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『お婆ちゃんの家』
小学五年生のYちゃんは、夏休みに一人でおばあちゃんの家へ泊まりに行くことになった。
おばあちゃんの家は山の近くにあり、周りには家がほとんどない。
夜になると真っ暗で、窓の外から聞こえるのは虫の声くらいだった。
夕食を食べ終わったあと、おばあちゃんはYちゃんに言った。
「今日は早く寝なさいね」
「なんで?」
「最近、この辺で変な人が出るらしいの。夜中に外へ出たり、玄関を開けたりしちゃダメよ」
Yは少し怖くなった。
「わかった」
その夜、Yは二階の部屋で眠った。
夜中の午前2時ごろ。
Yは、ふと目を覚ました。
部屋の外から、誰かが歩く音がする。
……ギシッ。
……ギシッ。
古い家なので、廊下が鳴ることは珍しくなかった。
すると、廊下から声が聞こえた。
「Yちゃん……起きてる?」
おばあちゃんの声だった。
Yは布団から顔を出した。
「おばあちゃん?」
返事はない。
しばらくすると、また声がした。
「Yちゃん……ちょっとこっちに来て」
Yはベッドから降りようとした。
その瞬間――
後ろから誰かに口を塞がれた。
「……!」
振り返ると、そこにはおばあちゃんがいた。
おばあちゃんは真っ青な顔をして、人差し指を口に当てている。
そして、Yの耳元で小さく言った。
「声を出しちゃダメ」
Yは混乱した。
「……おばあちゃん、どうしてここに?」
おばあちゃんは震えながら答えた。
「私も今、あの声で起こされたの」
二人は布団の中で息を殺した。
すると、廊下からまた声がした。
「Y……」
今度は、はっきり聞こえた。
「おばあちゃんが呼んでるよ」
Yはおばあちゃんの手を強く握った。
おばあちゃんは首を横に振る。
そして、廊下に向かって小さな声で言った。
「……誰?」
しばらく沈黙が続いた。
すると、廊下から返事が返ってきた。
「おばあちゃんだよ」
その瞬間、おばあちゃんの顔から血の気が引いた。
Yは小声で尋ねた。
「どうしたの?」
おばあちゃんは答えなかった。
ただ、震える手でYの口をもう一度塞いだ。
そして朝まで、二人は一言も話さなかった。
朝になって警察が来た。
昨夜、近所の家から通報があったらしい。
警察官は家の中を調べたあと、おばあちゃんに尋ねた。
「昨夜、誰か家の中に入った形跡はありませんでした」
おばあちゃんはホッとした。
すると警察官が続けた。
「ただ……一つ気になることがあります」
「何ですか?」
警察官は二階の廊下を指差した。
「ここに、**濡れた足跡がありました**」
Yは青ざめた。
「でも、昨日は雨なんて降ってないよ」
警察官は頷いた。
「そうなんです」
そして足跡を辿っていくと、それはYの部屋の前で止まっていた。
警察官がドアを開ける。
そこには何もなかった。
ただ、ベッドの下を覗いた警察官が、突然黙り込んだ。
「……おばあちゃん」
「はい?」
「この家には、**地下室がありますか?**」
おばあちゃんは首を振った。
「そんなもの、ありません」
警察官はベッドの下から、一枚の古い写真を取り出した。
そこには、若い頃のおばあちゃんと、見知らぬ女の子が写っていた。
Yが写真を見て尋ねた。
「この子、誰?」
おばあちゃんはしばらく黙ってから答えた。
「……私の娘よ」
Yの母親だった。
「でも、お母さんの写真なら、なんでこんなに古いの?」
おばあちゃんは答えなかった。
その代わり、写真の裏を見た。
そこには、震えた字でこう書かれていた。
**「この子は、私が殺した。」**
おばあちゃんは顔を伏せた。
そして小さな声で言った。
「……だから毎年、夏になるとあの声がするの」
「誰かが、私に娘の名前を呼ばせようとしてるの」
Yは意味が分からず、おばあちゃんを見つめた。
すると、廊下の奥から――
また声が聞こえた。
「Y……」
今度は、おばあちゃんでも母親でもない。
**Yちゃん自身の声だった。**
「……おばあちゃん、こっちにおいで」
コメント
1件
うわぁ…ラストの「自分自身の声」で呼ばれるところ、背筋が凍りましたね。初めて読んだのに既視感があるような――それでいて、娘を“♡♡♡た”という衝撃の告白と、濡れた足跡がとにかく不気味です。おばあちゃんの震えと、Yちゃん自身の声が混ざる感じ、設定の積み重ね方が巧みだなって思いました。続き、すごく気になります…!