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又、
この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。
ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
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🧪『』その他「」無線「”○○○”」
市民曰く、彼はすこぶるお人好しである。
市民曰く、彼は太陽のように暖かい人である。
市民曰く、彼は人間味の溢れる警察官である。
「でさぁ、その黄金の風って人?がめっちゃ面白いし良い人で~(笑)、名前が確かぺん?だっけ、なんか黄色いお面被ってる人なんだけど~(笑)、もう既に面白くない?」
『はぁ…そうですか』
聞きたくもない情報が右から左へと流れて行く、情報多過なロスサントスの街。
会う度に世間話を持ちかけるこの街の人間はとてもお喋りで、それでいて時たま重要な話を軽々しく口にする。
紛れた言葉はぐちゃぐちゃと頭の中で丸まって、結局は数時間も経てば要らぬものだと判断してしまう。
「反応薄~(笑)、てかお兄さん名前なんて言うの?、助けてくれてありがとうね」
バイクのガソリンを入れようと立ち寄ったその場所で、一人の女性が呆然と立ち尽くしていた。
膝には怪我を負っており、流れ弾でも当たったのか…、肩にもほんの少しのかすり傷が出来ていた。
そこから流れる血が服を汚し、それでも彼女がずっと立ち尽くしていたので、仕方なく治療を施したまでだった。
「ねぇ名前教えてよ」
『あぁ…ええと。…空架です』
名前を告げればニコリと笑って、彼女は握手を求めてくる。
「そっか。空架のお兄さんね?、ありがとうマジで(笑)、助かったよ」
『いえ…医者としての責務を果たしただけなので』
求められた握手は遠慮して、ぐち逸は医療バックを懐に収める。
「私は名前ないけどさ。空架のお兄さんが人として見てくれたから、一応人格は芽生えたよ」
『…それは……。何よりです』
心無きと呼ばれている一般市民にも命はあって、声があって、気持ちがあって。
それらを本当の人として認識する市民はほぼいない。
だって彼らはそういうものだから。
何故だかそう刷り込まれて生きているこの街の可笑しさと真理に、誰も触れようとはしない。
「請求書も送れないでしょ?、なのにごめんね。助けて貰っちゃって」
『いえ。お金を頂ける方にしか請求は切らないので』
「そっかぁ(笑)、空架のお兄さんは優しいんだね」
トントンッと柔く肩を叩かれて、その女性は何事も無かったかのようにスマホを手に取る。
「じゃあ私は戻るから。またいつか」
『……。』
“一応”芽生えたその人格がストンと抜け落ちるかのように、彼女は軌道修正をして歩道をトタトタと歩き出す。
たった数分の手当てと会話に満足気な笑みを浮かべて、心無き市民の一人はその場を後にした。
『………はぁ、』
その数十秒後に聞こえるのは、頭痛の引き金になりそうなほどの大きなサイレン音。
やかましい音をたてながらぐち逸の近くに停車したそのパトカーの主は、ガチャリとしっかり施錠をしてからこちらに目を向けてくる。
「ん、あれ?、ぐち逸じゃん!!、久しぶり〜!」
仮面越しからでも分かる喜びに満ちたその声色に、ぐち逸は眉間のシワを一気に寄せた。
「何ヶ月ぶり?、てか此処で何してるの?」
ガソリンスタンドに隣接しているコンビニにチラリと視線を流して、ぐち逸は口を開く。
『買い物をしに来ました』
「あっ、ほんと?、ごめんねごめんね、じゃあ直ぐにリセットしちゃうから」
このコンビニの事件対応をしていたのが伊藤ぺいん率いる何人かの署員だったらしく、途中で 役割分担を行い結果1人が帰ってきたらしい。
