テラーノベル
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夕方の音が聞こえた気がした。
それが嫌で耳をふさいだ。
「やほ、調子どーお?」
真っ白な病室に軽い声がこだました。
私の友達の朝野唄。
幼稚園のときから現在高校二年生までずーっといっしょにいる。
「良くも悪くも。」
少し声が変わっただろうか。
声変わりなのか、病気なのか。
「そう。」
唄はそれだけ言って窓の外を見た。
唄は景色が好きで、写真を撮るのが趣味らしい。
今日は晴れ。
雨や曇りが多い最近では少し珍しいほど雲一つない空だった。
そうなったら、
「麻っ、屋上行こっ。」
やっぱり。
空が好きな唄には、もってこいの場所。
「うん。」
私が返事をすると、唄はおんぶの体制をとる。
私は歩けないわけじゃないのに、と言うけれど唄は、麻をおんぶするのが好きなの、と譲らない。
「ありがと。」
これだけ言って背中に乗った。
唄の背中が大きく、自分が小さく見えた。
「ふーっ、良い空だね。」
大きく伸びをしながら言う。
「カメラ持ってきた?」
私が聞くと自信満々な表情を見せた。
「あったりまえじゃん!忘れてたら家に戻ってるよ。」
そういえばそうだった。
前にカメラを忘れたときは、病室で気付き、ダッシュで家に戻り、カメラを抱いて帰ってきた。
そのときの照れたような表情は何かやらかしたときにする唄のクセだ。
カシャッ
シャッター音が聞こえた。
唄のカメラは撮ったらすぐに写真が出てくるタイプらしい。
覗いてみると、小さな写真の中に大きな空があった。
それを見ると、唄がカメラを好きなことが少しわかった気がした。
カシャッ カシャッ
シャッター音が心地良いので、目を閉じていた。
カシャッ カシャッ
~
シャッター音とは違った音が聞こえて、目を開けると唄が歌っていた。
唄はカメラも好きだけれど、歌も大好きらしい。
将来はカメラマンと歌手、どっちもなる!と言っていたっけ。
「歌ってるの、believe?」
私は聞いてみた。
唄はにっこり笑って大きく首を縦にふった。
また始めから歌う。
たとえば君が傷ついてくじけそうになったときは
必ず僕がそばにいて支えてあげるよ、その肩を
私の病気がもっと進んでも本当にそばにいてくれる?
あなたの求める私じゃなくなっても?
それを聞く勇気はなかった。
それを聞く理由も、そのときにはなかった。
夕方の音が聞こえる。
まだ、まだ。
コメント
1件
はい、読み終えました。とても静かで、それでいてぎゅっと心を掴まれるようなお話でしたね。 特に印象に残ったのは、屋上で唄さんが歌う“believe”の一節が流れるところ。麻さんが「それを聞く勇気はなかった」と心の中でつぶやく瞬間、ふたりの距離と想いが、優しくも切なく響いてきました。病室の白さ、空の青さ、夕方の音――すべてが繊細な絵のように浮かびます。続きがとても気になります。
7
黒歴史つくーる
36
芙月みひろ
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