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「……蒼央さん……」
「何だ?」
「……あの、やっぱり私たちはあまり一緒に行動しない方がいいのではないでしょうか?」
これまでもああいった突撃取材はいくつかあったものの、蒼央のインタビュー記事が出てからの突撃取材はさっきのが初めてとあって、二人で一緒に居る限り噂は付いて回るのではないかと千鶴は懸念していた。
けれど蒼央は佐伯から千鶴のマネジメント業務も任されているので、彼の中で離れるという選択肢は無い。
いや、例えマネジメント業務が無かったとしても、蒼央の中で『千鶴と離れる』という選択肢はあるはずが無いのだ。
「気にする必要は無いと佐伯さんも言ってたろ? 気にすればする程、奴らの思う壺だ」
「でも……」
「千鶴は――俺が傍に居るのは、迷惑か?」
「そんなっ! それは無いです! 寧ろ、蒼央さんに迷惑がかかると思って……」
「それこそ有り得ねぇな。お前が居なきゃ、俺の仕事が無くなる。それじゃ困るだろ?」
「私が居なくても、蒼央さんのお仕事は沢山ありますよ……」
「あのな、今の俺の仕事は、写真を撮る事と、お前のマネジメント業務だ。どっちも欠けちゃいけねぇんだよ」
「…………」
言い返してきた千鶴も、その言葉を聞いた後では言い返すことが出来ずに黙り込んでしまう。
俯いてしまった千鶴の頭へ蒼央は手を伸ばすと、ポンポンと数回程優しく撫でながら、
「人の噂なんて、そのうち消える。反応しないことが一番なんだ。俺らは別にやましいことは何もしてねぇんだから、これ以上気にするな。お前のことは俺が守るから」
いつになく優しい声で、千鶴に言い聞かせた。
「千鶴、明日は久々のオフだろ? 俺もオフだし、気晴らしに出掛けよう」
「え……」
「平気だ。人の居ない場所でゆっくり過ごすだけだ。お前にとっても気分転換になると思うから」
「…………」
突然の蒼央からの提案に驚きつつも、モヤモヤが心を支配したままでは仕事にも影響が出ることを懸念した千鶴は『気分転換になる』という蒼央の言葉を信じて、小さく頷いたのだった。
翌日、昼前くらいに千鶴の自宅アパートへ迎えに来た蒼央は、遠出をするつもりなのか、高速に乗っていた。
「蒼央さん、何処へ向かっているんですか?」
「ん? まあ、少し遠いところだ」
「そうですか……」
何処へ向かっているのかが気になる千鶴は蒼央に行き先を尋ねてみるも、濁すだけで教えてはもらえず、諦めて窓の外へと視線を移していく。
それから約二時間程かけてやって来たのは北関東の観光地周辺。
時期と平日が重なって観光地でも人は疎ら。
そんな中で、蒼央は更に車を山の方へと走らせていく。
そして、ようやく辿り着いたのはあまり人が来ないような自然溢れる場所だった。
「着いたぞ」
「ここ、ですか?」
「ああ。ここから少し歩くんだ」
二人は車を降り、蒼央はトランクから荷物の入った鞄を取り出すと、それを肩に掛ける。
千鶴は小さめのリュックを背負い、二人は車を停めた場所から更に奥へと進んで行く。
今朝、迎えの時間と共に、なるべく動きやすい格好をと言われていた千鶴は黒地に無地のTシャツにピンクを基調としたチェック柄のシャツを羽織り、デニムのジーンズに黒のスニーカーというシンプルな格好をしているものの、普段こういった自然溢れる場所を訪れる機会が無いこと、少し足場が悪い箇所があったりしていて時折躓いて転びそうになる。
そんな千鶴を見兼ねた蒼央は、
「ほら、掴まってろ」
右手を差し出して自身に掴まるように言った。
そんな蒼央の言動に一瞬戸惑いつつも、状況が状況なだけに転んで迷惑をかけてはいけないと素直に差し出された手を取ると、必然的に指が絡み合い、千鶴の頬は少しだけ赤らんでいった。