テラーノベル
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俺はその日、いつもよりちょっとだけ外に出る気分だった。
理由は簡単。冷蔵庫に何もなかったからだ。
深夜二時。人も車も少ないはずのコンビニ帰り。
ビニール袋にはカップ麺とエナジードリンク。勝利確定の装備だ。
「よし、帰ってランクマ回すか」
そう思った瞬間――
視界の端に、ちょろちょろ動く影が見えた。
ネコだ。
小さくて、茶色くて、どう見ても子ネコ。
道路の真ん中で立ち止まり、キョロキョロしている。
「…マジかよ。」
嫌な予感がした。
こういうの、ゲームでも現実でも、放置すると大体バッドエンドになる。
クラクション。
振り向くと、思ったより近い距離にトラックのライト。
あ、これヤバいやつだ。
体が勝手に動いた。
俺はビニール袋を放り投げ、ネコに向かって走った。
「おい、こっちーー!」
次の瞬間、強烈な衝撃。
視界がぐちゃっと歪んで、音が遠のく。
……ああ。
これ、死んだな。
ーーーー
目を開けると、真っ白だった。
上下左右、全部白。
床も壁も天井もないのに、なぜか立っていられる。
「…夢?」
頬をつねろうとして、やめた。
夢にしてはリアルすぎるし、なにより――
「おや、ずいぶん落ち着いていますね。」
背後から声がした。
振り向くと、そこには男がいた。
年齢不詳。若くも見えるし、妙に老成しても見える。
白い服。ゆるい笑顔。
どこか場違いなサンダル履き。
「えーっと…誰?」
「私は神です。」
「…」
「今、すごく失礼なこと考えました?」
「いや、別に。」
めちゃくちゃ考えたけど。
「ここは死後の世界、という認識でだいたい合っていますよ。」
「やっぱ死んだんだ、俺。」
「はい。トラックに轢かれて即死です。綺麗な死亡でした。」
綺麗ってなんだよ。
「ちなみにネコは助かりました。今ごろ元気に鳴いてます。」
「…そっか。」
それを聞いて、妙に肩の力が抜けた。
まあ、悪くない死に方だった、のかもしれない。
「それで。」
神ーーを名乗る男が、手を叩いた。
「本題なんですが。」
嫌な予感しかしない。
「あなたに、転生してもらおうと思いまして。」
「はい?」
「異世界に行って、ちょっと世界を救ってほしいんです。」
出たよ。
「いやいや、無理無理。俺、ただの引きこもりだぞ?」
「大丈夫です。あなた、自称プロゲーマーですよね。」
「自称な!」
「問題ありません。」
問題しかねぇ。
「剣とか魔法とか?」
「いえ」
「チート能力?」
「うーん…微妙ですね。」
「ハーレム?」
「それは期待しないでください。」
全部否定された。
「説明雑すぎない?」
「細かい仕様は、転生後のお楽しみということで。」
神はニコニコしながら言う。
この人(?)、絶対深く考えてない。
「じゃあ拒否権は?」
「ありません。」
即答だった。
「ひどくない?」
「でもネコ助けましたよね?ポイント高いです。」
そんな理由で人生(死後)決められるのか。
「準備はいいですか?」
「よくないけど!?」
神が指を鳴らす。
白い空間が、ざわっと揺れた。
「では、いってらっしゃい。」
「ちょ、待ーー」
視界が白に溶け、意識が遠のく。
最後に聞こえたのは、やけに軽い声だった。
「あ、世界のことはーー行ってからのお楽しみで。」
…絶対、ロクな世界じゃない。
そう確信したところで、俺の意識は完全に途切れた。
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