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デートといえば何だろう。さっきからそればっかり考えている。恋人っぽくすればいいのか? それもよくわからん。
「ねえ、長峰ってさ――」
名前を呼ばれてふと気づく。畑中さんはいつも俺のことは名字で呼ぶ。しかも呼び捨て。恋人っていったら名前呼びか? もしも畑中さんに「遥人」って呼ばれたら……なんて想像してぶるりと身震いした。
嫌な身震いじゃなくて、もっとこう、むず痒いようなそんな感覚。これか。きっとこれだな。畑中さんを名前で呼んだらどうだろうか。矢田さんみたいに、「結子さん」って。
んんっと咳払いひとつ。
「結子さん」
「は、えっ?」
結子さんは飲んでいたビールを吹きそうになっていた。そしてなんとも言えないような表情でこちらを見る。その頬はみるみる赤く染まった。それは仕事中のレトワールでは見たこともないような戸惑いの表情。
完全に恥ずかしがっている。これは思ったよりも可愛い。こちらがドキッとしてしまうほどに。
「クリスマスケーキ、食べよっか」
言えば、真っ赤な顔でコクリと頷いた。
なんだそれ、反則だ。
先輩が可愛すぎる件について誰かと語りたいくらいの気持ちになった。矢田さんならわかってくれそうな気がする。
事前にお願いしておいたレトワールのショートケーキを運んでもらった。見た瞬間、結子さんは目を丸くする。
「これってレトワールの?」
「そ。食べたかったでしょ? 店に頼んで冷蔵庫に入れてもらってた」
「うそ。嬉しい」
「クリスマスデートっぽいでしょ?」
結子さんはブンブンと首を縦に振る。そして目をキラキラさせながら「私、こんなの初めて」と呟いた。
潤んだ結子さんの瞳が俺をとらえる。下がった目尻から涙が零れそうだ。柔らかな色のルージュがひかれた唇が小さく開く。
「ありがと……」
とても嬉しそうに微笑んだ。
その表情は今まで見た結子さんの、そのどれとも違って綺麗で尊くて、胸がぎゅっと締めつけられる。
こういうとき、なんて言えばいいのかわからない。気の利かない俺は自分の気持をごまかすように茶化した。
「ハンカチ持ってないんでマフラーで拭いてもらってもいいです?」
「泣いてないわよ、ばか」
「いてっ」
思いきりぶっ叩かれた。
ははっ、叩かれるくらいがちょうどいいや。
「あー、マフラー洗濯して返してくださいね」
「そういう一言いらなくない? 減点」
またポカンと叩かれる。全然痛くないパンチ。「まったくもう」なんて言いながら笑う。俺もつられて笑った。
結子さんとの会話は楽しくて時間が経つのを忘れてしまう。やけ酒だと言いながらも飲み方は綺麗で、見ていて飽きなかった。