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赤き崩壊(レッドブレイクダウン)から三十年。一度崩壊したテイテス王国は時間をかけて復興を続けていた。

当時存在していた、歴史的価値のある建造物や王宮等は全て消え去ってしまったが、現在はなんとか小さいながらも一国としての体裁を保てる程度には復興が進んでいる。

三十年前と変わらず、国の周りは高い塀に囲まれている。塀は以前よりも丈夫に作られており、出入りする際の入国審査も以前より厳しいものとなっていた。

そのため、当然素性のわからないチリー達が簡単に入れてもらえるハズもなく……


「ダメだ。身分のわからない旅人を入国させるわけにはいかない」

衛兵の一人に突っぱねられ、チリー達は門前で立ち尽くすはめになっていた。

「どーすんのよ」

不満そうにシアに言われ、チリーは顔をしかめて考え込む。

恐らく、ミラルだけならなんとか入国させることが出来るだろう。向こうが納得するまでに時間を要するだろうが、ミラルは正真正銘テイテス王国の王族だ。証拠としてどれだけ機能するかはわからないが、秘宝であるブローチも手元にある。

シュエットも難しくはないかも知れない。アギエナ国とテイテス王国の関係は良好だ。国境を守るヴァレンタイン騎士団の一員であることが証明出来れば、ある程度信頼を得られる。

問題なのは、借金まみれで怪しいシアと……本来ならこの地に近づくことさえ憚られるチリーだ。

(ババアの占い通りなら、恐らく俺もテイテス王国をもう一度訪れる必要がある……)

出来ればここには近づきたくないというのがチリーの本音だ。何もかもを失い、贖いきれない程の罪を背負ってしまったこの場所は、どうしても精神的な古傷が痛む。

それになにより、足を踏み入れる資格がない。この場所を赤く穢し、壊したのはチリー自身だ。

だが同時に、ここには必ず訪れなければならなかったという思いもある。

何も償えずとも、己の過ちの結果を見届けなければならない。

そしてこの地の民が望むのなら――報復を受け入れるのも、償い方の一つだ。

「……」

目深にかぶったフードに、右手で触れる。手配書が出回っている以上、外せばすぐにチリーが何者なのかわかるだろう。

しかしその手を、ミラルが止める。

「私は、シルフィア・ロザリーナ・テイテスの娘です」

ミラルがハッキリと言い切ると、衛兵の顔つきが変わる。そして彼が疑いの目を向けるよりもはやく、ミラルはブローチを取り出して見せた。

「これは王家に伝わる秘宝です。これで証明になりませんか?」

ブローチを見せられて、衛兵がたじろぐ。だがすぐに、険しい表情を見せた。

「……確かに上等なものだが、今すぐには判断出来ん。それに、仮にもしあなたが王家の娘だったとしても、残りの三人の入国までは許可しかねる」

冷静な判断だ。ミラルの言葉は真実だが、それを証明する材料がまだ少ない。それに、ミラルが王女であることと、残り三人の素性は関係がない。

「え? 俺も?」

「はいはい静かにして」

目を丸くしてとぼけた声を出すシュエットを、シアは乱雑に右手で後ろにおしやる。

「まずはフードを取って見せてもらえないだろうか」

衛兵にそう言われ、ミラルは一度チリーに視線を向ける。

「……外せ。どの道このままじゃ入れねえ」

チリーの言葉に、ミラルはひどく躊躇った。ミラルとチリーの手配書は一緒に出回っている。この状態でミラルがフードを取れば、隣にいるのがチリーであると簡単に連想出来てしまう。

