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いつかはこの日が来るとは思っていたが、まさか修学旅行の疲れが溜まっている瞬間だとは思わなかった。
彩と母さんが会ってしまった。いずれ紹介するつもりではいたがもっとしっかりとした状況で紹介したかった気持ちもある。
和馬「夕飯俺作っていいか?」
夜麻「疲れてるんでしょ?ボクやるよ」
夜麻「それにお母さんにちゃんと説明してあげてなよ」
和馬「ああ、ありがとう」
「彩ちゃんは苗字が心なんだっけ?」
心「はい…!」
「やっぱり!前に聞いたことがあった気がしたのよ!」
「あ、ごめんないさい。私の紹介がまだだったわね」
「風間優香(かざまゆうか)よ。よろしくね」
心「優香さん…あの、間違ってたら申し訳ないんですけど、女優だったりしますか?」
「あら!まさか視聴者だったとは!」
心「じゃ、じゃあ本物って事ですか?」
「嘘つかないわよ。和馬の彼女に」
心「うち大ファンなんです!!写真一緒に撮ってもらっていいですか?!」
「もちろん!」
大興奮した彩は母さんと何枚も写真を撮った後もまだ落ち着きがなかった。
心「うち推しの子供と付き合ってるって、やばいんですけど」
和馬「俺としては複雑だ」
そう複雑だ。俺の父親は俳優だから。まあまあな人気を誇る俳優と女優が結婚して子供まで生まれたのに離婚した。離婚した理由が不倫。この話題にマスコミが黙っているわけもなく、学校や登校中、挙げ句の果てには家の前まで押し寄せてくることもあった。
彩は大ファンと言った。なら不倫のことも知っているだろう。父親は嫌いだ。だがそれ以上に人に付き纏われるトラウマが、恐怖がもっと嫌いだ。思い出すだけで気持ち悪い汗とひどい倦怠感、吐き気が身体を襲う。
夜麻「お兄?」
夜麻「母さん!お兄が!」
「和馬!」
気がつくと俺は自分の部屋のベッドの上だった。
心「あ、良かったー…!!起きた…!」
心「気分はどう?」
和馬「大分マシにはなった…」
心「まだ顔色悪いし、まだ寝てたほうがいいかもね」
心「うち優香さんに和くん起きた事伝えてくるね」
和馬「彩…!」
彩の腕を掴んで引き留めた。
和馬「もう少しだけ一緒に……」
言う途中で自分が言おうとしてる事のヤバさに気付き歯切れの悪いところで止めたが、心を読まれたのか彩は少し嬉しそうに座ってた椅子に戻った。
心「和くんってたまに甘え上手だね」
和馬「今のは忘れてくれ」
心「あのね…和くんの事色々優香さんから聞いたの」
心「今までうちは和くんにされてばっかだったから今度は…」
和馬「別にこれは俺の問題なんだよ」
和馬「父親とはもう何年も会ってないし、人に付き纏われる事もない」
和馬「それなのに今だに恐怖を拭いきれてない俺が悪いんだ。そのせいで母さんにも迷惑かけてるし…」
話が途切れると今の暗い空気に気付き、無理矢理にでも変えようと話題を変えた。
和馬「そ、そういえば彩は今日泊まるの?」
心「和くん、弱さを晒すの怖い?」
この時の彩の顔は真剣で、でも俺を心配する気持ち、それをどうにかしたい気持ちが混ざったような複雑な表情をしていた。
和馬「…怖い、のかすら分からない」
和馬「俺にとって弱さを隠すのは当たり前だから」
心「この前まではうちに失望されたくないって言ってたよね」
心「うちは和くんの事もっと知りたいと思ってるけど、多分和くんにとって人の気持ちとか関係ないんだよね」
心「自分が嫌だからって言うのが強いんじゃないかな」
心「だからうちは和くんがうちにしてくれたように」
心「そんな弱さを持ってる和くんすら大好きだよ」
和馬「…!」
心「自分の弱みを自覚して逃げるのは別に恥ずかしい事じゃないよ」
目頭が熱くなると次第に溢れ出る涙に気付き、バレないように悪足掻きに俯く。そんな俺を見て彩はゆっくり抱きしめてくれた。