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久しぶりにキャスリンと夜会に参加する。僕らの瞳の色を纏うキャスリンは美しい。その手をとり馬車に向かう。揃いの衣装でダンスを踊るのを想像する、楽しみだ。ハインス邸に着いて大勢の人と挨拶を交わす。さすが王妃の生家だ人も多い。休憩にキャスリンのシャンパン、自分はワインを手に持ち彼女のもとに戻る。その時会場の入り口に人だかりが出来て、ちらっとアンダルが見える。そのとなりにふわふわの金毛が揺れている。本当に来たのか。普通なら招待しないものだけど王妃に頼み込んだのか。
アンダルが声をかけてくる、リリアンも無邪気に話している。キャスリンのことは存在していないかのように話しかける。キャスリンが知り合いの所へ向かった、あれは確か侍医のライアン・アルノ。少しほっとしてアンダル達と話す。
「カイランちょっと庭に出ないか?」
ここでは話しにくいのか、しかしキャスリンを置いていくのは良くない。迷っているとリリアンがはしゃいだ声を上げる。
「お庭を見に行きましょうよ。ね」
リリアンが腕を掴み引っ張る。少しならと三人で庭へ向かった。
「わぁすごい広いのね!お花も沢山。池もあるわ!アンダル、カイラン、すごい綺麗!」
リリアンははしゃいでいる。男爵家に比べれば天と地。物珍しいのか花の匂いまで嗅いでいる。まるで少女のようだ。
「悪いな夫人と離してしまって」
「どうした?この前の話なら父に断られたよ」
「ああそうだろうとは思った」
アンダルははしゃぐリリアンを見つめながら愚痴る。
「リリが綺麗なドレスを着て夜会に行きたいと言ってね、母上にお願いして参加できたんだけど参加するのにも金がかかる。それを説明しても僕は王子様なのにどうしてと言われる。自分が情けなくなってしまって。リリを愛してるんだよ。僕は夜会には興味がない、綺麗な衣装も必要ない。でもリリは違う、だからなんとかしてやりたい。叶えてやりたい。愛しているなら当然そう思うだろう?」
余計なことは言えない。手助けなんてできないのだから期待を持たせてはいけない。僕は頷くだけにしておいた。愚痴ぐらい聞いてやれる。
「お前もリリには幸せでいてほしいと思っているだろ?」
「なんだって?」
アンダルは何を言いだすんだ。
「リリを愛していただろう?学園の頃からよく見つめていたよ。知られてるとおもわなかったか?多分奥方も気付いてるんじゃないか?リリでさえ気付いていた。リリを見るお前の目は恋する者の目だった」
愕然とする。キャスリンはあの頃から知っていたのか。だからあれを受け入れたのか。僕がリリアンを愛していると思って。
「そんなに驚くことかな。でもお前は距離を保ってたから当時は何も言わなかったんだ。このまま政略で婚姻するんだなって。結局しただろ。家のために好きでもない彼女を選んだ。婚姻してどうだ、まだ過去は忘れられないんだろう?誰かに相談しろよ、ちゃんと眠れているのか?」
黙ってくれアンダル。キャスリンが気付いていた?本当に?何も言わなかったじゃないか。なぜ聞かないんだよ。
その時リリアンが散策を終え戻ってきた。僕はほっとした。アンダルの言葉は聞いていたくなかった。
「ねえ!池に橋がかかってるのよ。歩きましょうよ」
頷いて歩きだそうとしたところへハインス公爵がアンダルを呼びに来た。
「アンダル!こんなところにいたのか。妻に礼と謝罪をしてくれ、会場に出てこんのだ。私がお前を勝手に呼んだからな。お前だけでいい、彼女は連れてくるな」
アンダルがここにいることに反対する人は多かったのだ。当たり前か、関わり合いたくないだろう。それが貴族だ。
アンダルはリリアンを僕に任せ邸へ消えていく。
「私は嫌われているのね」
悲しそうな声でリリアンが呟く。学園でも友達がいないとよく泣いていた。
