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「だめ……」
ハルのか細い声が震える。
「なにがダメなんだよ」
苛立ちとも焦燥ともつかない熱が喉を焼く。
ハルの柔らかな頬に手を添えれば、その肌は既に熱を持ってしっとりとしていた。
「だっ……て」
怯えたように俺を見上げる瞳が揺れる。
今にもこぼれ落ちそうな涙が月明かりに滲んだ。
その表情に煽られるように欲情する自分に嫌気が差す。
「俺にされるの、嫌なのか?」
吐息と共に低く囁く。
ハルは何かを言おうと口を開きかけるが、結局言葉は出てこなかった。
代わりにギュッと唇を噛み締める。
しかし次の瞬間には俺の首の後ろへ腕が伸ばされてきていた。
「……あっちゃんが、こんな風になるなんて思わなくて……ドキドキしちゃうだけ」
小声で呟いた後ハルは恥ずかしそうに俯いた。
その仕草さえ可愛らしく見えてしまうから重症だと思う反面内心ガッツポーズを決める。
「可愛すぎんだろ」
我慢できなくなった俺は再度ハルに口づける。
貪るような激しいキスは俺の思考回路を麻痺させていくようだった。
◆◇◆◇
「あっちゃん……あのね」
しばらくの沈黙の後、ハルがポツリと言う。
瞳を伏せたまつ毛が震えている。
「なんだ?」
俺はできるだけ穏やかな声で促す。
ハルは一度深呼吸をしてから、顔を真っ赤に染めたまま、俺の胸に額を預けた。
小さな声が震えている。
「あっちゃんとのえっち……もっと大切にしたい、から……その…待って、くれる…?」
「僕…まだ心の準備できてなくて心臓の音やばいし…あっ、あっちゃんには、大切に抱いて欲しくて…っ」
途切れ途切れの言葉は、それでもしっかりと俺の耳に届いた。
俺は一瞬固まった。
胸の奥で何かが疼くのを感じながらも、同時にハルの真摯な眼差しから目を逸らせなかった。
(大切にするに決まってんだろが…)
ハルの純粋さが眩しすぎて、息が詰まる。
こいつの中にある俺への気遣いと
自分の気持ちを大切にしたいという想いが混ざり合った複雑な表情を見てしまったら、もう何も言えなくなる。
「…………」
俺は無言のままハルを抱き寄せた。
柔らかい髪に顔を埋めると、柑橘系のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「……わーったよ」
喉の奥から絞り出した声は、少し掠れていた。
「…それぐらい待ってやる。けど……」
「うん…?」
「お前のこと、今すぐにでも全部欲しいって思ってるのも……事実だから」
そう言って、俺はハルの額にそっと唇を落とした。
ハルは目を丸くして俺を見つめた後、小さく微笑んだ。
その笑顔はどこか照れくさそうで、けれど幸せそうなものだった。
「ふふっ、ありがとう……あっちゃん」
「普通だっつの」
「えへへ……もっと早く、あっちゃんのこと意識してたら良かったのかな」
ハルの手が、おずおずと俺の腕に触れる。
「あっちゃん……大好き」
囁くような告白に、胸が締めつけられる。
「俺も好きだ……ハル」
言葉にするのは難しくても、腕の中の体温がすべてを伝えてくれているような気がした。
しばらくの間、俺たちは何も言わずにただ抱きしめ合っていた。
壁にかかった時計の秒針だけが静かな部屋に響いている。
ホッとした表情を浮かべるハルを見て、改めてこいつを大切にしたいと思った。
「あっちゃん」
「ん?」
「…そのうち、僕がちゃんと準備できたら……その時は、たくさん愛してね」
ハルのその言葉に、思わず顔が熱くなる。
「…言われなくてもとっくの昔から愛しちまってんだよ」
「えへへ……っ、あっちゃんが珍しく素直だ」
「もう、隠す必要ねぇだろうしな」
ふっと笑いながら、俺はハルの頬を撫でた。
その夜はハルの家に邪魔して、少し缶ビールを飲み、同じベッドに入った。
すると案の定、俺の腕に巻きついてきたハルが
「ねえねえ、あっちゃん?」
と寝言のように呟く。
「なんで…そんなに僕のこと好きになってくれたの??」
「あ?今さら何言ってんだ」
呆れ気味にそう答えると、ハルは更にぎゅっと抱きつく力を強めてきた。
「もう隠す必要ないって言ってたじゃん、それぐらい教えてよ」
少し拗ねたような口調。
「なんでって…好きになっちまったんだから、細かい理由なんてねぇよ」
「え~そういうもん…?」
「それだけだ、それに…お前のこと幸せにすんなら俺がいい、ただそう思ってただけだ……って、言わせんなこんなこと」
俺の宣戦布告にハルは一瞬目を見開き固まったあと、茹でダコのように顔を赤く染めた。
「……っっ!あっちゃんのばか!」
「ば、バカってなんだよ」
ハルは勢いよく俺の首筋に飛びつきぎゅっと強く抱きついてきた。
「僕も……っ!あっちゃんが幸せにしてくれる分…ううん、それ以上にあっちゃんのこと幸せにする!!」
「そ、そうかよ…」
そして、耳元で囁く。
「えへへ……あっちゃん、すき」
その言葉が引き金となり、堰を切ったようにハルの唇を奪った。
「ん……んんっ!」
「あんま可愛いこと言うな」
「……ふぁ……あっ、ちゃん……もっと…して?」
透明な糸を垂らしながら、自分から唇を重ねてくるハル。
「ねえあっちゃん…好きって、もっと好きって言って…」
「お前な…調子乗んなよ」
「え~、僕の彼氏ならもっと愛情表現してくれないとやだ!不安なる!」
「あーーうっせぇうっせぇ」
「さっきまでの超絶素直だったあっちゃんどこ行ったの!」
「いいからとっとと寝ろ」
「じゃあ、おやすみのチューしてくれたら寝る~」
「はあ?」
呆れながらもハルの柔らかい唇にそっと口づけをする。
するとハルは嬉しそうにニコニコと微笑み、そのまま俺の腕の中におさまっていた。
(はぁ……結局こうなんだよな)
ため息をつきながらもどこか心地良い温もりを抱えて眠りにつく。
俺の腕の中でハルの寝息が聞こえる度に、胸の奥が温かくなるのを感じる。
明日から、また新しい日々が始まるが
俺たち二人の関係は、まだ始まったばかりだ────。