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「おかしいだろ!?」
「おかしいな」
「おかしいですね」
翌日の昼、ライナー・ホワイトは食堂で2人の友達に昨日の流れを話した。結果3人の見解は一致、どう考えてもおかしい。
「正直言ってお前にアイリスディーナ王女と付き合えるだけのスペックはない。俺ですら怪しいレベルだぜ?」
そう言うのはスカル・オルジャン。オルジャン男爵家の次男坊で、外見は長細くておしゃれに気を使っているがセンスは悪いが、遠くから見ると雰囲気イケメンに見える。
そんな彼だが当然彼もアイリスディーナ王女と付き合えるだけのスペックはない。なぜならライナー・ホワイトと同じカーストにいる人物だからだ。
「ホワイト君が付き合えたんなら自分もいけたかもしれませんね。あー、自分が告白すればよかったなぁ」
そう言うのはトリス・トラム。トラム男爵家の次男で、外見は小さくごつい。全体的にゴツい人物だからだ。遠くから見ても近くから見てもどの角度から見ても、まるで彫刻のような強面だ。
当然彼もアイリスディーナ王女とは到底釣り合わない底辺カーストである。
ライナー・ホワイトも底辺カーストである。キルゲ・シュタインビルドに切り裂かれた腕と左目は修繕している。
「いや実際いいもんじゃないよ。なんか裏がありそうで怖いし、そもそも住む世界違うわけだし」
「だろーな。お前に俺みたいな器量は無いし、もって一週間ってところか?」
「3日ぐらいでしょう、周りを見てください」
トリス・トラムの言葉に周囲を見渡すと、食堂の人間がそれとなくライナー・ホワイトを見てヒソヒソ話していた。
『ほら、あれが……』
『嘘ー! なんか普通……』
『何かの間違いじゃ……』
『あ、私ありかも……』
『えー!』
とか。
『弱み握って脅したらしいぜ……が言ってた』
『マジかよあいつ絶対殺す……』
『演習で事故に見せかけて……』
『ここでやらなきゃ男が廃る……』
とか。
ライナー・ホワイトは耳がいいからほとんど聞き取れる。
「ん、どうした?」
「なんでもないよ」
「でも本気でどうしよう。告白してすぐ僕のほうから別れ切り出すのっておかしいし」
そもそも王女振るのはまずい。底辺カーストとして、そもそも付き合った時点で良くないが、しかし陰からこの国の是正する存在として表に近づきすぎると火傷するだろう。
「いいじゃん、付き合えば。あわよくばいい思いできるかもしれないぜ」
ニヤつきながらスカルが言う。
「ですね。たとえ間違いでも王女と付き合えるんですから、多少の障害で怯んではもったいない」
「そういうわけにもいかないんだよなぁ」
こうしている間にも噂は拡散され、隠れ蓑として選んだ底辺カーストから怪しい人物になってしまう。
「しかしこういう結果になったのであれば、罰ゲームのことは隠さなければなりませんね」
とトリスが言う。
「だね。バレたら面倒なことになりそうだ。だから頼むよ、特にスカル」
「俺? 俺は漏らさねーよ?」
「もちろん自分も漏らしませんよ」
「マジ頼むからな」
ライナー・ホワイトは溜息を吐いて、日替わり定食980キューズの貧乏貴族コースに手を付ける。
早く食べて居心地の悪い食堂から出よう。
と、その時。
ライナー・ホワイトの向かいの席に日替わり定食100000キューズ超金持ち貴族コースがメイドたちによって手際よく並べられた。
そして。
「この席、いいかしら?」
アイリスディーナ王女の登場だ。
「座ればいいと思うよ」
ライナー・ホワイトの答えを待アイリスディーナ王女に言った。
「ありがとう! 嬉しいわ!」
と彼女は席に着く。
「天気いいよね」
とりあえず天気の話でもふっときゃ間はもつでしょって感じのライナー・ホワイト。
「そうね! とても良い天気だわ! 天気が良いと気分も明るくなる気がするわ」
と明らかに好意的な会話が続く。
彼女は美しい所作で豪勢な昼食に手をつける。
王女はマナーがいい。下級貴族は所詮平民に毛が生えた程度だ。
「超金持ち貴族コースってやたら量多いよね」
「ええ、いつも食べきれないわ」
「もったいないね」
「本当はもう少し下のコースでいいんだけれど、私がこのコースを頼まないと皆が頼み辛くなるから」
「ああ、なるほど。食べきれないならもらっていい?」
「ええ! どうぞ! ぜひぜひ。捨ててしまうのは勿体ないから、食べてくれると助かるわ!」
「ああ、マナーとか気にしなくていいよ。所詮下級貴族の席だしここ」
