「簡単な話や! ワイらで――【連合】を組んで戦うんや!!」
「はぁ!? 戦うための協力なら、もう既に――って、おおぉ……?」
「う、嘘……? 魔力が……湧き上がってくる!!」
レオンとリリィの顔色が一変した。つい先ほどまで土気色やった頬に、命の色が戻ってきとる。瞳の奥に灯った光は、もはや絶望に染まった者のそれやあらへん。まるで、身体の芯からぽかぽかと温もりが広がっていくような、そんな感覚に包まれとるようやった。
「この勝負、もろたで! 今のワイらに、敵なんてあらへん!!」
ワイは力強く叫んだ。声が自然と響き渡り、空気を揺らす。目の前に押し寄せるチンピラの群れ――顔のない人形のように無機質な動きで迫ってくる奴らは、確かに数が多い。やけど、彼らはただ操られとるだけや。狂気に縛られた傀儡。チンピラ隊長さえ倒せば、この悪夢は終わるはずや。
「よく分からんが、細かい事情は後だ! 行くぞ!」
レオンが剣を構え、鋭い目つきで敵陣を睨んだ。彼の足元が土を踏みしめる音が、全員の心に火を点けたように聞こえた。ワイも気力を振り絞り、後に続く。リリィは手のひらに炎の槍を生み出し、燃え盛る熱が髪を揺らしていた。ケイナは見張り台から飛び降り、両手に小石を握りしめ、必死の形相で駆け出しとる。誰もが、自分の限界を超えとった。
「【ファイヤーボール】!」
炎の球が咆哮を上げながら飛んでいく。赤熱の光が影を裂き、手下共の列を混乱に陥れた。奴らの中には、熱風に吹き飛ばされて転げる者もおる。
「「おおおおぉっ!!」」
ワイとレオンも剣を構え、無理やり兵たちの間をかき分けるようにして進む。地面には倒れた兵の手が、命を求めるかのように這いずり、背後からは焦げた肉の匂いが鼻を突く。それでも、立ち止まるわけにはいかんのや。
「お前ら、しつこいぞ! まとめて死ねぇっ!!」
隊長が黒い剣を振り上げる。刃から溢れ出した闇は、まるで空間そのものを飲み込むように広がった。空気が歪み、音さえ吸い込まれるような圧力が迫ってくる。肌がひりつき、視界がじわりと黒く滲んだ。やけど、ワイらは怯まず、ただ前へと進んだんや。
「はあああぁっ!!」
ケイナが叫びとともに、小石をばらまくようにして投げた。本来、彼女の非力な腕では、石ころなんて大した攻撃力を持たへん。やけど、今は違う。少しでもチンピラ隊長の視界を遮って妨害できれば、それで十分や。
「今よっ! 【ファイヤーランス】!」
リリィの炎の槍が鋭い音を立てて射出された。灼熱の槍は、蒸気を伴いながら闇を貫き、隊長の胸元に突き刺さった。奴の顔が苦痛に歪み、瞳が驚愕に見開かれた。その動きが鈍り、時間が引き延ばされたように、すべてがスローモーションに見えた。
「これで終わりだ!」
レオンの剣が閃いた。剣と剣がぶつかり合う音は、鼓膜に響く雷鳴のように重く、空気が震えるほどの衝撃を生んだ。力強く振り抜かれた刃は、金属の軋む音と共に隊長の黒い剣を弾き飛ばした。
「もろたで!」
無防備になったチンピラ隊長に向けて、ワイは躊躇なく剣を突き出した。剣先は奴の腹部を深々と貫き、鈍い抵抗の感触が手元に伝わってきた。
「が……っ……!」
チンピラ隊長の目は、見開かれたまま動かへん。口元から滲んだ血が、静かに顎を伝って滴り落ちる。直後、隊長は倒れた。
黒い霧が、音もなく晴れていく。辺りを覆っていた不気味な霧は、まるで初夏の朝露が消えるように、淡く溶けていった。
操られていた兵たちは、操り糸を断たれた人形のように、その場に崩れ落ちた。金属の甲冑が地面に当たる音が、乾いた響きを残す。彼らはまるで深い眠りに落ちたように、静かに横たわっている。胸は規則正しく上下していて、その寝顔はただ平穏やった。
「……やったんか?」
思わず漏れたワイの声は、妙に響いて感じた。誰も答えへん。静寂だけが、答えのように降り積もる。荒い息を整えながら、ワイらは周囲を見渡した。倒れた手下どもは皆、胸が規則正しく上下しとる。
隊長も力なく倒れとったが、致命傷は避けたようや。剣の刺さった腹部からはまだかすかに呼吸の兆しがあった。血の匂いと混じる空気の中に、命の灯がかすかに揺らいでいるのを感じた。
「や、やった……。みんな……無事……」
ケイナがその場に崩れ落ちた。膝をつく音が小さく響く。彼女の肩は細かく震えていて、涙で濡れた瞳が宙を彷徨っていた。レオンとリリィも、ようやく力を抜いたように武器を手放した。金属が地面に当たる軽い音。二人の肩もまた、安堵に震えとった。息を吐くたびに、長く張り詰めていた糸が解けていくのが分かった。
「守りきったんや……! ワイらの勝ちや!!」
ワイは叫ぶ。ようやく勝利を実感したんや。重く淀んでいた空気が、朝霧が晴れるように澄み渡っていく。焼けた匂いや冷たい霧も、いつの間にか消えとる。戦場に残るのは、ただ静寂だけやった。すべてが、ようやく止まったんや。
戦いは、終わった。
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