「アタックがやっぱ一番強い」
「シールドとか回復は?」
「いや、ゴリ押せば勝ちじゃん」
「そんなんだから負けるんだよ」
「……ん??レトさんの方が負けてるからね?」
秋、某日。レトさん家に集まって二人プレイ用のそこそこ新しいゲームで今日は遊んでいた。
残りの二人はコンビニに行ってくるらしくもう少し遅れてから到着すると連絡が入っていた。その連絡を見て、今日やる予定だったものをお試しプレイしているというわけだ。
冷房も必要ない丁度いい気温になった室内は何も考えずに過ごすのにはもってこいだったが、俺には少しばかりまだ夏を感じさせていた。
「キヨ君キヨ君!!!!見ろ!俺の勝ち!」
その元凶、レトさんが俺を呼びつける。俺、なんでこの人のこと好きになったんだろう。
考えてもしょうがない事は捨てといて反論の言葉を口から放り出す。
「や、今のはズル。」
「いやもう記録されてるから。勝ち目ねぇからお前に。」
んふふとなんとも非常に嬉しそうな声が隣から聞こえる。前言撤回、少量の悔しい気持ちを塗りつぶしてしまうほどのそれに怯んでしまうほどに俺は重症らしい。
「じゃあこっちのやつやってみようよ」
口数がここで減ると流石におかしいのでゲームへと焦点を向ける。けれど、このパターンは実況内で時間が余ったらするらしい。ふと時計を見ると連絡から四十分を過ぎていた。
レトさんも同じことを考えていたらしく口にポツリと出していた。
「二人とも遅いな……」
「ね」
そんな間もふわふわと中身のない会話で静かに笑って、俺はその都度彼の横顔を見る。
細められた楽しそうな目に、上ずった声。更には長い髪を時々掻き上げる姿。
好きという感情を認めてから半年ほど経つからだいぶ耐性は付いてきている。けれども俺はなかなか勇気を出せやしない。それどころか、どうしたら彼を可愛いと思わないかの防御に徹している。
あざとすぎる人はあまり好きじゃなかったのに…………チリも積もれば山になるのは本当だったらしい。
「キヨ君?」
「え?」
「映画、面白いのあった?」
彼の冷静な一言が俺を現実に返す。そうだ、映画に行った話をしてたんだっけ。
「何個かはレトさん好きそう」
「どれ」
スマホの画面を見せてざっくりとした内容や、好きな女優さんの話をする。
ある一つの映画が彼に引っかかったらしいので検索しようとすると検索画面がパッと映り、履歴がレトさんの目に入った。
「うわ」
あ、終わった。
今は駄目。そう思って隠していたのにまさかこんな形でバレるとは。
画面を真っ暗にして反射する彼の顔を俺は今、直視することができない。
驚き、戸惑い、不安。色んな感情が絡まって解けなくなる。
ぱくぱくと俺が口を動かすとレトさんは、「ねぇ」と一拍置く。
頼むから、なにも
「好きな子いるん?」
「へぁ…………は?」
「……え、ちがったの?…だって『好きな子振り向かせ方』とか『好きになったらとる行動』とか検索してたじゃん」
「あ…あぁ………え…いない」
「うそつけ!!……ねぇ〜だれ、だれ?俺の知ってる人?」
俺の反応から悟ってグイグイと話しかけてくる。その目はいつもよりも大きく開かれていて、俺だけを見つめている。
ここで口づけを彼にすることができたら何か変わるのかもしれない。
心の中ではなんとでも思えることを秘めて淡々と「知ってるんじゃない?」と、あしらうように答える。
そんな小さなことでも「マジで?!」と声を裏返して話してくる。
「…うん、知ってる」
何処かでこの状況にあやかって気づいてほしい自分がいる。
いっそのことどうにでもなれ。
そんな俺をよそに肩をゆさゆさとしてきてぎゃーぎゃーとレトさんは騒いでる。
「もういいじゃ………ん」
「……………………。あ……」
勢い良くこの状態で振り向いたのは悪手だった。今現在、彼とは少しでも動いたら顔が触れてしまう距離。
「ご、ごめ」
「喉乾いた」
「え」
「お茶、とってくる」
そそくさとその場を離れて俺は冷蔵庫を開ける。
きれいに並べられた彼用のお茶と自分のお茶。
自分用のお茶が入ったペットボトルをグッと握りしめて噛み潰すように言う。
「………あー…もう……」
あの人相手じゃ、回復アイテムがないと耐えられない。
一気に流し込んだお茶の残りはほとんど残っていなかった。
fin.
ーーー
なたさん、リクエスト有難うございました!
遅くなって申し訳ありません!!
リクエスト内容に沿えていたら幸いです
コメント
2件
うわーー!!!ありがとうございます!!ずっとニヤニヤしながら見てました!最高です!!