ミラルは、どうしてもチリーが素性を明かすのだけは避けたかった。

チリーは赤き崩壊を引き起こした張本人として知れ渡っている。そんなチリーがテイテス王国で素性を明かせば、どんな扱いを受けるかわかったものじゃない。

そしてミラルが本当に怖いのは……チリーが、どんな言葉も行為も受け入れてしまう気がしていることだ。ただひたすら傷ついていくチリーを見るのはどうしても嫌だった。

「……しょうがない。あたしがひと肌脱ぐわ」

「は?」

不意に、黙って様子を伺っていたシアが前に出る。そして衛兵達の方へ近づいていくと、その内の一人に向かって急に身体を擦り寄せた。

「ねえ、衛兵さん……見逃してくれない……? もちろん、タダでとは言わないわ。今夜……ね?」

艶っぽい声でそう言って、シアはチラリと胸元を覗かせる。

「どう……?」

「この痴女をつまみ出せ」

真顔でそう言い放たれ、シアは愕然とする。そんなシアを他の衛兵が取り囲み、強引に引き剥がしていく。

「うおい! ちょっと! 誰が痴女よ誰が! このムッツリ陰険クソ衛兵!」

「見逃してやるからさっさと失せろ」

なるべく冷静を装ってはいるが、シアに擦り寄られた衛兵は眉をひそめて口元をわずかに痙攣させている。ブチギレ寸前と言ったところだろうか。よほどシアが気に食わなかったらしい。

「ちょっと! アンタらも何か言ってやりなさいよ!」

「シアが悪い」

「あはは……」

「シア、謝った方が良くないか?」

「クソが!」

このままでは本当にシアごと全員つまみ出されかねない。チリーが頭を抱えていると、後ろから何者かがゆっくりと近づいてきた。

殺気も魔力もない。ただの人間だ。ただの旅人なら、ここで一緒に門前払いだろう。

そう思って振り向きもせずに無視していると、急に衛兵の目の色が変わった。

「――――えっ?」

そして先に振り返ったミラルが、その姿を見て言葉を失った。

「よっ、お疲れさん。悪いけどこいつら通してやってくんねえかな?」

「え、あ、いや、しかし……」

後ろにいた男は、無造作にミラルの頭の上に手を置くと、カラッと笑って見せる。

「身分は俺が保証するよ。少なくともローブの二人はな」

動揺のあまり、ミラルはその場に膝から崩れ落ちそうになる。

もう会えないと思っていた。

最期の別れさえ言えなかったことをずっと悔やんでいた。

そして、もう振り返ってはならないと決めていた。


「お父……様……?」


そこにいたのはミラルの父、アルド・ペリドットだった。



***



完全に頭が真っ白になってしまったミラルは、その後のことはもうおぼろげにしか覚えていない。

ただひたすらに泣きじゃくって、父の胸の中に顔をうずめて何度もその胸を叩いたことくらいしか覚えていられなかった。

詳しいことはチリー達はもちろんミラルにもわからなかったが、アルドはどうもテイテス王国となにやら深い繋がりがあったらしい。アルドの言葉一つでミラルの身分が保証され、残りの三人も大切な友人としてテイテス王国の中へと入れてもらえることになった。

流石に三十年も経てば、人の営みも落ち着く。テイテス王国自体は、完全に復興していると言っても過言ではない。

チリーが最初に中に入った時は、既に怪物騒ぎで荒れ果てていた。テイテス王国の町並みや、行き交う人々を見るのはチリーも初めてだった。

「しかし運が悪かったな嬢ちゃん。さっきの衛兵……フランクっつーんだが愛妻家で有名でな、色仕掛けされるとブチギレんだよ」

「うわマジ? そうでなきゃ確実に落としてたでしょうね」

「…………ああ、そうだな!」

「ちょっと、このオッサン微妙に無礼よ」

シアとアルドはいつの間にか打ち解けているようだったが、チリーとシュエットは今ひとつ事態を飲み込めていない。ミラルに至ってはアルドにしがみついたまま離れなくなってしまっている。

無理もないだろう、と思いながらチリーはミラルを横目に見る。

ペリドット邸がエトラの襲撃を受けてすぐ、ミラルは家を飛び出してペルディーンタウンへと逃れた。その後、チリーの眠っている洞窟で襲撃の張本人であるエトラと再会したのだ。父の生存は絶望的だと思うのが自然だろう。

