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めん「…….はぁ〜。」
突如として出た長く重いため息が、自分の口から出たものだと自覚するのに、少し時間を要した。
怖い
生まれてから一時も反抗なんてしてこなかった。
今更反抗しても、何にもならないかもしれない。
家での居場所を無くすことだって、当たり前に覚悟している。
ドズさん達と話して、決心してから
もう二度と迷わないと決めたはずなのに。
これでいいと、信じたはずなのに…..。
めん「………。」
家まで、こんなに遠かったっけ
こんなに辛い道のりだっけ
いつもなら歩いて15分か20分くらいしかかからないはずなのに。
体感何時間とも取れるほどに長い。
何千里にも感じられる。
嫌だ
明日にしようかな
ダメだ
今日すると決めた
帰りたくない
帰らなければ始まらない
もうこれ以上進めない
進まなければ終わらない
何もかも忘れたい
今までの自分があるから今の自分がある
なんで俺だけこんな想いをしなきゃいけないの?
めん「……大丈夫。」
世界中には、俺より苦しい人も何万人といるし、それでも前を向いて頑張る人がいる。
大丈夫
俺は、大丈夫。
めん「はぁっ、はっ、は……..。」
妙に息切れが激しい
そんなに険しい道じゃなかったのに….。
めん「…….ふぅ〜。」
大丈夫
絶対に大丈夫
めん「………っ。 」
足が進まない
手を伸ばせば届くそうな距離なはずなのに
すごそこにあって、ものすごく遠い
大丈夫
大丈夫だって
大丈夫だから
大丈夫
めん「ぐっ、ふ…….。」
歩く毎に身体が重くなっていく
歩けば歩くほど遠のいていくようで….
めん母「……めん?」
めん「はひっ…….?!」
自分の声とは思えないほど高く情けない声
めん「あっ、えと、こんにちは…..?」
めん母「こんにちはって…..あなた、こんな時間まで家に入らず何をしているの?」
めん「いや、その…..学校、で自習を….?」
めん母「どうして疑問系なの?」
めん「それは……。」
めん母「あと、家庭教師を雇ったから学校で自習しなくてもいいって言ったでしょう?」
めん「でも….その…….. 」
めん母「…….なにかしら?」
めん「いやっ….なんでもない、です…..。」
めん母「…..そう。」
めん母「なら早く家に入りましょう。」
めん「は、はい…….。」
言わなきゃ
向き合わなきゃ
俺ならできる
大丈夫
めん母「最近はまだまだ物価が上がる一方で嫌になるわね〜」
めん「………。」
言わなきゃ
言わなきゃ
反抗
今日中に
成長
成長しなきゃ
めん母「……聞いてるの?」
めん「ひゃいっ?!」
めん母「ちょっと….今日変よ?」
めん母「ずっと上の空…..もしかして。」
めん「……..っ?!」
バレた?
もっとちゃんとしなきゃ
だめ
こんなんじゃだめ
怒られちゃう
バレちゃう
めん母「…..好きな人でもできたの?」
めん「……….はぇっ?」
すきな、ひと?
好きな人?
違う
俺が話したいのは、そんなくだらない話じゃない
俺が話したいのは
俺は
おれは
おれ…..
めん母「ちょっと…..本当にどうしたの?」
めん母「今日変よ?」
めん母「もしかして悩みでもあるの?」
めん「なやみ…..」
悩み?
悩み……
そうだ、言わなきゃ
悩み
俺の悩み
悩み?
俺は
何に悩んで
俺
おれは……..
めん「…………あれ?」
気づいたら真っ暗だった
めん「俺、なにして…….?」
自分の部屋のベッドだ
寝てたのか?
めん「……..あ〜、だめだ……..。」
帰ってからの記憶が曖昧だ
というか、ほぼ覚えてないに近い….
めん「……何もできなかった」
俺は枕に顔を沈める
成長できなかった
それどころか、絶対お母さんに変な印象を植え付けた….