『犯人は捕まりましたか?』
「全然よ。なんかめちゃくちゃチェイスが上手いみたいでさ、今もずっと後輩たちが追いかけてるっぽい」
無線の声に心做しか疲れた笑いを浮かべて、ぺいんはリセットを完璧に終える。
「リセットしてきたよ。どーぞ使ってください」
『あぁ、どうも』
淡白に述べたその言葉にうんうんと頷いて、ぺいんは自身のパトカーに腰掛ける。
適当に水を5本買ってから駐車場に戻れば、そこにはやはりぐち逸を待つ警察官が当たり前のように佇んでいた。
『……あの、』
「ん。どうした?、ぐち逸」
『…………そのお面。面白いですね』
「……え?」
特にこれといって話す話題もなく、数分前に聞いたあの言葉を本人に直接ぶつけてみる。
『名前は確か…ぺんさん』
「え、え?、まって、誰と間違えてる??、」
軽く指を差されて告げられたその言葉に、ぺいんは酷く動揺した。
『……。冗談ですよ。恐らく此処で人質になった女性が、貴方の事を話していたので。…もう、関わる事も出来ないでしょうし。代弁をと思いまして』
「ぇえ~?、もうびっくりさせないでよ~。いきなり記憶が吹っ飛んだかと思ったよ~(泣)」
めそめそと安堵してからコキリと首を傾げ、続けてぺいんが言葉を漏らす。
「というか代弁?、人質になった女性って確か…」
『心無きの方でしたよ。派手な色のTシャツを着た女性です。その方が貴方の事を面白くて良い人だったと言っていました』
「、いや、でも、俺は別に何も…、」
『でしょうね。恐らく“人質を解放しろ”とか、“条件はなんだ?”とか。ただの仕事をしたに過ぎない貴方の事を、随分と過大評価していました』
なんなら今の警察はきっと、人質が開放された後はその場に市民を放置してパトカーに乗り込む始末だろう。
『怪我を負って立ち尽くしていたので、軽い治療を施したら会話が成立するようになって。そんな彼女がずっと貴方の話ばかりをしていたので…。余程、感謝の念があったのだろうと思いました』
まるで誰かの遺言を聞き届けたかのような口ぶりに、ぺいんは嫌に胸が締め付けられる。
「そ、それで、その女性はどこに?、もう帰っちゃった?」
『えぇ。いつも通りの生活に戻っていきましたよ。……不思議ですね。私には何故だかそれが最期の別れだと感じたんです。…この街に死は存在しないと豪語する人間が多い中、私にはやはり、、それが正しいとは思えません』
何となくわかっている真実と、理解してはいけないと直感で雲隠れする大事な命の重さ・儚さ。
『まぁそれ以外にも理由はありますが、…まだまだ、私は貴方のような価値観にはなれないという事です』
少しずつ噛み砕いて、歩み寄るフリをして、そうして自分たちの世界(価値観)に引きずり込もうとする正義のヒーロー。
『彼女曰く、貴方は優しい方だったそうですよ』
「………、いや。そんなことないよ、絶対に」
『えぇ。私もそう思います』
「んー(笑)、それはそれで傷つくなぁ…」
困ったようにうなじを軽く引っ掻いて、ぺいんはしょぼしょぼと力なく笑う。
『では証明してください。貴方が良い人である事を』
「…うん。めっっっちゃ難しいけど、ちょっとずつ頑張ってみるよ」
少しだけ元気を取り戻したその声色にため息を漏らして、ぐち逸はバイクに跨る。
『あぁそういえば、これよければどうぞ』
サッと一瞬だけ地面に足をつけてから、パッとぺいんのポケットにお薬(薬物)をねじ込んで出発をする。
「゙あっ、ぁあッ?!、ちょっ、ぐち逸ッ!、ぐち逸待て~っ!、これはダメなやつだって何回もッ、っ、」
“何回も言ってんだろ~ッ!!”とスーパーシャウトにした声が後ろから響き、ぐち逸はそれでも一切後ろを振り向かずにバイクを走らせる。
パトカーの音が街に響き始めた頃には、個人医であるぐち逸の姿はきれいさっぱり警察の目を掻い潜って、またいつものお仕事を始めていた。
