昨日の夜はあんまよう眠れんやった。あいつ誰やとか考えよったらいつの間にか朝になっとった。そのせいで俺は勿論寝不足やから今日の授業は全部寝させてもろたわ。
前の席の真面目な男が何回か俺の肩を揺すったけどそんなんじゃ俺の眠気には勝てん。つか起こすなや。
「財前くん、財前くん」
今度は隣の席の女が体揺すりやがる。とりあえず無視を決め込んで寝てる振りをしとると、ある事に気い付いた。
昨日聞いた声とやたら似とってぱっと顔を上げて隣を見ると、やっぱり昨日の女が隣の席に座っとった。
「あ、起きた」
「え、ちょ、何でお前、昨日の」
完全に動揺した俺を見て女はくすくす笑う。
ほんまに意味分からん。なんでこいつが隣に居んねん。
「隣の席の人くらい覚えててよね」
そう言われて昨日の出来事を思い返す。
新クラスの発表の後、クラス移動して、それから名前順とか関係無く自由に座ってええって言われたから此処に座ったんやった。
でもそっから先の記憶無いわ。多分寝とったんやろ。
「自己紹介の間ずっと寝てたもんね」
「…みたいやな」
「これからよろしくね、財前くん」
昨日の丘で見た奴とは思えへんくらい明るい笑顔でにこりと笑う。あの泣きそうな顔は何やってん、気のせいなんか?やけど明るく笑うから不意にかわええななんて思ってしまって心臓が高鳴った。
「なあ、名前何て言うん」
今度は忘れないでね、と名前を言う。
俺は頭の中で名前を繰り返す。もう忘れへんと思う、そう俺が言えばこいつは嬉しそうに笑った。
「そういえば昨日はどうして丘にいたの?」
「ただ何となくや。お前は?」
「あたしね、星が好きなんだ」
それ以上何も言わんかった。
正直聞きたいことは色々あった。なんでスピカだけ俺に教えた、とかさみしそうな顔しとった理由とか。
ただ、こいつには追及させへん空気っちゅーかオーラがあった。
「毎日丘におんの?」
「雨が降らない限りはね」
「…ふーん」
そういえば、と続けて昨日の星は久々に綺麗に見えた、とか俺は昨日の星を見れてラッキーやとか。俺が聞きたいことは結局聞けそうにない。
まあいつか聞いたろと思ってLINEを追加した。
とりあえずクラスの中で初めて名前を覚えた。
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