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#いんく
華一
608
꒰ঌソラ໒꒱
1,006
むあ 🐻❄️🍀︎

109
雨音が土牢の中に響いている。目を開けると、天井から水滴がぽたぽたと落ちていた。硬い床に横たわっていたせいで、全身が痛む。ゆっくりと体を起こすと、冷たい石壁が視界に入った。
(ここは……どこだ?)
記憶が曖昧だ。確か僕は交差点で信号待ちをしていて、突然車が――いや、待てよ。それ以前の記憶もある。自分が高校二年生の「大西勇」という名前であり、交差点で交通事故に遭ったことを思い出す。では、なぜこんなところにいるのか?
右手で頬を触ると、見覚えのない傷跡があった。異変を感じて立ち上がり、土牢の中を見渡す。壁には無数のひっかき傷があり、薄暗い灯りが隅々まで届かない。明らかに普通の場所ではない。
ふと自分の手を見る。この骨太な指先、短く刈られた爪、そして手の甲にある火傷の跡。自分のではない。確かに感じるのは「倉木俊之助」という名前だ。十五歳の少年、織田信長配下の足軽だと本能で理解している。
「倉木俊之助……俺は、転生したのか?」
そう呟いた瞬間、土牢の重い扉がぎしぎしと音を立てて開いた。明かりとともに現れたのは、真紅の陣羽織を着た若者だった。彼は片手に松明を持ち、もう一方の手で刀の鞘に添えている。
「起きたか、俊之助」
その声には、鋭利な刃のように冷徹さと温かな情熱が混在していた。目の前に立つ青年こそ、織田信長だということを僕は瞬時に悟った。
信長は土牢の中に入ってくる。周囲に護衛はいない。ただ一人だ。
「殿が何故このような場所に!?」と反射的に声が出た。それは現代の知識ではなく、「俊之助」の記憶から出たものだ。
「お前が予見した『事』について話がある」
信長は座るよう促し、僕の隣に腰を下ろす。
「昨夜、お前が倒れる前に何か見たと言っていたな」
そうだ、思い出した。俊之助は未来を垣間見る力を持ち、その力を恐れた父によってこの土牢に幽閉されていた。直近では、桶狭間で今川義元軍との決定的戦闘を予見している。永禄三年五月十二日、ちょうどこれから桶狭間の合戦が行われる七日前のことだ。
「申し上げます」
喉の奥から血の味がした。これがここに閉じ込められていた証だ。
「今川軍は遠乗り中で油断しております。主君、これは奇襲の好機です。しかし……」
この情報は信長にとって既定路線かもしれない。僕自身の知識として「桶狭間の戦い」では信長が奇襲により勝利したことは知っている。だが俊之助の記憶によれば、彼の予見はもっと具体的で危険なものだった。信長は油断して大敗を喫する可能性もある。
「しかしどうした?」
信長は身を乗り出して尋ねた。その瞳には、未知への渇望と計算高い鋭さが同居している。
「もし我々が通常通り動けば、大雨の中で全滅いたします。数は今川軍の十分の一以下。正面衝突は愚策です」
僕は俊之助の恐怖に共鳴しながら話した。
「ですが……私は夢で別の道を見ました」
僕の頭の中には、現代で学んだ歴史と俊之助の予知能力が融合していく奇妙な感覚があった。これは単なる転生ではない。過去を変えられるチャンスなのだ。
「ほう」
信長は目を細めた。
「ならばその道を示せ。雨の中を抜ける方法があるなら教えろ。ただし嘘であれば……」
信長の指が自らの首筋をトントンと叩くジェスチャーをする。死はすぐそこにあった。
「南側の湿地帯には抜け道があります」
僕は俊之助の地図を頭に浮かべて説明。
「通常兵は避ける泥沼ですが、馬や重装備だけが通れぬ狭い獣道です。三百人ほどの小規模精鋭であれば、敵の背後に出ることができます」
信長の顔色が変わった。
「湿地帯だと?誰も知らぬ道だ」
「この地方の猟師だけが使う秘密の経路です。私も数年前に偶然発見しました」
俊之助の記憶が鮮明になる。
「ですが……」
ここでためらいが生まれた。未来を知っている僕だからこそわかること。あの獣道は確かに敵の背後に出ることができるが、実は大きな落とし穴がある。
実際に使われたかどうかの詳細は伝わっていないが、史料によれば信長の精鋭部隊はもっと北側の山岳ルートを取って成功したとされる。つまり、この情報は間違いなくリスクを伴う。
「なんだ?」
信長は苛立ちを見せずに促した。珍しいことに彼は耳を傾けてくれている。
「あの道は……急流です。万が一崩れれば谷底に真っ逆さま。成功しても撤退ルートを確保しない限り孤立します」
正直に言ったほうが良いと思った。僕が知る史実より危険度が高いが、同時に勝率も上がる可能性がある賭けだ。
信長はじっと僕を見据えたあと、突然笑い出した。
「面白い!普通なら絶対選ばん道だ!だが……」
彼は土牢の外を指差した。
「お前が言う以上、試す価値はある」
驚愕した。この若き主君は未来の天才軍師明智光秀さえも凌ぐ決断力を持っている。だが同時に疑問も湧いた。
(信長はすでに光秀と相談済みなのか?なぜわざわざ僕のような幽閉中の小姓に聞く必要が……)
「今日はもう遅い」
信長は立ち上がった。
「明日、明智と共に再び来る。詳細を聞かせろ。お前を信じるに足る理由があれば解放する。証拠がないなら……」
彼は再び口元を引き締めた。解放されなければ僕は生き延びられないだろう。
「承知しました」
信長が去った後、ひとり残された土牢内で思考が巡る。この時間旅行はまさに命懸けのギャンブルだ。僕の意識は確固たるものになっている。「桶狭間の戦い」を知っていながら変えられるのは今しかない!
コメント
1件
ちょっと柚木さん!!第1話からめっちゃ熱い展開すぎるんだけど😭💕✨ 転生したら戦国時代の足軽で、しかも信長と直接対話してるの胸アツすぎる…! 「南側の湿地帯」の抜け道、信長の「試す価値はある」の決断力、カッコよすぎて震えたよ🫦 俊之助の予知能力と現代知識の融合、これからどう歴史を変えていくのかマジで気になる…! 続き早く読みたいです〜〜〜!!🌸