市民曰く、彼はユーモアのある人間である。
市民曰く、彼は向日葵のような人である。
市民曰く、彼はいつも笑顔を絶やさぬ警察官である。
「ちょちょちょちょッ!、待って待って!、いま人が乗ってるのにインパウンドしたでしょ!、」
「?、確かにそうだが…?、なぁ?」
しかしながら必然的に“心無きの民”という言葉がふわりと二人の脳裏に浮かぶ。
「そうだけど、パっていきなり消したらその人も一緒に消えちゃうじゃん、」
「そりゃそうだ。何当たり前のこと…ン、つーかイトセンどうしたんすか?、だいぶ疲弊している様に見えるが??」
先輩の不思議な言動に訝しげな表情を浮かべつつも、後輩の警察官は次々と手際よくインパウンドをしていく。
稀に起こる玉突き事故で、大通りに心有りの住民が車を放置し…そこから心無きの住民がどんどんと絡め取られて行く代物だ。
ある程度の定まったルートしか通れない心無きの市民は頑なにその場からは離れず、ドシャドシャと車体を擦り付けながら鉄の塊が増えていく。
「さっさと消さねぇと、また市民対応の電話が四六時中鳴ることになるぜ?。俺は良いが…アンタは他にもやる事があんだろ?」
犯罪都市のロスサントスに休息は無い。
「まぁ任せとけって。俺が全部綺麗さっぱりどうにかしてやりますよ。アンタはそうだなァ…、あぁ、じゃあそこら辺にでも座ってたらどうだ?」
「ぇ、あ、」
早朝から街中を走り回っていた先輩を100%の善意で気遣って、後輩は割と真面目に仕事をこなそうとタブレットを握りしめる。
「心配すんなよ、これぐらいなら俺だけでも事足りるぜ。なんだかんだ言って、イトセンにも後始末のケツを拭いて貰う時があるからな(笑)、これはその礼だ」
根が真面目なオレンジ色の瞳が申し訳なさをハニカミでごまかし、そんな姿を見てしまえば“違う違うそうじゃなくてね、”とは言い出せなかった。
「、…、そっ、かぁ、うん。うんうん。分かった、じゃあ俺はちょっと休ませてもらうよ。ありがとね」
ポケットにねじ込まれたペットボトルのジュースを片手に、伊藤ぺいんは歩道に設置されているベンチに腰掛ける。
インパウンド作業の最中に掛かって来る市民対応の電話に“はい、はい、…あ?”と偶にキレながら手際よく作業をするその姿は、まさに縁の下の力持ち。
方針は違えど正義感のある警察官だ。
住民が困ることのないようにと、彼は一生懸命に頑張っている。
「すぅ…はぁ~……、いやぁ~、摘めないよ、こんなに頑張ってる後輩の蕾、もぎ取れません…、」
花に例えるなら、みんなに底なしの明るさを与え続けるガーベラのような青年だ。
何故だか意図的に隠している真面目さも相まって、不器用なその姿に手を貸してあげたくなる。
「……でもなぁ、あれ、人乗ってんだよなぁ…、」
チラリとお仕事中の彼を見つめれば、次々と消えていく心無きの車とそれに乗車している民間人。
車内の雰囲気だけはまるでこちらの世界とは違く見え、パッと消えるその瞬間まで、ずっと罵詈雑言を放ったり…はたまた助手席にいる知人とくだらない話を語り合っている様子が見られる。
「ンッ、ンっ、…っ、っはぁ…、」
貰ったジュースを飲み干して、ぺいんは小さなため息を漏らした。
脳裏には空架ぐち逸の姿がふわふわと浮かんでは消え、少しずつ、ほんの少しずつ、自分が良い警察官であるという事を知らしめてやりたいと心が訴えてくる。
「゙ぅ~…、俺の中のぐち逸が、冷ややかな目で見てくる…、そんな目で見ないでよぉ…」
ランクの高い警察の上官として、真っ当に仕事をしているはずの後輩に“これ人いるよね?、出してあげないとね?”と仕事をあえて増やす様な面倒極まりないちゃちゃを入れられるほどの度胸は持ち合わせていない。
「俺も結構頑張ってるはずなのに~…、」
自分を改める事が出来たとしても、他の署員にそれを提言するような真似は出来ない。
