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「せっかくの休みだから、君の希望を叶えたいんだが」
食事が済んで部屋へ戻ると、貴仁さんからそう切り出された。
「私がこのところ忙しくて、あまり君との時間を取れていなかっただろう?」
やや申し訳なさそうにも続ける彼に、
「だったら……、」
と、口を開いた。
「だったら、貴仁さんに部屋で本を読んでほしいです」
「えっ、本を?」と、驚いたように聞き返される。
「……そんなことでいいんだろうか? どこかへ行ったりしなくても?」
戸惑いを浮かべる彼の顔つきに、「はい!」と笑顔で頷いて見せる。
「秘蔵の洋書を見せてもらえたらって。それが一番の希望なので」
私の話に、「わかった、君がそう言うのなら」と、彼が座っていたソファーから自室の本棚へと立って行った。
もちろん一緒に本が見たいのも本心だったけれど、貴仁さん自身が言っていたように、ずっと忙しくて帰りも遅くなりがちだった彼のことを、少しでも癒やしてあげられたらと思ってのことでもあった。
数冊の洋書を手にソファーヘ腰かけた貴仁さんが、
「本当に、これでいいのか?」
そう念を押すように尋ねた。
「はい、いいんです。洋書はどれも興味深いけれど、やっぱり一人では読みにくいので」
「そうか」と、彼が笑って頷き、「では、これから見てみようか。この本は、海外の仕掛け絵本なんだ」と、色鮮やかな装丁の表紙を開いた。
「わぁー楽しみです!」と、手を叩く私を、和らいだ眼差しで見つめた彼が、
「その前に、これが必要だったか?」
そう言って、テーブルにあったある物を手にした。
「そ、それは……」と、にわかに口ごもる。
「前にも、私にこうしてほしいと言っていただろう?」
「覚えていて……」
メガネを掛けた顔で私を覗き込む彼から、はにかんで目を逸らす。
「以前に私のメガネ姿を、好きだと言ってくれたが、今でもそう思っていてくれるか?」
「も、もちろんですッ」と、勢い込んで答える。
「今でもと言うか、今はもっと、前よりもずっと、……好き」
同じような場面を何度くり返しても、やっぱりちょっと恥じらいが先に立って言葉に詰まる私に、
「そうか、嬉しい。私は、幸せだな……」
彼がふっと微笑んで、そう照れながら口にすると、レンズ越しにもその顔に仄かな赤みが差したのがわかった。