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「透子さん。避けられてるかもって心配してたよ。ようやく準備出来たんでしょ? もう心配ないんじゃないの?」
「ようやく・・ね」
透子もそんな風に感じることは自然なことで。
会社でも、修さんの店でも、出来る限り透子と顔を合わさないようにした。
一番想い出のあった隣同士という部屋も、あれからしばらくしてオレは手放した。
まぁそこまですれば、さすがに透子もそう思っても仕方ないか・・・。
だけど、やっと、ようやく・・・。
「いっくん。ちゃんといっくんも幸せになってね」
「ははっ。お前からそんなこと言われるなんてな」
あんなにもオレだけだった麻弥が、今はこうやってオレを心配してそんな嬉しい言葉をかけてくれる。
一年で、オレ達の気持ちも環境もホントに変わったのが、なんか感慨深い。
「透子さん。確かあっちに・・・」
「あっ、いや、うん。大丈夫。ありがと麻弥」
麻弥が透子のいる場所を教えようとするのを、やんわり制止する。
「いっくん・・・!」
「じゃあ、オレちょっと向こう行くわ」
そう麻弥に声をかけて、言われた別の方向へと足を進める。
すると透子がいないと思っていた逆方向に行くと、そこには透子の姿があって。
そして、その隣には北見さんの姿が。
そっか・・。確かに北見さんもこのプロジェクトで関わってくれてたから、来て当然か。
久々に見る二人並んだ二人の姿。
パーティーらしいドレスを着ていつも以上に綺麗になっている透子と、その隣に並ぶ相変わらずオレには出せない大人な男の雰囲気を醸し出してる北見さん。
透子と付き合ってる頃は、二人のこんな姿見たくなかったけど、今はお互い距離を置いてそれぞれの場所にいるオレと透子は、もう今までとは当然違ってて。
あの頃のように、こうやって透子の隣に誰かいる姿を見てしまうのも仕方なくて。
ずっとプロジェクトで一緒だっただけに、二人の関係は更に前以上に深まったんだろうな、なんて思ったり。
割り切ってるつもりだったのにな・・・。
正直、今日透子に会うかもしれないって予測は出来ていたし、その覚悟は出来てたけど。
だけど、まだ今は、透子に会っても何も始められない。
だから、元々会うつもりも話すつもりもなかったけど。
そう決めていたくせに、いざ顔を見ると嬉しくて。
近くに行きたくなって、話したくなってしまう。
今オレに会ったら透子はどんな反応するだろうとか、恥ずかしがったり喜んでくれたりするんだろうかとか。
一瞬でも透子の視線に入りたくて、この目に透子を映したくて、同じ時間を刻みたくなる。
ほら、だからこういうことなんだよね。
結局透子を見たら、オレの気持ちなんて、こんな簡単にぐらついてしまう。
ただ気持ちを抑えてるだけで、そう思わないようにしてるだけで、好きだという気持ちは簡単には消えない。
だけど、少しだけホッとしている。
オレがいなくても、ちゃんと透子が透子でいてくれてることに。
この二人が一緒だった時のように、その後に透子が弱くなってしまった時のような透子では、今はもうないはずだから。
きっと透子は透子らしく、その道を歩いてるはず。
今のその透子をこうやって見ることが出来ただけでも、今日会えた意味はあったかな・・。
オレにとっても、透子にとっても、麻弥にとっても、今この時間を過ごしていることは、きっと意味があるはずだから。