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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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今日の夜は前々から決めとったことがあった。それは初めてあいつと会った丘に行くっちゅーことで、彼女と出会って今日で丁度一週間やった。

付き合ってるわけでもないのに記念日みたいに自分で勝手に思ってて何や恥ずかしいわ。

前と変わらず燃えるように赤かった空はいつの間にか黒く染まっていって、ちかちかと星が見えるようになっていった。

少しでも早くあの丘に着くように必死に自転車を漕ぐ。

少し錆びたタイヤがキイキイと鳴り、坂道を上るためにペダルを一気に踏み込んだ。

やっと丘の下まで着いて適当に自転車を置いた。俺はらしくもなく急いどって、少しきつい坂道をがんがん上る。

途中見上げた星空はこの間と何も変わらんかった、けど前はどの星も同じに見えとったのに今はスピカがはっきりと見える。

なんやわからんけど特別に見えるし、そういうんで俺はあいつの影響を受けとるんやと思うとらしくなさすぎて笑えてくる。

ようやく丘の上に着いて周りを見渡せば、すぐに誰かおる影を見つけた。

後ろから声をかけると、ぴくりと肩が跳ねた。何やちょっとかわいいやん、なんて思ってしもた。

「財前くんか、びっくりしたー」

「ども」

「星、見にきたの?」

「まあそんなとこや」

隣に腰掛けると、目の前には案の定スピカが見えた。相当好きなんやなって言おう思たけど、それはふいにかけられた声に遮られた。

「星見てたら寂しくならない?」

「………は?」

「広い広い宇宙があって、たくさんの星の中があるのにわたしは1人で見ててさ、」

それっきり何も言わんかった。

少し俯いて、目を伏せていた。これがあんとき泣きそうな顔しとった理由やったんやな。

この丘には灯りがなくて彼女と俺の顔を照らすのは遠くに見える目障りなネオンと優しく光る月と星だけやった。

青白い光が照らす顔はほんまに綺麗に見えた。

こいつ顔を見ながら上手く返せる言葉を探した。いつもなら女1人の為にこんなに気い遣わんのに。

「…1人やないやろ」

やっと絞り出した言葉はこれだけやった。

なさけないな、俺。

「今横に俺おるわけやし、1人ちゃうやん」

「…そっかあ」

俺は隣の手に自分の手を重ねた。

どうして自分がこないなことをしたんかは分からんけど、とりあえず1人やないって分かってほしかった。

初めは戸惑いがちやった指もいつしか落ち着いた。

「財前くん」

「ん?」

「ありがとう」

柔らかい笑顔やった。

夜空からのゆるやかな光の所為もあってその笑顔はきらきら輝いてるように見えた。

「そろそろ帰らんと」

「うん」

「多分また来るわ」

「楽しみにしてる」

それから2人でゆっくり地面を踏みしめながら丘を降りた。

こいつが此処まで歩きで来てるとか言うから驚いたわ。家が少し遠いみたいやから無理矢理俺の自転車の後ろに乗せて送ることにした。

最初は遠慮しとったけど、俺が引かんかったら諦めて後ろに座った。

後ろに誰か乗せて自転車を運転するのは初めてで、控えめに腰に回された手が心地良かった。

目の前の空にはこの前と同じようにスピカが瞬いとって、向かい風に負けんように俺はペダルに力を込めた。

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