軽く唇が触れた。優しいキス。光貴は絶対強引にはしない。する前は、必ず私にしてもいいかと聞いてくれる。
「なあ……してもいい?」
愛おしそうに頬に口づけされた。くすぐったい。愛されてるって思う。
光貴はわからないだろうな。時には息もつかせぬほど強引で、奪われたいと思うような女心を。
「うん。いいよ。ベッドに行こう」
二人で寝室へ移動した。リビングと相反して室内は冷えている。寒いため暖房を入れて室内を急速に温めた。
乾燥した風が室内の湿度を散らしていく。
今、三月だから外はまだうすら寒い。裸になるには体に堪える季節。
肌を重ね合わせるのは、なにも交わりだけが全てではないはず。寒い夜に肌を摺り寄せ、互いの温度を確かめ合って眠るだけではいけないのか。ただ、それではなにかが物足りない。でも、それが私にはわからない――
答えが見つからないまま、私は着用していたブラウスを脱いだ。ドラマのようにもどかしく服を脱ぐ時間さえ惜しいというようなものではない。丁寧にひとつずつ着衣がベッドの下に投下される。いつもお行儀よく始まるセックス。
やがて互いの肌が露出し、光貴に期待をするような眼差しを向ける。折り重なる光貴に身を委ね、優しい唇を身体で受け止めた。
耳、頬、唇、喉元、鎖骨、胸先――優しく、ゆっくり光貴の唇が移動する。
「ん……」
雰囲気から甘い吐息が漏れる。軽く胸先を吸われても、なにも感じない。
一体この行為にどんな意味があるのか。こうなる度に私は彼にとても申し訳なさと切なさを同時に感じてしまう。
いつも優しく一生懸命愛してくれるのに、どうして私は光貴の愛撫に感じることができないの?
私の中はなにかが欠落しているとしか思えなかった。
そんな乾いた私が常に心の底に沈めた思いが、どういうわけか今日は頭をもたげた。
一度でいいから光貴の愛撫に感じてみたいという欲。
漫画や小説、AVの世界ではめくるめく官能の世界が多く広がっているのに、私は光貴の愛撫を受けても、まともに感じることができない。不感症だと一言で片付けてしまえばそれまでだけれど、欲せずにはいられない。
セックスが全く向いていない身体が憎らしかった。
「っ、光貴……」
彼の指が私の肌をくすぐる。しかし一切の快感は得られない。だから心の中で光貴に謝り続ける。これで何回目?
なににも感じない愛撫を暫く全身に受け、申しわけ無さから感じたフリを続けている。だから私の身体には、漫画やAVで見るような女性特有の変化はまったく無い。濡れていないから光貴を受け入れるのがとても辛い。
プロとアマチュアの違いなのか、それとも彼女たちプロがとても気持ちよさそうに男性の愛撫を受けるのが演技なのか、私にはわからない。
でも、乾いた身体で光貴を受け入れ続けるのは限界だったのでローションを買った。これがあればまだ光貴を受け入れられる。私には必需品。
でも、今日は部屋の暖をとるためにエアコンを回しているから、ローションがあっという間に乾いて秘めたる部位がすぐ潤いを失くしてしまう。あまり長時間は出来ないので、私は彼に口で奉仕をする。
一心不乱に奉仕する私の髪を光貴が撫でてくれた。
光貴が興奮してくれることが嬉しいと思う。口内で光貴の象徴が一層大きくなる。
唾液をいっぱい絡ませて更に奉仕を続けると、久々だったためか光貴は割と早くに果ててしまった。
「ごめん。久々で我慢できなかった。すごく気持ちよかった。ありがとう」
申しわけなさそうに呟き、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。
光貴の腕の中はとても温かい。それなのにどうしてこんなに寂しさを感じているのだろう。苦しい交わりを避けられたはずなのに、素直に喜べずに乾いた心の奥が軋んだ。
「謝らなくていいよ。連日サイト探しで疲れたもんね。早く寝よう」
ああ。私も光貴と一緒に気持ちよくなってみたい。AVの女優みたいに乱れてみたい――あの世界は嘘じゃないと、体験してみたい。
こんな風に思うのはおかしいのかな。
光貴が一生懸命愛してくれているのに、気持ちよくなれないのは私が悪いから?
光貴のこと、すごく好きなのに。結婚したのに。ずっと一緒にいるのに。
どうしてかな……。
セックスする度に虚しくなる。光貴は果てると疲れてすぐに寝てしまうのだ。
だから私がこんな消化不良の気持ちを抱えていることを全然知らない。彼はきっと私も同じように満足していると思っているのだ。
気を遣って聞いてくれるけれど、私が満足しているフリをしてしまうから気付かれない。
これは光貴に言わない私が悪い。でも一生懸命私を愛してくれる光貴を、自身のせいで傷つけたくない。
もうこれ以上私のせいで彼を苦しめたくないのだ。ただでさえ残念な女を捕んでしまったせいで、メジャーへ行けるチャンスを潰してしまったから。
私なんかに関わってしまったばかりに――
セックスのことは誰にも相談できなかった。
私は光貴しか男性経験が無いから他の男性と比べることもできない。
私は不感症で…病気なんだ。
ねえ、光貴。
私はどうして、光貴の愛撫に感じることができないの?
好きなのに。
こんなに大切なのに。
既に寝息を立て始めた光貴を見つめていると、やるせなくなって涙が一筋零れて頬を濡らした。