これで今より状況が悪化してしまったらどうしよう
めん「みす、した…….っ。」
段々と視界がぼやけて、鼻の奥がツーンと痛む。
そこから、枕はみるみる濡れていく
めん「こんなんじゃっ、だめ……」
めん「ちゃんと、やらなきゃ……!」
わかってるはずなのに
ちゃんと、やれるはずなのに…..。
そこから朝まで、俺は泣きじゃくった。
ただただ声を抑えて
止まらなくて
辛くて
こんな自分が嫌になって
いっそ、死んでしまえば。
そんな考えが脳裏を掠めていく。
その度に頭を振って、そんな考えを振り払う
死んじゃダメ
死んじゃったら、ドズさん達が傷つく
泣いちゃう。
…….泣いてくれたら、いいな
ドズル「あ、めん。いらっしゃい。」
めん「…….あぇ、どずさ…….?」
ドズル「え、そうだけど…..って」
ぼん「おまっ、顔色どうした?!」
どうして、どずさんたちがここに….?
あれ、おれおくじょうに…..
どうして?
さっきまでじゅぎょう、うけてて…..
もうほうかご?
あれ…..
あ、そうだ
おかあさんに、いわなきゃ
むきあわなきゃで…..
ドズル「めん?大丈夫?」
めん「…….きゃ」
ぼん「え?」
めん「いかなきゃ…..」
めん「むきあわなきゃ…..」
めん「ちゃんと…..」
めん「きたいに、こたえなきゃ…..」
ぼん「め、めんっ?!」
ドズル「待って、めん。」
めん「なに……?」
ドズル「そっちは出口じゃない。」
めん「おれ……」
めん「おれ、いかなきゃ…..」
いかなきゃ…..
そうだ
いかなきゃ
あっちに
めん「…….逝かなきゃ」
ドズル「………っ。」
ドズル「めん!!」
めん「あぇ…….?」
あたたかい
ここは?
……あれ、ドズさんの匂いがする
そっか、俺今ドズさんにハグされて……
落ち着く
ずっとここで、こうやって …….
ドズル「何があったのか、教えてもらってもいいかな?」
めん「…….俺」
めん「言おうと思ったの…..」
めん「お母さんに……。」
ドズル「何を言おうと思ったの?」
めん「家庭教師を雇って、そのせいで2人に会えなくなっちゃうの、嫌だって….」
めん「ほんとは、ドズさん達と会うために、放課後残ってるって…..」
ぼん「俺らに会ってるって言って大丈夫なのか?」
めん「わからない……。」
ドズル「それを言って、めんはその後どうするの?」
めん「…….親に。」
めん「進路のことも、相談しよっかなって思ってはいるんですけど…..」
ドズル「めんはどうして、そんなにご両親に説得しようとしてるの?」
そんなの…..
そんなの、決まってるでしょ
めん「ドズさん達と、もっとずっと一緒にいたいからです。」
あぁ、そうか
やっと気づいた。
俺は、2人が好きだ。
暖かくて、気持ちよくて、ほんの少しだけ痛い。
これが、最高に楽しいんだ。
みんなでワイワイするのも
みんなで慰め合うのも
みんなでこうやって、何もせず、何も見ず、ただただ寄り添っているだけでも
どうしてこんなにも安心するのだろう。
どうして家では、こんな気持ちになれないんだろう。
俺も、ドズさん達と住みたい。
ずっと、ずっとずっとみんなで
みんなでこのまま……
めん「んっ、んん…….?」
あれ?
俺……
ドズル「あ、起きた?」
めん「どずさ…..?」
俺いつの間に寝てて…..って
めん「はっ…….!!」
ドズル「えっ、どした? 」
めん「今、今何時ですか!!」
ドズル「え、あ、えーと……18時くらい」
めん「なっ……..。」
今日…..
今日は確か……!