今すぐ事情を問いただしたかったが、ミラルが落ち着くまでは待った方が良いだろう。一番事情を聞きたいのは当然ミラルなのだから。

(……しかしそれにしても……あんま似てねェな)

アルドとミラルを見比べて、チリーは思う。

二人の顔立ちはあまり似ていなかったし、ミラルの髪が亜麻色なのに対してアルドはくすんだ色だ。ミラルは母親似なのだろう。

チリーが勝手にイメージしていたミラルの父は、商家からの連想で恰幅の良いおじさんだったのだが、実際のアルドはまるで違う。鍛えられ、均整の取れたプロポーションは軍人に近い。長い赤髪を後ろで適当に縛っており、口元にはうっすらとだけ無精髭がある。あの伸び具合だと、普段は剃ってあるのだろう。

アルドを観察しながらチリーが黙っていると、不意にアルドがチリーへ視線を向ける。

「さてと、多少の事情はラウラから聞いた。お前がチリーだな」

「……ああ。ラウラに会ったのか?」

「おう。あいつ俺が死んだと思ってたらしくてな。顔見た瞬間腰抜かしてたぞ」

「そりゃ俺達もなんだがな……」

豪快に笑うアルドの陽気さに、どうコメントしたものかとチリーは眉をひそめる。

今のミラルとの温度差があまりにもあり過ぎるのだ。

「チリー、まずは礼を言わせてくれ」

「礼って、なんのだよ?」

「……今日まで娘を守ってくれたことに、心から礼を言いたい。ミラルがこうして無事でいるのはお前や……そこにいる二人が助けてくれたおかげだろう」

ピタリと足を止めて、アルドはチリー達に正面から頭を下げる。これまでのどこか軽い様子は、もう一切感じられない。

「……顔上げてくれ。救われたのは、むしろ俺の方なんだ」

ペルディーンの森で眠りについていたチリーは、何もかもを捨てていた。生きる気力もなく、死ぬ勇気もなく。

あの時偶然ミラルが訪れて、それがチリーが前に進み始めるきっかけになった。

何度も救われた。ミラルを守ることが、ミラルと生きることがチリーの人生にもう一度意味を与えた。

壊すだけの破壊者を、守護者へと変えた。

「……そうか」

顔を上げ、アルドはジッとチリーを見つめる。

その真っ直ぐな瞳を見て、アルドは笑みを浮かべた。

「ミラルに出会ったのが、お前で良かった」

満足げにそう言って、アルドは一息つくと、しがみついているミラルの方へ視線を落とす。

「ミラル、そろそろ大丈夫か?」

「…………うん」

目元に涙のあとが残ったままだが、いつまでもしがみついたままではいられない。

「もうすぐ王宮につく。そこで一度これまでのことを話させてくれ」

アルドが指さした先にあるのは、復旧されたテイテス城だ。

そこに足を踏み入れて良いものか、チリーはやはり躊躇してしまう。今この地を踏みしめて歩いていることさえ、大きな罪だとさえ感じている。

そんなチリーの思いを察したのか、アルドはチリーの肩に優しく手を置いた。

「赤き崩壊は事故だ。賢者の石の真実を知る者は、お前を糾弾しない」

「…………そういう問題じゃねェよ」

賢者の石は、元々破壊の意志を持って作られた魔法遺産(オーパーツ)だ。触れたのが誰であろうと、起動すれば赤き崩壊は必ず起きたことなのだ。

しかし、チリーや青蘭が悪いわけじゃないと理屈で言われても、罪悪感は消えたりしない。

「俺の知っていることは全て話す。まずは、少し腰を落ち着かせよう」

アルドと話している間に、チリー達はテイテス城へとたどり着く。

門番達はアルドの顔を見ると、すぐに門を開けて中へ通した。

ゴクリと生唾を飲み込んで、チリー達はテイテス城へと足を踏み入れていった。

The Legend Of Re:d Stone~賢者の石と聖杯の少女~

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