𝐩𝐫𝐨𝐥𝐨𝐠𝐮𝐞
この世界には、
正しさと沈黙しか残っていなかった。
間違えることは、許されない。
弱さを見せることは、騒音と呼ばれた。
だから人々は、声を殺し、感情を伏せた。
それでも溢れたものは、
すべて――水へ落とされた。
水は、抗わない。
裁かない。
ただ、静かに沈める。
「ここにいれば、苦しまない」
そう囁くその深さは、
あまりにも優しく、残酷だった。
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白い世界は、正解だけでできている。
誰かを救う言葉も、
手を伸ばす勇気も、
すべて「余計なもの」として削がれた。
正しく生きた者だけが、
地上に立つことを許される。
壊れた者は、
最初から存在しなかったことにされる。
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それでも、
水の底には声が残る。
消えきれなかった名前。
呼ばれなかった想い。
助けを求めるには、
遅すぎた願い。
沈んだものは、戻らない。
それが、この世界の常識だった。
―あの日までは。
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僕が、
自ら水へ行こうとするまでは。
そして、
一人の相方が、
引き上げることを選ばず、
名前を呼び続けることを選ぶまでは。
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水は、まだ冷たい。
世界は、まだ白い。
それでも、
水の底で消えなかった声がある。
この物語は、
救えなかった話だ。
けれど――
忘れなかった話でもある。