めん「家庭教師、来る日……..。」
おわった
やらかした
怒られる
めん「ああぁぁぁぁ〜〜〜〜………」
ドズル「え、なになに?どしたの?」
ぼん「ドズさーん、めん起きたー?」
ドズル「あ、ぼんさん。おかえりなさい」
めん「あぇ、どっか行ってたんすか…..?」
ぼん「ん?ただ飲み物買ってきただけ〜。」
めん「そっすか…. 」
ぼん「…..はい。めんの分。」
めん「え、あ、あざます……」
ぼん「ん、こっちドズさんの。」
ドズル「わぁ〜!ありがとうございます!」
ぼん「んで、何があったの?」
ドズル「めんが起きたと思ったら驚いて溶けました。」
ぼん「わかんないけどそっかそっか。」
ぼん「で、めん。何があった。」
めん「……..今日」
めん「家庭教師、来る日……..」
ドズル「えっ。」
ぼん「やべぇじゃん…….。」
めん「怒られる…失望されっ……」
ぼん「……….。」
めん「おれ、いつの間に寝てました….?」
ドズル「えっと….僕たちも気づかない間っていうか…….。」
ドズル「まず事の経緯から話していくね」
めん「はい…….。」
ドズル「最初めんが屋上に来た時、ちょっと様子がおかしくて….」
ぼん「ずっと上の空で、目も虚ろで生気がないって感じ」
ドズル「そう。顔色も悪いし自分が今なんでここにいるのかもわかってなさそうだった。」
ぼん「何事かと思ったらいきなり『いかなきゃ』って言い出して…..。」
ドズル「行かなきゃって言う割には出口じゃなくて、あっちの柵の方向かいだしたから」
ドズル「……めんがいなくなっちゃうと思って怖かった。」
めん「ぁ……。」
ドズル「それで、咄嗟に抱きしめて事情聞いてたら…..」
ぼん「いきなり大絶叫で大号泣しだして、疲れて寝ちゃったってわけ。」
めん「そっか…….」
めん「…..すいません、心配かけて。」
ドズル「いえいえ〜……..でも。」
ドズル「あんまり色々考えすぎはよくないと思うよ。」
めん「…….そうですね。」
ぼん「こっからどうすんだ?」
めん「…….帰りたくない。」
ドズル「めんの気持ちもわかるけど、親御さんも心配してると思うし…..」
めん「……心配、してくれてるんですかね」
ドズル「……わかんないけど。」
ドズル「でも、どっちにしろ帰らなきゃなんじゃないかな。」
めん「………..あの。」
ぼん「ん?」
めん「……迷惑だったら、全然断ってもらって大丈夫なんですけど。」
ドズル「どした?」
めん「………。」
言ってもいいのだろうか。こんなこと。
明らかに迷惑になってしまう。
わかってるのに
一人じゃどうも、帰れない。
帰るまでに、また悪い考えがよぎってしまったら、次こそ止める人なんていない。
…….言うだけ、タダかな。
ぼん「めん?どした?」
めん「…….一緒に。」
ドズル「一緒?」
めん「一緒、に…..」
めん「親との話し合いに、同席していただけませんかっ…….!」
さっきから心臓がうるさい。
ドズさん達の声も聞こえなくなってしまいそうな程に。
ぼん「……俺は構わないけど。」
めん「ぇ……..?」
ドズル「うん。僕も全然いいよ。」
めん「あ、え、ほんとっすか……?」
ぼん「うん。……でも。」
ドズル「めんの親御さん方がいいのかどうかがわかんないな…..。」
めん「…….いいんです。」
ぼん「え?」
めん「……ドズさん。」
ドズル「……..?」
本当は、ずっと前から言おうと思ってた。
言い出すのが怖くて、ずっと言えないままだったけど。
俺は、ずっと…….。
めん「…….ドズさん。」
ドズル「どした?」
めん「俺もドズさんとぼんさんと一緒に住んだら、迷惑ですか?」
ドズ「えっ……..」
めん「もちろん、家事も手伝うし。 」
めん「バイトも始めて 、家計の足しに少しでもなれるように頑張ります。」
めん「全然床でも寝ます。」
めん「だから……」
めん「だめ、ですか…….?」
こんなにも求めていいのだろうか。
こんなに甘えたの、初めてだから、加減がわからない…….。
ドズル「……..大歓迎だよ。」
めん「…….っ!」
顔をあげると映ったのは
優しく微笑み、俺の目をしっかりと見つめてくれる2人だった。
初めて
2人と出会って、全部初めてだった。
初めて暖かいと感じた。
こんな視線を向けてもらえたのも
こんなに忘れたくない、手離したくないと思えたのも。
親から離れるのに抵抗がないわけじゃない
でも、この人たちになら思える。
ドズル「ていうか床で寝るのはダメだよw」
めん「いやほんと、全然いけるんで」
ぼん「身体痛めるぞ?w」
めん「がち平気っす」
ドズル「なんでこういう時だけ頑固なのw」
めん「んふふっ……w」
そう。
思えるし、誓える。
この2人に。
俺の恩人に。
俺の全てを捧げると……
おわりにょお