驚いた。しんの助は、小中高と同じ学校に通ってきた6年来の友人である。示し合わせてもいないのに、分かった時はびっくりした。
何故彼の名が。もしかして、ここのどこかにしんの助も居るのか?
俺は、つい、居ても立っても居られなくなり、直ぐにここの場を走り出し、そのまま教室を出てしまった。
廊下では、さっき机の下から見た景色から、その右側の両壁に、2つの教室があるのである。奥は、狭苦しい壁になっていて。
慶年小と、全く違う。ホントでは、右壁だけに教室が並んでいて、左側は一面並んだ窓だった。___いやそれは前の学校の思い出の景色の方な気もする。___だとしても、奥は壁にはなっておらず、2つの教室が並んだ長い続きの尽きに、非常用階段の為の、重い両開きの扉がある。
俺は、右側の教室の手前の扉から身を押した。
右手には畳んだ紙とかを持ち、壁に着け、左手は開かれたドアに着けて体重を掛け、身を乗り出す。
こちら側を前に陳列する座席。手前に教卓の破片が見えて、眼前すぐにはテレビの背中。向こうを向いて、俺の視界の右側を遮っている。教卓もそれで見切れていた。
疎らに人が居て、扉が押された事による「ガバン」と言う音によって全員がこちらを見た。
しんの助は居ない。
急にその音がしたので、また鬼が来たのかと驚かせてしまったに違いない。
直ぐに足を移し、反対の教室。
ここもほとんど同じであるが、テレビは向こうで、教卓が見える。
しんの助は居ない___
___空間に圧が響く。
再び、音のようで音でない、面で押すような振動が、鼓膜を、大きく揺らした。
本当に、地震の様である。
先とは違い、反応はより意識的で、俺自身が、俺の身体を、机の脚元に向けて押していた。
右手には、畳んだ紙と、例のお守りが入っているので、人差し指、中指と、親指の三本だけで摘む。
潜った後、身体の向きを、扉側に向かわせて、捻って、回したので、最初の時と、目に映る景色が重なる。
微に、林の出口の向こう側に、反対の教室の、扉の形の黄色い漏れ日が入り込みつつ。
右手かどちらかに、お守りと一緒で持っていた先の狐面が、その拍子に、目の前に落ちていたので、咄嗟に手を伸ばし、拾って、これも、慌てて顔に嵌めた。
今回も、頭の中は真っ白で居た。
…
鬼が去る。
…
分かったかもしれない。
俺は毎回、鬼が来た時、お守りや、狐の面や、何かを教室の中で見つけ、肌に触れさして遭遇している。
さっき見た、机の上に置かれた、同じ様な何個かの小物。あれは、かどくら先生と、並びに、あの鬼の襲来から逃れた人達が、鬼が去り、立ち上がってから置いたものであると言えるんじゃ?
その上、確かに、俺は机の下に潜伏し、自分の存在を隠匿したが、何より、二度目の襲撃で、俺は、机に収まっていなかった。
…
存在が見えないことは、生存の何たるやに関係ない。
そして、小物を手にした人間以外、尽く鬼に喰われている。
…
小物の存在が、鬼を人間から遠ざけている。
…
「…まさかそんな。…できるのか?」
俺は、1つ、仮説を立てた。
もしも、それが本当であるならば、この処刑場を、抜け出す事が出来るかも知れない。
俺は、俺の右手で、
そ、っと、狐の左頬に触れた。
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