テラーノベル
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初練習の日。
グラウンドはまだ土が柔らかく、足を取られる。
新生野球部のメンバーは、監督の指示で軽くキャッチボールから始めていた。
モブの新入生たちは隅でランニングしたり、道具を運んだり。
でも、みんなの視線は自然とバッテリーの二人に集まっていた。
真琴はマウンドの土を軽く踏みしめ、
グローブを握りしめている。
赤髪が風に揺れ、綺麗すぎる顔立ちが少し青ざめている。
165cmの華奢な体は、ユニフォームに包まれてもどこか儚げだ。
中学3年間、ずっと組んできた捕手に……
マウンドで怒鳴られ、バックヤードで殴られ、
蹴られ。
全部「お前のためだ」「お前が弱いからだ」と繰り返され。
真琴は自分を責め続けた。
「俺が悪いんだ……俺がちゃんと投げられなかったから……」
それでも、心の奥底で野球をやめたくない。
だから、この新設部に来た。
新しい捕手なら、違うかもしれないと。
アキはキャッチャーマスクを被り、ミットを構えている。
189cmの筋肉質体型がマウンドに向かってどっしり。
黒髪の下から覗く目は、純粋にワクワクしている。
「真琴! まずはストレートからいこうぜ!
俺が全部受け止めるから、思いっきり投げろよ!」
声がデカい。
言葉が荒い。
アキは悪気がない。
ただ、投手が大好きで、
バッテリーが大好きで、
「投手のためなら何でもする」
と思っているだけだ。
真琴の肩が、ビクッと震えた。
「……うん」
初球。
真琴はゆっくり腕を振り、ストレートを投げた。
球は低めに外れて、アキのミットに収まる。
「よし! いい球だ! 次はもっと高めに!」
アキはマスクを外し、立ち上がってマウンドに向かおうとした。
「ちょっと待て、真琴! フォームのここ、もっとこう……」
その瞬間、真琴の顔が真っ青になった。
過去の記憶がフラッシュバックする。
怒鳴り声、拳、痛み。
「ごめん‼︎ ちゃんと投げるから‼︎ 戻って‼︎」
真琴は取り乱し、グローブを握りしめて後ずさった。
声が震え、涙が滲む。
「ごめん……ごめん……俺が悪いんだ……」
アキは凍りついた。
「え……? お、おい、真琴?」
周りのメンバーが息を飲む。
タクがすぐに駆け寄り、真琴の肩を優しく押さえた。
「真琴、大丈夫か?」
翼もマネージャー用のノートを抱えて近づく。
「真琴くん……」
勇人が後ろから声をかけようとして、止まる。
みとらが「これは……重症だべ……」と呟き、
井上が珍しく声を抑えて「マジかよ……」と呟く。
アキはマスクを脱ぎ、ミットを地面に置いた。
顔が真っ赤になり、慌てて頭を下げる。
「悪ぃ……俺、声でかすぎたか? 怖がらせた……?」
真琴は首を振り、唇を噛む。
「……違う。アキのせいじゃない。俺が……俺が弱いだけ……」
監督が静かに近づき、肩を叩いた。
「無理すんな。今日はここまでだ。バッテリーはゆっくり合わせていけ」
アキは真琴の顔を覗き込み、珍しく声を低くした。
「俺……お前の球、絶対受けたいんだ。 怖がらせたくねえ。
だから、教えてくれ。どうすりゃいい? 俺、何でもするから」
真琴は視線を落とし、小さく頷いた。
「……少しずつ……お願い」
タクが翼に耳打ちする。
「真琴、相当抱えてるな……」
翼は頷き、緑の瞳を心配そうに細める。
「アキくんも、真剣なんだよね……」
練習はそこで中断。
グラウンドの隅で、真琴は一人座り込み、グローブを抱えていた。
アキは遠くから見守り、拳を握りしめている。
他のメンバーも、なんとなく言葉をかけられず、静かに片付けを始める。
翼はタクの袖を軽く引いた。
「タク……俺たちで、何かできることあるかな」
タクは翼の頭を撫で、優しく笑った。
「まずは、見守ることだろ。
みんな、甲子園目指してるんだ。
少しずつ、噛み合っていくさ」
新生野球部。
まだ誰もがぎこちない。
特にバッテリーは、最大の壁を抱えていた。
でも、そこに小さな、でも確かな絆の芽が生まれ始めていた。
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