テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
リーゼロッテは馬車に揺られながら、テオをどうブランディーヌに紹介したら良いかを考えていた。
いくら、マルクに従者の指導を受けたとはいえ、所詮は付け焼き刃。
(だったら、正直に従魔と言ってしまおうかしら?)
膝の上で眠っているテオを撫でながら、正面に座って資料に目を通しているルイスをジッと見た。
よく、こんな揺れる馬車の中で酔いもせず、仕事が出来るものだと感心してしまう。
(それにしても……睫毛、長っ! 本当に美青年だわ、お父様)
リーゼロッテの視線に気が付き、ルイスは顔を上げた。
「どうかしたかい?」
「あっ。えっと、テオを……お祖母様にどう紹介したら良いかと。やはり、フェンリルとは言わない方が良いでしょうか? ただ、従者と言うには……」
ルイスは、頷いた。
「ブランディーヌ様は誤魔化せないだろうね。従者と言ったら、伯爵邸に居る間……テオは徹底的に教育される筈だよ。――だが、フェンリルとは知られてはいけない」
「そうですよね……。では、ミニ狼の魔物を従魔にしたと言ってはダメでしょうか? 従魔なら一緒に居ても変ではありませんし。お祖母様に、従魔を紹介したかったと言えば……」
今度は、ルイスがリーゼロッテをジッと見る。
「リーゼロッテは……最近急に大人びたね。家出すると言って飛び出した時とは、まるで別人の様だよ。話していると、8歳だと忘れてしまいそうだ」
「そ、そうでしょうか? きっと、もうすぐ9歳になるからですねっ!」
意外と鋭いルイスに、冷汗が出てくる。
(そりゃ、元は私はアラサーで年上だし……)
「ああ、そうか……。もう、9歳になるのだったな。せっかくの王都だ、帰る前に何か買ってあげよう」
「嬉しいっ! お父様、大好きっ。約束ですよ!」
子供らしくはしゃぐリーゼロッテに、ルイスは嬉しそうに笑った。
(ふうぅっ。危なかった)
どうにか誤魔化し、結局テオはリーゼロッテの案で紹介することに決めた。
◇◇◇◇◇
「よく来ましたね、リーゼロッテ」
階段を静かに下りてきたブランディーヌは、ルイスへの挨拶を済ませると、リーゼロッテに声をかけた。
正に貴婦人……この屋敷の女主人に相応しく、気品漂う人物だ。
「お祖母様。お招きいただき、ありがとう存じます」
リーゼロッテが美しい所作で挨拶をすると、ブランディーヌは一瞬驚いた表情をした。
「リーゼロッテ、少し会わない間に随分と淑女らしくなりましたね」
よく出来ましたと、ブランディーヌは笑みを浮かべる。
「ブランディーヌ様、リーゼロッテをよろしくお願いいたします。なるべく早く……迎えに参ります」
「エアハルト辺境伯、心配には及びません。久しぶりに、孫との楽しい時間を過ごしますわ」
――そして、挨拶を済ませたルイスは、王宮へと向かった。
「ところで、リーゼロッテ。それは何かしら?」
「これは私の従魔のテオですわ」
リーゼロッテはニッコリと微笑み、ブランディーヌの視線に怯むことなく、テオを紹介した。
辺境伯領は、魔物が多く住む森を管理している。従魔がいる騎士も多いのだ。
「たまたま、屋敷に迷い込んでいたのを見つけたのです。可愛らしいだけでなく、とても頼りになり、私を守ってくれるのです。お祖母様に、是非お見せしたくて」
『くぅ〜ん』
と絶妙なタイミングで、テオは可愛く鳴くとリーゼロッテに擦り寄る。なかなかの演技派だ。
「……確かに、可愛いわね」
そう、ブランディーヌはこう見えて動物好きなのだ。
「では、リーゼロッテ。着替えたら、サロンへいらっしゃい。テオも連れてきて構いませんよ」
「はい、お祖母様! ありがとう存じます」
リーゼロッテは、侍女に部屋へと案内され一息ついた。
持ってきた荷物の中の、メイド服だけは絶対に見つからないようそっと隠すと、他は侍女に託し着替えさせてもらう。
支度が終わると、ブランディーヌが待つサロンへ向かった。
扉を開くと、紅茶の良い香りが漂って来る。
(うわぁ、素敵!)
そこには、リーゼロッテが好きそうなお菓子が色々と用意されていた。
孫と会うのを、本当に楽しみにしていたのだとよくわかる。礼儀作法にはとても厳しいが、実はリーゼロッテには優しいのだ。
美味しい紅茶とお菓子を食べながら、久しぶりの会話を楽しんだ。
暫くすると、ブランディーヌは侍女たちを下がらせ、二人きりになった。
「リーゼロッテ、そろそろ手紙の話をしましょうか。あれは、一体どういうことかしら?」
「はい、全て手紙に書いた通りです。私は予知夢を見たのです」
そう言うと、リーゼロッテは1周目の出来事を予知夢として、ブランディーヌに説明した。
ループなど到底信じてはもらえないだろうが、予知夢なら、絶対ではなく可能性として聞き入れてもらえそうだと思ったからだ。
それを裏付けるように、こう付け加える。
「その夢を見た日から、私の魔力が急に大きくなりました」と。
テオに教わった、魔力解放を威圧にならないよう少しだけする。
ぶわりと、リーゼロッテの纏う魔力が部屋の中に広がった。
ブランディーヌは思わず息を呑む。
リーゼロッテが魔力を抑えると、息を吐いたブランディーヌ言う。
「リーゼロッテ、貴女を信じましょう。いったい、どんな夢を見たのかしら?」
「はい。7年後に――私とフランツ、ルイスお父様が殺されます」
大きく目を見開くブランディーヌ。
これからリーゼロッテが王都で行動するには、ブランディーヌの協力がどうしても必要不可欠なのだ。
ブランディーヌは真剣な眼差しで、リーゼロッテの話を黙って最後まで聞いていた。