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36 - 第36話 ふざけた見た目の彼奴

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2023年05月06日

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部活動対抗武術大会は、無事?に終わりを迎え、結果発表が行われているところなのだが。

「一番点数が低かったのは、サッカー部と美術部ね。じゃあそう言う事で良い?」

「待て‼美術部は一つも攻撃受けてないんだぞ‼あたしは山路に一発喰らわしてるだろ‼だから美術部は一点くらい入るだろ‼」

文華がサッカー部と美術部に聞くと、雪が右手を上げて言ったのだ。

「確かにそうね。じゃあ、サッカー部だけってことになるわね」

「よっしゃ」

文華がそう言うと、雪はバレないように小さくガッツポーズした。

「ま、どちらにせよ、サッカー部の誰かさんには、かなりの賠償金を払ってもらうけど?」

「……」

ずっと朝礼台の上を見ていた流は、左下を見た。

その時。隣にいた皐月の靴を見て不審に思ったのだ。

彼の靴は運動靴でも、サッカー部員がよく履く、スパイクでもなかったのだ。

「……おい皐月。お前なんで上靴のままなんだ?」

不思議に思い、皐月に聞いてみると、皐月は依然聞かれたかのように淡々と答えた。

「さっき美術室から下に降りてきて、外に出るとき、急いでたから、靴に履き替えるのを忘れてたんだ」

「あーなるほどな」

流は納得し、皐月の顔を見た瞬間、「菅沢君‼」とマイクを持って叫んでいる文華が目の前に来ているのに気が付いたのだ。

「うっ、うるせえ……」

「あなたが壊した第一美術室の前の扉、しっかり弁償してもらいますからね!」

文華はマイクを自分の口に近づけたまま、大声で流を𠮟りつけた。

朝礼台の上では、倫が新しいマイクをマイクスタンドに取り付けて、スイッチを入れている様子がうかがえた。

「それでは、優勝したチームには後で、景品の内容を聞いて、サッカー部にはそれを払ってもらいましょうか」

倫は澄ましたように言った後、礼を一度して、朝礼台から降りた。

「……流があそこで山路をそそのかさなかったら……山路があそこで暴走しなけりゃ、こんな事にはならなかったのに……」

「海が、私をバカにしなかったらこんなことにならなかったのにね‼」

「うっ。それは……」

「まあでもそこまで怒ってないから。もともと影の薄いアンタなんて、きっとサッカー部の部員って忘れられてるから。大丈夫だよ」

信梨が皮肉るように、バカにした顔で海の方を見た。

「何が大丈夫だよ!俺一応男子ランキング三位だぞ‼」

「でも、私は流の方が好きだもん。かっこいいしね」

「あんな性格悪いやつやめとけよ」

海は信梨に聞こえないくらいの声で呟いた。

「大体、俺ら従姉なんだから、そう言うの無いだろ」

「……――い……おい、おい海‼」

「うわっ、なんだよ雪……」

「皐月って、サッカー部なのか?」

「え?お前あいつのこと知ってるのか?」

「ああ。小学校が一緒だからな。あたし、あいつの笑ったところ見たことないんだよ」

「ふ―ん」

さも興味なさげに、海が声を出す。

「あたし、アイツずっと他の部活かと思ってたよ。ま、英才小学校の出身なら、サッカー部でも不思議じゃないがな」

「なんでだよ?」

「あたしの、いとこの兄ちゃんが言ってたんだよ。兄ちゃん、この学校出身だから。兄ちゃんが一年生の時は、サッカー部なんてなくて、英才中学校からの転校生がサッカー部を作ったんだと。その転校生、すごい無口で静かで。兄ちゃん曰く、ラトライアーの中でフランス語で静かって意味の、”カルム”って呼ばれてたらしいぜ」

「え、ラトレイアーって……」

「兄ちゃん、CIAの諜報員だからな。小学校の時に、あたしがラトレイアーに潜入した話したっけなあ。兄ちゃんも潜入捜査してたんだよ。あんまこういうの喋っちゃだめだけど、もう兄ちゃんも大学受験の頃だし。お前なら話しても良いと思ってな」

その話を近くで聞いた歩美が雪の双肩を掴んで揺らした。

「雪ちゃん、カルムって人知ってるの?」

「あ、ああ。組織に居た頃、かなり頭の切れる奴だって聞いたぞ。ボスにも素顔を隠してるって」

「お前、そいつまじかで見たことあるのか?」

「ああ、でも素顔じゃないぞ。サングラスをかけていて、黒いマスクだったな。でもある日、あいつに殺しの依頼を果たした後、青い仮面になったけど」

「……ねえ、そのお兄さんに連絡取れる?今すぐに‼」

「あ?ああ、まあできるけど、ちょっと待ってろ」

雪はジャケットに入れていたスマホを取り出し、画面を何回か触った後耳に当てた。

「もしもし、夏姫?春馬兄ちゃんに変わってくれないか?あたしの友人が兄ちゃんと話したいみたいで。うん分かった」

雪はスマホを耳から話すと、歩美に手渡した。

「もしもし?雪ちゃんのいとこの、春馬さん?ですか?」

『はいそうです』

さわやかで透き通った男の声が聞こえた時、隣で海が小声でスピーカーにしろと言っている。

歩美はスピーカーに切り替えると、雪のスマホの画面を上に向けた。

「歩美と海が、カルムってやつについて聞きたいそうだ。兄ちゃん、カルムの事知ってるんだろ?」

『ああ。俺と同い年だったよ。今頃は大学受験か、就活でもしてるんじゃないか?』

「その、カルムって呼ばれていた人は、誰か兄弟でもいたの?かなり年下の兄弟とか」

『いたよ。弟の方は米秀小学校の三年生だから……今は雪と同い年だな』

「分かりました。ありがとうございました」

歩美はそう言って電話を切った。

「んで、そのカルムってやつ、なんかあんのか?」

「なんかあんのか、じゃねえよ‼」

「雪ちゃんならカルムに会った事あるんでしょ?」

「いや、確かにそうだが……もうこの学校に居ないんだろ?」

「違うわ。兄弟がいたってことは、世代交代してるはず」

「いや、そりゃそうだろうが、あんなふざけた見た目の奴が、怖いのか?」

「……お前なあ……」

運動場のど真ん中で、雪がきょとんとした顔で佇んでいた。

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