だってどう考えても彼らは心無きの市民で、そしてこの街ではその扱いが正しいとされているのだから。
「ふぅ~、、おっけ。切り替えよう」
パシリと自身の太ももを叩いて、ぺいんはなんとは無しに車道を眺める。
チラリと眺めたその先には、何故だかバチりと目が合う心無きが一人。
「、……、…ぇ、」
たまたま目が合ってしまって、逸らすにもなぜだか逸らせなくて、車内に座るその市民が覚醒したかのように…そっと窓に片手を添える。
「っ、…、」
絶対に、確実に、こちらに向かってその手をゆっくりと……窓にぺたりと、貼り付けていた。
冷や汗と動悸が止まらなくて、声を出そうにも言葉が出てこない。
相手は暴れる様子もなく、ただ静かにぺいんの事をじーっと眺め…そのままパッと…、一瞬にして姿を消した。
「ッ……、っ、っはッ、はっ、はっ、は…、」
車両ごと一気に跡形もなく居なくなり、その行く先は警察官とて分からない。
押収した心無きの車は一体何処へ。
それは伊藤ぺいんとて分からなかった。
「はっ、はっ、ッ…、……あぁ、」
ただ一つ分かったとするならば、一流の医者と豪語する彼が述べる言葉は、あながち間違ってはいないという事だ。
でもその真理に気がついてしまえば、きっと署員の者たちは精神を病んでしまうだろう。
彼らにもし本当の命があるのならば、自分たちはこれまで…どれほどの民を消してきたのか。
「…はは、」
嫌な奇跡を起こしてしまったと、ぺいんはニッコリとした仮面の下でじわりと涙を溜めた。
頭の中の空架ぐち逸は、俺に落胆して息を吐く。
「ぁぁ、怖いなぁ…、」
会いたいような、会いたくないような、ロスサントスの運命に身を任せて…、黄金の風はその後も街の平和を一生懸命に守り続けた。
市民曰く、彼は頑張り過ぎてしまう人間である。
市民曰く、彼は努力家で人の感情に敏感である。
市民曰く、彼は人に優しく、そして自分に厳しい警察官である。
そんな話がふわりと耳に流れてきて、空架ぐち逸は眉間にシワを寄せた。
そのような人間がたどり着く末路は、恐らく自身の傷にも気が付かずに…パッキリと小枝のようにいとも簡単に、心と身体が疲弊していく。
相手を思うが故の優しさが、まるで壁打ちをしたボールがみぞおちにヒットするかのように、強く強く、その身に跳ね返っては弊害をもたらす。
『………。』
ぐち逸は頭の片隅でそんなことを考えながら、テキパキと目の前にいる怪我人に治療を施していた。
「いてててて…、いや〜助かった、ありがとね」
『いえ。しばらくは安静にしていてください』
請求書をしっかりと送ってから、医療バックを懐に収めて周囲を見渡す。
「あぁそういえば、俺いま指名手配中だから。さっき相打ちになった警察官が一人転がってるよ。んーっとねぇ…、あぁ、あそこ」
ぐち逸の性格を知ってか知らずか、暗がりな脇道にぶっ倒れている警察を指差してクスクスと笑う犯罪者。
「今日救急隊も少ないらしいし、良かったら助けてあげて?」
『言われなくてもそうします』
「さすが個人医。かっこいいねぇ~(笑)」
面白さと物珍しさが半々といったところか。
松葉杖をついた男は颯爽と現れた仲間の車に乗って、ぐち逸が脇道にそれる姿をチラリと眺めてから去っていった。
『大丈夫ですかぁー…』
トタトタと薄暗い道を行けば、そこには赤く広がる血溜まりと息をこらす伊藤ぺいんの姿。
『伊藤刑事、大丈夫ですか』
すぐさま医療バックから必要な物を取り出し、またテキパキと治療を施す。
「ぐ、ぐち逸、っ…、」
いつもなら“勝手に治療をするなぁ!”と苦し紛れに呟くはずの声が、今日は喉を締めているのか聞こえない。
除細動器を行使して、ぐち逸はそのままぺいんの命を静かに繋ぎ止める。
『…。はい。出来ましたよ』
よろりと立ち上がったその男は酷く髪が乱れていて、心做しかいつものハツラツとしたオーラが薄いように感じた。
