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人通りの多いこの街にも、あまり人が近づかないような場所は必ずある。
そういう場所では必ずと言っていいほど、よくないことが起こる。
しかしこの世界の住民は、現実に生きる者から見ると、異常なほどに、心が広く純粋だ。
みんながお互いを信頼し合って生きている。
その証拠に、この街で犯罪は滅多に起きない。
犯罪が起こるとしたら、それは魔王軍の仕業だろう。
しかし、この街に魔王軍はもういない、なぜならヒスイという一人の転生者によって魔王は退治されたからだ。
そして、その救世主は今、その舞台を突き落とされる危機に瀕している。
救世主が、突き落とされる瞬間に、救世主という称号の最後を、私は目の前で見られるかもしれない。
思わず笑みが零れるのをグッと抑えて、遠くの方を睨む。
「どこで待ち合わせなの?」
「ここ、ここの路地だよ。」
この街に似つかわしくない、薄暗くて、細い路地だ。
周りの建物が、入り組んで、迷路にある通路のようになっている。
ジグザグして、いかにも歩きにくそうだ。
「トウカちゃんは、ここで待っててくれる?
私、行ってくるから。」
「わかった、行ってらっしゃい。」
道行く人を目で追いかけながら、手だけをヒスイに振った。
転生者とやら、どんな子なのかしら。
正午を知らせる鐘が、中心街に鳴り響いた。
***
路地の入口から、転生者アイラを待つヒスイの背中を眺める。
彼女はどこか落ち着かない様子で、周りをキョロキョロと見渡している。
すると、突然路地の奥から足音が近づいてくる。ヒスイは、びくりと肩を震わせる。
それと同時に、ふわりと甘い香水の香りが漂った。
「こんにちは、ヒスイさん。」
「う、うん。それで、なにか用事かな?」
ヒスイの問に、アイラはニヤリと笑った。
「用事があるのはね、私じゃないの。」
「そうなの? なら、誰が…。」
笑みを崩さないまま、アイラは後ろの方へ視線を向ける。
彼女の後ろに現れたのは、鋭い目付きでヒスイを睨みつけるハルカだった。
彼の目はどこか虚ろで、糸で吊るされた操り人形のようだった。
その姿に、ヒスイは小さな悲鳴を上げる。
「ヒスイ、君、アイラをいじめたんだってね。」
「違うよハルカ、なにか誤解してる。」
動揺するヒスイに、追い討ちをかけるように、わざとらしく悲しそうな顔を見せる。
「違くなんかない! ヒスイったら、私の事殴ったの!酷いこともたくさん言われたのよ!」
アイラの顔は、憎悪で歪んでいて、叫ぶようにハルカに訴える。
「外では救世主です、なんて顔して、私でストレスを発散してたのよ!そうに決まってる!」
だんだんと、ハルカの眉間にはシワが寄っていき、ヒスイの顔は青ざめていった。
「違うよ!ハルカ、お願い!私は__」
「君は、そんなことする人じゃないと思ってた。」
ハルカが、ゆっくりとヒスイに歩み寄る。
「ハルカ?」
「アイラが味わった痛み、君に体験させてあげるよ。」
「やめて、」
後ずさるヒスイの腕を掴み、ハルカは拳を振り上げる。
ヒスイの抵抗も虚しく、彼の拳はヒスイの腹部に直撃した。
声にもならない悲鳴を上げて、ヒスイはその場に崩れ落ちる。