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私、観察者の個人的評価を少し上げた馬は、眠っているヴノを心配そうに見つめるスリーマンセルに視線を移して言葉を続ける。
『さて、小さな魔術師よ、お前のナイフは一体何なのだ? 巨大化して獣奴(じゅうど)を傷付け禍々(まがまが)しい靄(もや)によって弱体化させるとは…… いづれ呪われた邪悪な代物である事は間違い無かろうが、何を目的に我が友、『ヘンウェン』のヴノに凶刃を振るったのか話して貰おうか、納得が行く返答で無かった場合は只では置かんぞ、ヒヒヒィンッ!』
「え、僕は、えっとぉ……」
厳しく問い詰められたレイブは即座に言葉を返す事が出来なかった。
代わりに巨大なシャイヤーに答えたのはこの場で一番小さなペトラである、堂々とした声音だ。
『レイブお兄ちゃんが何かを意図してさっきみたいな事やる訳無いじゃあないの! 優しいしヴノ爺とは一番の仲良しなんだからっ! 安直に誰かを責めるのはアンタの子供の頃からの悪い癖だわよザンザス! もう何百年と生きてるんだからいい加減その性質(タチ)改めたらどうなのっ?』
初対面で、勿論、初めて交わす言葉の辛辣(しんらつ)さに丸くてどちらかと言えば人懐っこい両の眼を、パチクリとさせながらザンザスは返す。
『どこかで会ったかな、お嬢さん? ん? 見ればオールブラックではなくフルダークネスの毛並み…… そうか、ハタンガの魔獣、偉大なる母、アリスの血に連なる豚猪(とんちょ)、なのかな? 私の話はアリスから聞き及んだのかな? 子供、孫? 私やヴノにとっても彼女は親も同然なのだ、是非とも御関係を教えていただきたい物だが…… 如何かな、お嬢さん?』
先程の勢いはどこへやら、ペトラは口篭る。
『や、あ、えっと、あのぉ、か、関係? えっとぉ、親戚? 的なぁ~』
『? 親戚? そうか』
訝(いぶか)しがるザンザスに対して言葉を投げ掛けたのは、一息ついたらしい北の魔術師、バストロである。
「おい、ザンザスよ! 起こった出来事が自分の想定外だったからってな、すぐに悪意の所在を覗(うかが)ったら駄目だろうが! まずは被害を収められた事で良しとしてだな、それで落ち着いてから原因や今回の事態に至った要因の分析をするのが大事だぞ? ヴノの体調に変化は無かったのか、お前が言ったようにゼムガレのナイフ、若(も)しくは素材のチッターンに未知の性質や呪いの類(たぐい)が有ったのかどうか、今年の気候はいつもの春と何か違いが有るのでは無いか? あらゆる可能性を検討し考察した後で、仲間、魔術師の悪意の有無について言及するべきなんじゃないか? どうだ、ザンザスよ?」
いつに無くまじめその物な師匠の言葉に無言で息を飲むレイブに対して、大きなザンザスは頭を下げて言う。
『そ、その通りだ…… 済まぬ少年よ…… 私とも有ろうものが手順を幾つも飛ばして君を責めてしまった様だ…… 魔術師とそのスリーマンセル同士は互いに互いの背中を守りあう関係、全幅の信頼を預けあう数少ない存在であった…… わ、私は酷く驚いてしまってな、許してくれい、何しろ、その…… このヴノは、わ、私にとって数少ない、えっと、きょ、兄弟、ハッキリ言えばたった一人の兄、そんな存在なのでな、許せ、小さな魔術師、レイブ…… ヒーン……』