『しばらくは安静にしていてください。……。』
上から下までを視診して、ぐち逸はまた口を開く。
『…貴方、少し痩せましたか?』
「…あ~えっと、ちょっと食欲湧かなくて、」
『はぁ、そうですか』
「、、ていうか、こら。ダメでしょ勝手に警察起こしちゃ」
『救急隊を呼ばれていたんですか?』
「それは…、ん~。゙ん〜…」
困ったように喉を鳴らして、ぺいんはポツリと呟く。
「んーん。呼んでない」
『そうですか。では私が先に訪れた医者です。貴方にとやかく言われる筋合いはありません』
「俺の身体なのに??」
『怪我人は正常な判断が出来ていない場合がありますから。…医者を呼ぶ気力すらなかった貴方の思考は、怪我が治ったとて正常ではありませんけどね』
ぱちりと瞬きをして、ぺいんは首を傾げる。
「俺ぜんっぜん元気だよ?」
『はぁ、それは良かったです。原因はあの時の会話ですか?』
その言葉にぴくりと身体が一瞬跳ねる。
じわじわと汗が滲んで、ぺいんは口を噤んでしまった。
『気が付かれたのですね?、歪なこの街の現実に』
自分が住んでいた街のはずなのに、どうも拭いきれないおかしな点。
おかしいと思っていても、わざわざ口に出す者も居ないだろう。
『呼吸をするかのように人が撃たれ、ダウンをし、次の瞬間には息を吹き返す。…けれど、それが可能なのは心を持つ市民のみ。…では、他の住民の命は、…一体どこへ消えるのでしょう』
「……分からないよ。そんなこと」
『えぇ。私にも分かりません』
けれどもきっと、それらは深く考えてはいけない領域で、その真理に気がついてしまえば…黒市民はともかく、他の住民は容易に生活など出来なくなるのだろう。
「…ぐち逸。俺ね、すっごく頑張ったんだよ。お前に良い警察官だって認めて貰えるように…、良い人だって、もっと、頼って貰えるように、」
けれども結局は、この世の摂理には抗えない。
「俺、頑張ったんだけど、っ、でも、ッ(泣)、」
張り詰めていた緊張が一気に解けて、仮面の下からポロポロと涙が零れ落ちては警察服にシミをつくる。
「証明、出来なかったよ、(泣)、俺、ぐち逸にもっと、ッ…信じて貰いたかったのに(泣)、」
ぺいんの頭の中に居る空架ぐち逸はくるりと背を向けて、一向にこちらを見てはくれない。
冷たい視線すらも送ってくれないほどに、自分は随分と落ちぶれてしまったらしい。
「゙ぅぅ(泣)、ッ…(泣)、゙ぅ……(泣)、」
そのまま力なくしゃがみ込んで、ズルズルと壁伝いにぺいんが尻もちを着く。
薄暗い路地裏、そこには2人しか居なかった。
『………、…はぁ…。困った方ですね、貴方は』
ぐち逸がぺいんに一歩歩み寄り、そのままゆっくりとぺいんの正面にしゃがみ込む。
『皆さん曰く、貴方は優しくて、真面目で、明るくて、口を揃えて良い人だと言います』
「っ、そんなことないよ、俺は、平気で人を殺せる人間なんだ、っ…きっと、そうなんだ、」
『……いいえ。私も、貴方が良い人だと思っていますよ』
「……ぇ、」
面倒そうにカチャリと眼鏡を整えて、ぐち逸は丁寧に言葉を重ねる。
『貴方は確かに、私にとっては優しさを感じ得ない所がしばしばと見受けられますが、…この姿を見て、貴方が悪い人だのと思う事はありません』
「、でも俺、証明出来なかったし、」
『証明というものは、必ずしも結果を出して決めるものではない筈です。悩み抜いた過程や経過、人の生きているさまでそれは分かります』
沢山この世の摂理に向き合ったからこそ、髪は乱れて気力は落ちて、罪の重さで生きる活力が乏しくなっている。
『名前も分からぬ市民の心を蔑ろにせず、沢山向き合ったのでしょう?』
優し過ぎるが故の弊害が、少し…いやだいぶ、表に出てきてしまってはいるが。
『だから貴方は良い人です。信頼もできます。…しかし、利害の一致は難しいです』
一丸となって正義を掲げる警察と、己の信念を貫く個人医だ。
