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美和さんが帰って、孝介と二人きりになった。

もう一度孝介に「働きたい」と伝えよう。

タイミングを見計らっていた。

孝介は自分の部屋にいる。


何をしてるかわからないし……。

夕食後、少しお酒が入っている時に話をしよう。


美和さんが作ってくれた夕食をただ温め、テーブルに並べる。

孝介の部屋をノックし

「夕ご飯だよ」

声をかけるも返事がない。


ただ扉の向こうで物音がしたから、リビングへ来るだろう。


しばらくすると彼が部屋から出てきて、イスに座った。


「お酒は飲みますか?」


「ビール」


「はい」


ビールをグラスに注いで彼の前に出すと、それを彼は勢いよく飲んだ。


「はぁ……。一日休んだだけだと、休んだ気にならないな。明日も仕事だし」


美和さんが作ってくれた料理を食べながら彼がポツリ呟いた。

明日も仕事なんだ。良かった。


「そうなんだ。お疲れ様です」


いつ伝えよう。

ドキドキしていた。

ただ「働きたい」と夫に伝えるだけなのに、こんなにも緊張してしまう。

食が進まなかった。


「ご馳走様」

彼が食事を終え、席を立った。


「孝介。ちょっと話があるの」

彼を引き止める。


「なに?疲れてるんだから早く言って」


怪訝そうな顔。

彼に聞こえないように一呼吸した後

「私、働きたいの。家事は……。ほとんど美和さんがやってくれるし。もちろん、パートとかで良いから。何か、私にできることをしたくて……」


孝介の目を見ることができなかった。

どんな反応が返ってくるだろう。


彼の顔を見ようとした時――。


バシッと音がし、同時に頬に痛みを感じた。

その衝動で顔が自然と右を向いた。


えっ……。

今、殴られた?


その衝撃に驚いていると

「ふざけるなよ!自分の立場をわきまえろ!前にもこの話はしたよな?お前がパートなんかして、それを知り合いに見られたらどうするんだよ!九条家の嫁が働いてるって……。貧乏だと思われるだろうが!会社のイメージだって悪くなるし……。親父にも迷惑がかかる。俺が不自由な生活をさせてるって勘違いされるだろうが!」


リビングに響き渡る声で怒鳴られた。

もし反抗したら……。また殴られるのかな。



「ご……めんなさい」

昔のような言い返せる強い自分にはなれなかった。


「二度と同じ話をするなよ?バカが……。なんでこんな女と結婚したんだろうな」

捨て台詞のように吐き捨て、彼は自分の部屋に戻って行った。


殴ったことは、何とも思わないの?

やりすぎたとか、感じないの?


彼がその場からいなくなり、段々と痛みが増す。

頬に触れてみる。熱い。

口の中、切れたのかな。少し血の味がした。


暴言は言われたことがあるけど、暴力は初めてだった。

これってDVってやつ……?だよ……ね。


私は呆然と立ち尽くしていると、孝介が部屋から出てきた。

ボストンバッグを持っている。

彼は無言で玄関へ向かった。


「どこに行くの?」


「気分転換。実家に帰る。今日は実家に泊って、明日は実家から出勤するから。明日は会議で遅くなるし、明後日の朝には帰る」


私の顔一つ見ないで、彼はスタスタと歩き、靴を履き始めた。


私のさっきの言動が原因で実家に帰るってこと?

そんなに悪いこと、私、言った?

ここはもう一度謝って、引き止めた方が良いの?


グルグルと頭の中で何が最善なのかを考える。


「孝介、ごめんなさい。あなたの立場とか……。考えられなくて。謝るから……」


彼の背中に伝えるも、振り返ることなく玄関の扉が<ガチャン>と音を立て、閉まった。


力が抜けて、その場にストンと座り込む。

しばらく動けなかった。



孝介から連絡がなく、次の日を迎えた。

鏡で自分の顔を見てみると、腫れていた。触れると痛い。

今日は特に何もすることがない。孝介も明日まで帰って来ないと言っていた。お昼を過ぎても、家政婦さん《美和さん》が来ないということは、本当に帰って来る気はないのだろう。


どうしよう。

義母さんには一応、謝っておいた方が良いよね。

嫌だけど、私のお母さんに直接嫌味とか言いそうだし。


深呼吸をして、義母へ電話をする。


<もしもし?>


「あっ。申し訳ございません。今、お時間大丈夫ですか?」


<ええ。大丈夫よ。どうしたの?>


声からして、義母の機嫌は至って普通そうだった。


「申し訳ございません。孝介さん、昨日そちらに帰られましたよね?」


<孝介?帰って来ていないけど……>


えっ?実家に帰るって言ってたのに。

ビジネスホテルとかにでも泊ったのかな。


<孝介がどうかしたの?>


「いや。あの……。私が孝介さんの気持ちに寄り添うことができなくて。ケンカのような形になってしまい……」


余計なことを言ったら、また怒鳴られる。


<夫婦ケンカをしたってこと?あなたもいい加減、一流企業の妻として自覚を持ったらどうなの?夫を立てることができなさすぎるのよ>


義母さんの愚痴はさらに続いた。

申し訳ございませんと何度謝ったことだろう。

内容は頭に入ってこなかった。


孝介、出勤していなかったら私に連絡が来るだろうし。

普通に仕事しているんだろうな。どこかに泊ったんだ、きっと……。

お金は持っているはずだし。


ふぅと溜め息をつく。

こんな生活、いつまで続くんだろう。


孝介、私のことがそんなにも不快なら、離婚してくれればいいのに。

喜んで受け容れるけどな。


ソファに倒れ込み、何もやる気が起こらなくてずっと天井を見つめていた時だった。携帯が鳴っている。


電話?

着信相手を見ると――。

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