言葉を並べても、
その目の奥が笑っていないのを、
俺はもう、知ってしまったから。
「今日も配信おつかれ」
「うん、楽しかったね」
帰り道。
なつの声が少し掠れてる。
少しの沈黙。
いつもより長い夜。
「……なつ」
「ん?」
「無理、してない?」
そう聞いた瞬間、
なつはほんの少しだけ、
目を見開いて笑った。
「するわけないじゃん、俺だよ?」
その笑顔が、いちばん痛い。
──俺は知ってる。
なつが“Ω”であることを。
それを隠すために、どれだけ自分を抑えてるかも。
学校でも、配信でも、
完璧な「なつ」でいようとする姿が、
見ていられなかった。
***
夜の廊下で、ひとり。
なつがうずくまってた。
名前を呼ぶと、ゆっくり振り返る。
「……いるま、来なくてよかったのに」
「来なかったら、お前、また倒れてた」
なつは視線を落としたまま、
かすかに唇を噛んだ。
「俺、もう壊れてるのかも」
「違う」
「違わないよ。αの前でこんな弱い顔、したくない」
その言葉が、胸に刺さる。
ゆっくりしゃがんで、
なつの視線と同じ高さになる。
「俺は、お前をαとして見てない」
「え……?」
「“いるま”として、そばにいる。
それじゃ、だめか?」
なつが小さく息を飲む。
沈黙のあと、かすれた声で言った。
「だめじゃない。……けど、怖い」
「怖くても、手は離さないよ」
その瞬間、
なつの肩が震えて、
小さな嗚咽がこぼれた。
「……ごめん」
「謝んな」
俺はそっと、その肩を抱く。
温度だけを確かめるように。
外では風が吹いてた。
静かな夜に、
二人の息が混ざる。
この世界がどんなに歪んでいても、
この瞬間だけは、
“俺たち”のままでいたい。