そりゃあ時には衝突もする。
「ズッ…、っ。…お前、ほんとに良い奴だな…」
『はぁ、そうですか』
淡白にぐち逸はそう述べて、汚れたそのアスファルトに膝を付ける。
「足痺れた?」
『いいえ。貴方に逃げられては困るので』
そう言ってゆっくりとぺいんの方へと身体を寄せて、ぺいんのその身体には大きな影が出来上がる。
「ぇ、っと…、なに、…へ?、」
血濡れたお面をそっと外し、そのままひたりと頬に片手を添えるぐち逸。
「なに、なになになになに、なにこれ、ぇ?、」
『どれだっけか…』
挙動不審になるぺいんを他所に、ぐち逸はスタッシュをがさごそと漁って一本の瓶を取り出した。
カチャリと揺れるその中身は、青々と煌めいて余計に怪しい。
「そ、それ、なに、」
『ん。頂き物です。”ツゴウヨクワスレール”という魔法薬らしいですよ』
間髪入れずにきゅぽんと蓋を開けて、ぐち逸はそのままぺいんの口元にそれを押し付ける。
『飲んでください』
「ぃ、いやッ!、待って!、飲みたくないかも!、俺飲みたくないッ!」
『いいじゃないですか。この世の摂理を都合よく忘れるだけですよ?、そうすれば心身ともに回復します』
「そうかも知れないけどそうじゃなくてッ、゙ん~、せっかくぐち逸と腹割って話せたのに!、全部無かったことになるの嫌だっ!」
あまりの必死な圧に押されて、ぐち逸が一旦腕を下ろす。
『全てを忘れる訳ではなく、都合の良いことだけを覚えていればいいんですよ』
「そんな都合よく解釈できないよ、飲んで全部忘れちゃってたらどうするの?、」
『私にとっては都合がいいですね』
「俺はいやなんですけど??、」
要領よく覚えていたい事だけを強く念じていれば、きっとそこだけを覚えていられる。
しかし、少しでも綻びが見えて、そのうちパズルのようにカチリと全てがはまってしまったら…それはきっと、この魔法薬の効果では補えない程の情報量だったという事だろう。
『物は試しです。飲んでください』
無理やり口元に押し付けても、結局は嚥下をしてくれなければ意味がない。
「んん〜!、」
イヤイヤと子どものように駄々をこねるぺいんを眺めて、ぐち逸はそれはそれは長々とため息を吐いた。
『はぁーー…、…。…貴方、私の事はお嫌いですか?』
「っ、え?、」
唐突に変わったその話題に、ぺいんは目を丸くする。
『人として嫌いですか?』
「ぇ、や、その、っすすすすき、だけど、いや、別に変な意味じゃなくて!、純粋に好きだよ!、嘘じゃないッ、」
『そうですか…。では、問題ないですね』
てっきりめちゃくちゃに嫌われているかもしれないとも思ったが、こんなお人好しが人を毛嫌いする訳もなく…ぐち逸はそれを見越した上で、青い液体をそのまま自身の口にふくりと含む。
ぺいんの両頬に手を添えて、そのまま柔く口付けて、ぐち逸はぺいんの口内にその魔法薬をコクリと流し込んだ。
「へ、まってまって、っ、ンッ、っ…、っ、ン、んく…、っふ、ッ…、っは、はっ、はっ、」
ただただ静かに流し込むだけの作業を行って、ぐち逸はそっと立ち上がる。
『この事も、出来れば忘れてください。…、…。それでは、また』
かくりと催眠をかけられたかのように、一瞬だけ眠りこけたぺいんは目を覚ます。
周囲には誰も居らず…辺りを見回してみても、追跡していた指名手配犯の姿も見当たらない。
「あれ…、俺、何してたんだっけ…、」
まるで夢を見ていたかのような、そんな気分でのそりと立ち上がった。
遠くから聞こえる僅かなバイク音と、薄暗い路地裏に転がっている真新しいガラス製の瓶。
「これ、魔法少女カフェの…、、ん〜…、」
何かがしっくりこず、それでもぺいんは警察官だ。
無線から聞こえる慌ただしい声を拾い上げて、次の事件現場へと足早に向かった。
市民曰く、彼は見境もなく人を助ける人間である。
市民曰く、彼は何を言っても淡白な人である。
