「……この話は、誰にもしたことはないんだ。だが君にだけは、聞いてもらいたくてな」
「……はい、話していただいて、ありがとうございます」
彼が伝えてくれた、その思いの全てを、受け留めたいと感じた。
「それと君に話したのは、もうこれで、彼女のことは忘れてしまおうと思っていたからなんだ……。ずっと心の奥に私一人で抱えていたことを、君に打ち明けて、それでもう忘れようと……」
「忘れてって、どうしてです……?」
不思議にも思い、そう聞き返した。
「忘れた方がいいだろう? もう彼女のことは消し去って、これからは君と……」
「いいえ!」と、首を横へ振った。
「忘れるだなんて、思い出を消し去るだなんて言わないでください」
何度も繰り返し首を振った。
「……忘れないでいてください。私は、あなたの思い出を妬くことなんてないですし、何よりそんなにも愛されていた人を忘れてしまうだなんて、そんなことを言わないで……」
涙が溢れそうになって、言葉が途切れた。
「……私は、思い出を大事にしているあなたを、そんなあなただから、愛しているので。だからどうか、いつまでも忘れたりしないでいてください……」
「……そう、か……」
彼が一瞬声を詰まらせて、
「……ありがとう。私は、君と出会えて、本当に幸せだよ」
ふっと柔らかに顔をほころばせると、そのあたたかな腕にぎゅっと私を抱き締めた……。
コメント
2件
過去も含めて、陽介さんを受け止められる本当の意味で大人。かっこいいです❗️
亡くなってしまった人を忘れるのは悲しい😢