「一部の人だけだよ。アンダルは君を愛しているだろう?」
緑の瞳に涙を溜めながら僕に語る。
「ええとっても。でも結婚してお仕事で忙しいってあまり相手にしてくれないの。お仕事もうまくいってないみたいだし。カイラン、アンダルを助けてあげて?」
「それは無理だよ、父に決定権があるんだ。僕には何もできない」
リリアンはとうとう泣き出し抱きついてきた、さすがにこれは困る。でも肩を震わせ大きな瞳から涙を流すリリアンを突き放すことができない。
「カイランしかいないの。アンダルは王子様なのに誰も助けてくれない。王様の子なのにおかしいわよ。どうしたら助けてくれるの?私にできることある?」
下から僕を見つめて涙を流すリリアンは僕の恋心を知っていて頼んでいるということだ。我が儘なことを言う。僕の気持ちを利用しようというのか。なんてことだ、こんなリリアンを知りたくなかった。
ふわふわな髪が輝いて、大きな緑の瞳と、感情が豊かで泣き怒り笑い甘える、そんなところに惹かれていた。でもこれはなんだ。もう会わない方がいい。アンダルは親友だがもう無理だ。共に沈んでしまう。
リリアンに離れるよう話そうとした時、誰かが近づく音がした、咄嗟にリリアンから距離をとる。それでも遅かった。ディーター小侯爵がもう近くにきていた。
「何をしている。これはリリアン・スノー男爵夫人ではないですか。まさか既婚者のお二人がこんな目立つところで抱き合うとは驚いた。妹の夫は気が多いようだ。個室でも用意してもらってはいかがかな?」
リリアンは真っ赤になって震えている。あの騒動を思い出させる言葉だ。リリアンは体を寄せ僕の服の袖を掴み見上げてくる。
「カイラン…」
ディーゼルには逆効果だよ。夫人がやっても可愛らしくない。ただいやらしく映るだけだ。
「友人と話していただけで、悩みを聞いていたんですよ。ディーター小侯爵が想像するようなことは何も…」
ディーゼルの背後のテラスにキャスリンが見える。こちらを見ている。なんて事だ。いつから見ていたんだ。なんて説明すればいい。
「友人…のようには今も見えないな。見つけたのが私達でよかったよ。全くスノー男爵夫人と二人きりになるなんて軽率過ぎる」
リリアンと二人きりで人目のないところにいるのはそういう仲に見えるぞと遠回しに告げられる。
「なぜよ、ただお話していただけよ」
「貴女がそのつもりでも周りにはそう見えない。それが問題なんですよ」
もうやめてくれ、キャスリンのところに僕を戻してくれ。こんなことなら彼女の側から離れなければよかった。
「こんなことで騒ぐなんて周りの人達がおかしいんじゃない?」
ディーゼルは笑う。
「そうですか。ではどこかでアンダル様に貴女の様に振る舞う女を近づけてみましょうか?貴女はきっと何も感じないのでしょうな。これは楽しみが出来ましたよ」
ディーゼルがいい余興を思い付いたと笑いながら話す。
「下品よ!カイランもなんとか言ってよ!」
何も言えない。関わり合いになりたくない。ディーゼルは冗談を言ってるんだ。
「冗談はほどほどにしてください。すみませんでした。こんな場所で女性と二人きりになるなど軽率でした」
ディーゼルはふんっと鼻をならす。
「君は少し考えた方がいい。不幸になるぞ」
もうなりかけてるなんて言えない。
「ディーター小侯爵、スノー男爵夫人を会場へ送り届けていただけますか?僕はキャスリンの所へ行きたいのです」
「カイラン、どうして?」
リリアンは信じられないと目で訴えてくる。
「申し訳ないが、中に戻ってアンダルを待ってください」
他人行儀なカイランの態度に悲しそうな顔を浮かべ、すがろうとしてくるが無視をしてキャスリンの元へ向かう。彼女の顔を見れない。なんて言えばいいんだ。キャスリンは怒っている。当たり前だ。婚姻して初めての夜会だと何度も言ってたじゃないか、結局ダンスも踊れなかった。僕があの場を離れたから誘いを断れなかったんだ。全部僕が悪い。