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翌日、惣一郎さんは仮の姿で昇降口の階段に座っていた。足元ではまた蟻が巣穴に入れずに右往左往していた。私はその隣に座ってオレンジジュースのプルタブを開けた。
プシュ
するとこの前と同じように惣一郎さんは感情の乏しい面持ちで私を見遣ったがすぐに地面へと視線を落とした。顔料塗れの指先が器用に巣穴の周りに小石の城壁を積み上げてゆく。巣穴から顔を出した蟻が堆うずたかく積まれた壁によじ登ろうとしたその時、手のひらがそれをいとも容易く崩した。
その姿に私は異様なものを感じたが、もう一度振り向いた気怠げな笑顔がその違和感を払拭した。
「天気が良いですね」
「はい」
「今日も遅くまで制作に励むんですか」
「もう、間に合わなくて」
「そうですか」
惣一郎さんはベージュの帽子を脱ぐと二人の口元を隠して口付けた。オレンジジュースの缶が傾き地面へと滴り、蟻たちはその甘ったるい匂いに誘われて右往左往した。
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微風が木立を揺らした。