ライナー・ホワイトはアイリスディーナからメインディッシュの肉を強奪し文句が出る前に頬張る。
「肉もらうね」
「どうぞ」
「魚ももらうね」
「ええ」
(君のおかげで僕の腹は至福だ)
アイリスディーナに対するライナー・ホワイトの態度は昨日から一貫して超適当である。
なぜなら。
作戦『悪いところ見せて恋人破棄させる計画』の実施中だからだ。
「……とても良い食べっぷりね」
「ごちそうさま、じゃあまたね」
「ちょっと待って!」
食うもん食って流れるように立ち去るプランは失敗、ライナー・ホワイトは仕方なく席に着く。
「あなたって午後からの実技科目は王都舞踏流だったわね」
「そだねー」
この学園は午前の基礎科目と午後の実技科目に分かれる。
基礎科目はクラスごと、実技科目は選択式でクラスも学年もごちゃ混ぜ。数多の武器流派から自分に合った授業を選ぶわけだ。
「私も王都舞踏流だから一緒に受けようと思って」
「いや無理でしょ、だってライナー・ホワイトAクラスじゃん。僕Eクラスだし」
舞踏流はかなり人気の授業で、Aクラス50人でなんとEクラスまである。AクラスからEクラスは実力ごとに分けられて、ライナー・ホワイトは入学して間もないこともあってまだEクラスだ。最終的にはCクラス辺りに落ち着こうと思っている。
「私の推薦でAクラスに席を空けてもらったから大丈夫よ」
「それは大丈夫じゃないやつだ。僕は知っているからな」
「なら私がEクラスに行こうかしら?」
「やめてくれ、僕の立場がなくなる」
「2つに1つよ、選びなさい」
「いや」
「王女命令よ」
「Aクラス行きまーす」
こうしてライナー・ホワイト昼食は終わった。
◆
「来ましたね。アイリスディーナさん」
「ああ、キルゲさん。どうですか? 午前の自由気ままな校内見学は」
「とても有意義でしたよ、とても。学ぶべきことが多くて私としても新鮮でした」
「それは良かったです。ぜひ、舞踏流も見て行ってください」
「はい、そうさせてもらいます」
アイリスディーナは察した。
『あ、これ完全に無意味な時間を過ごして飽き飽きしている』と。
「お久しぶりです、ライナー・ホワイト君」
「すみません、初対面ではないでしょうか?」
「失礼、貴方と似た方と間違えてしまいました。初めまして、ライナー・ホワイト君」
(何この茶番……全部知ってる私はなんて表情すれば良いのかしら。は、話し合わせられるかしら)
キルゲ・シュタインビルドは普通に挨拶し、ライナー・ホワイトは演技をして対応する。そしてアイリスディーナは黙って苦笑いを浮かべている。
「おお、広いな」
ライナー・ホワイトは王都舞踏流Aクラスの教室に入ってまず言わずにはいられなかった。
例えるならデカい体育館、当然更衣室、風呂、軽食場他色々完備で、扉はメイドさんが開けてくれる人力自動ドア仕様だ。 ちなみにEクラスは雨の日も風の日も屋外である。扉がないからメイドさんいらずだ。
ライナー・ホワイトは絡まれないように素早く着替えて、隅っこでアイリスディーナを待った。
しばらくして、
「軽く身体をほぐしましょうか」
と舞踏流の道着に着替えたアイリスディーナが登場。
女性用のそれは深いスリットの入ったスカート姿で、装飾のないチャイナドレスをイメージすると近いだろう。色は黒。舞踏流は色ごとに強さを分けていて、黒が最も上で、白が最も下だ。
当然ライナー・ホワイトは白、この教室でたった1人の白、目立ちまくる。
ライナー・ホワイトは敵意7割、好奇心3割の視線を無視して、軽い動的ストレッチを行った。
「……なるほど」
(確かに技術的に光の帝国と似た部分がある)
アイリスディーナはキルゲ・シュテルンビルトから教えられた方法でストレッチを行う。
二割の世界でも運動前に身体をほぐすといいことは広く知られているが、ほぐし方はまだ確立されておらず皆独自のやり方でほぐしている。
地球からの転生者であるライナー・ホワイトはスポーツガチでやっていながらストレッチを舐めてる奴は必ず身体を壊すことを知っている上、転生前も鍛えていたから柔軟はしっかりとしている。
この二割の世界は魔力で無理やりなんとかしていたりするけど、それでもパフォーマンスには影響する。
アイリスディーナはキルゲ・シュテルンビルトから前払いとして、光の帝国の保有する技術の一部を報酬の一部を受け取ってる。だからストレッチの方法なども似ていふと判別できた
そうこうしているうちに授業が始まった。