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リディアの意外な答えに、ディオンは驚く。
「少しは、成長したのかな」
そう言ってリディアの頭を撫でてやる。すると、見る見る内に顔が真っ赤に染まった。
(こんな可愛い反応されると、期待してしまうだろう)
だが、リディアの事だ。ただ単に幼い子供じゃないのに頭を撫でられて恥ずかしいとか思っているだけだろう。
「ほら、おいで」
「え、きゃっ」
ディオンは徐にリディアを抱き上げる。驚いたリディアは小さな悲鳴を上げると、自ら抱き付いてきた。その事に思わず口元が緩む。
「何するの⁉︎ っていうか、何処連れて行くつもり⁉︎」
バタバタと暴れるリディアを、落とさない様にと確りと抱きとめる。
「頑張ったご褒美に、優しいお兄様が湯浴みに入れてあげるよ。お前、上から下まで粉まみれじゃないか」
「なっ⁉︎ 莫迦じゃないの⁉︎ 結構よ! 降ろして! この変態‼︎」
「冗談だよ。お腹空いたし、一緒にご飯にしよう。頑張ったご褒美に、優しいお兄様がてづから食べさせてあげるよ。でも、その前に湯浴みして着替えないとね……やっぱり手伝おうか?」
「結構よっ‼︎」
調理場には、二人が去ってからも暫くディオンとリディアの言い合う声が聞こえてきていた。その声と、調理場の見るも無惨な光景にハンナもブノワも深いため息を吐く。
◆◆◆
カリッと静かな部屋に音が響いた。シモンは、淹れたてのお茶を机に置く。
「ディオン様、お行儀が悪いですよ。それにこんな時間に召し上がるのは、よろしく御座いません」
左手に書簡を持ち眺めながら、右手ではビスケットを摘み口に放り込む。
何時もの事だが、ディオンはまるで人の話を聞いていない。都合の悪い事は聞き流す。ディオンの悪い癖といえる。
「苦っ……たく、焦がし過ぎだよね。こんな物食えた物じゃないよ」
そう言いながらもまた一つ口の中に放り込む。
なら食べなくて良いのでは?とシモンは思うが言わない。それはディオンが心からそうは思っていないと分かっているからだ。
本当は言葉とは裏腹に、妹が初めて作ったお菓子を、味はともあれ嬉々として噛み締めて食べている。
ディオンという人間は、本当に不器用だ。兎に角素直になれない。誰よりも妹を想い、大切に思っている。だが、不器用な性格故にそれをどうやって表現したら良いのかが分からないのだと思う。故に口の悪さも手伝って、悪態を吐き顔を合わせれば口論となってしまう。リディアも鈍い性格なのでまるで気付く事はない。
たまにそんな二人を見ていて、酷くもどかしい気持ちにさせられる。
シモンは随分と昔からグリエット家に仕えている。だからこそ、分かるのだ。この兄妹の複雑な関係が。いや、多分妹のリディアは余りよく理解していないかも知れない。主に兄のディオンが一人で抱え込んでしまっている。
「本当、不味い」
「ディオン様、私にも一つ頂けませんか?」
「ダメだよ。こんなの食べたらお腹壊すよ」
まだまだ沢山ある黒いビスケットを、ディオンはシモンから遠ざける様に置き直す。余程取られたくないのだろう。子供の様な仕草に、シモンは口元が緩んだ。