「ふ、ふざけんな! お前らなんか、絶対すぐに別れることになる」
佐藤君は、苦し紛れの捨て台詞を残し、ドアを蹴り飛ばして出ていった。
「大丈夫か?」
目の前にいる優しい柊君を見たら、もう、ものすごく安心して……恥ずかしげもなく思いきり抱きついて泣いた。
柊君は、何も言わずに、そんな私を抱きしめてくれ、ずっと髪を撫でてくれた。
「どう? 少し落ち着いた?」
「柊君、ごめんなさい。まさか来てくれるなんて思ってなくて。ありがとう、柊君のおかげだよ。でも、どうして? 大切な仕事があったんじゃ……」
「柚葉が変な男に絡まれてたから心配だって、真奈ちゃんが連絡くれたんだよ。柚葉が社長には言いたくなさそうだったから……って」
「真奈が? 私、変な誤解されたくなかったし、心配かけたくなくて。でも、結局、こんなに迷惑かけちゃって……柊君、本当にごめんなさい」
「そんなに謝らなくていいよ。柚葉が無事で良かった。たまたま本当に近くの取引先に来てたから。でも柚葉、僕達は結婚するんだよ。僕は君の永遠のパートナーなんだから、何でも話してほしいよ。あんな写真なんかで、柚葉のことを変に思うわけもないし。ましてや嫌いになるなんてこと、絶対に無いから。僕はね、心の底から柚葉を愛してるんだ」
「ごめんなさい。本当に……ごめんなさい。ちゃんと話して助けを求めるべきだった」
こんなにも大切に思われてるのに、私はものすごくバカだ。柊君に対して、申し訳ないやら情けないやら、後悔が湧き上がった。
柊君は、大事な仕事を中断してまで私を助けにきてくれた。
後悔と同時に生まれたもの――
それは、この人となら必ず幸せになれる。
一生、安心して暮らしていける。
絶対に、私を守ってくれる。
との、強い確信だった。
佐藤君と戦ってくれたあの姿。
思い出すと、まるで映画のワンシーンみたいにすごく迫力があってカッコよかった。
「柊君って、すごく強いんだね。ちょっとびっくりした」
正直、スポーツマンだった佐藤君には敵わないと思った。
「そう? 学生の頃、空手をね。これでも、都大会で優勝したことあるんだよ。でも良かったよ。あの頃は何気なしにやってたけど、そのおかげで柚葉を守れたんだから。もし柚葉に何かあったら、僕は……」
うつむく柊君。
「ごめんね、本当に。私が悪かったの。柊君に嫌われてしまうのがすごく怖くて。でも、これからはちゃんと何でも話すから、だから許して」
「許すも何も怒ってなんかないよ。さっきも言ったけど、僕が柚葉を嫌いになるなんて絶対に有り得ないから。心配しなくて大丈夫。柚葉に何もなくて良かったって、ただそれだけ」
「本当にありがとう。柊君がいてくれて本当に良かった」
顔を近づけて優しく微笑んでくれるいつもの穏やかな柊君。この愛情の深さに、私は、さらに深く柊君を好きになった。
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