市民曰く、彼は真面目で、そして少しだけ…身の上が可哀想な個人医である。
「ぐちーつぐちーつ!、俺ちゃっかり思い出したよ!!、」
『はぁ…、何をですか?』
「俺さ、ぐち逸にキスされた!」
“したでしょ?、したよね?!、”と何故か上機嫌に問いかけてくる犬のような男。
『…………いえ、していません』
「はい嘘!、転がってた瓶の指紋取りました〜。照合したらお前の名前出てきてさ、次いでにその時の記憶もちょっとだけ思い出したって訳」
『なぜそこだけを…、、はぁ……』
自慢げなぺいんの姿をジト目で見つめ、ぐち逸はいつも以上に重いため息を漏らす。
「後のことはあんまし覚えてないけど、、きっと何かあったんでしょ?」
『…いーえ。特に何も』
僅かな綻びが、また警察官である伊藤ぺいんを苦しめる可能性はゼロではない。
街の事実を知っているのは自分だけで、そもそも誰かに共有する必要などなかったのだ。
ただほんの少しだけ、繋がりを得たいと思っていた自分の弱さがじわりと胸に跡を残す。
「え〜、何隠してるの?、教えてってば」
『言いません』
チラリとその姿を視診すれば、幾分か元気になった様子の伊藤刑事が腰に両手を当てて不貞腐れていた。
「も〜…、じゃあいいの?、俺が勝手に解釈しちゃって。……ぐち逸は、俺の事が好きだから、キスしたって。…思っちゃってもいいの?」
明らかにそれ以外に何か理由があるはずなのに、ぐち逸は口を噤んでしばらくぺいんを睨みつける。
「いいの?」
『……、……。…、…はぁ…。…まぁ、…いいですよ。それで』
「めっちゃ嫌そう(笑)、ねぇそれもちょっと傷つくよ〜(笑)」
クスクスと笑うその姿に安堵する自分がいて、ぐち逸は不意にぺいんのお面をサッと取り外した。
「!、びっくりしたぁ、ッ、ちょ、」
『……。あぁ、元気そうですね』
頬に触れれば温かみがあり、急激に熱の上昇を感じる。
『顔が赤いですよ。伊藤刑事』
「いやいやいやっ、お前のせいだから!、」
『はぁ、そうですか』
個人医は淡白にそう呟き、その手をゆるりと離した。
『では私はこれで…』
「ッ、待って」
背を向きかけたその姿に、思わず手を伸ばす。
ぱしりと捕まえたその手は冷たく、しかし振り払われる事はなかった。
「あのさ、」
『…はい』
「…お前の気持ちは、分からないけど…。…俺はちゃんと、…、ぐち逸の事がすきだよ」
その言葉に、ぐち逸の目が一瞬丸くなる。
『……えぇ。知っていますよ。前にも確認しましたから』
切羽詰まった状況で、人として、純粋に好きだと言っていた。
「…ぐち逸は?」
『……私は…、…貴方は、良い人だと思います。信頼もできます。それ以外は…まだ、分かりません』
「うん、そっか。…うんうん(笑)、まだね?」
超絶ポジティブなその心が、空架ぐち逸という男を少しずつ引き寄せる。
「まだって事は、いつかは分かるもんね?。うん(笑)、俺頑張るよ!、もっと頑張る」
脳裏に過ぎるのは、頑張り過ぎて精神を病む真面目な人間の成れの果てだ。
『……。』
「?、なに?」
本人はなんともない様子でヘラりと笑うものだから、余計にタチが悪い。
ぐち逸はしばらく考えて、カチャリと眼鏡を整えてから口を開いた。
『…、…頑張り過ぎないでください。…。…心配、…なので』
それが空架ぐち逸にとっての、最大限の優しさだった。
気恥ずかしくて胸が痛み、ぐち逸はぺいんの手の中に収まるその手首をするりと引き抜く。
「ッ、ねぇ、それってもう…、好きじゃん、俺のこと、」
『…あ、患者の通知が来ました。それではまた』
ワナワナとするぺいんを置いて、ぐち逸は颯爽とバイクに跨りその場を後にする。
「お前俺のこと絶対すきだってッ!、っ、もう!、絶対分からせてやるからな〜ッ!」
素っ気ないぐち逸の態度に、喜びを通り越して宣戦布告が溢れ出す。
背後から聞こえた意味のわからぬ言葉に、ぐち逸は振り返りもせずに去っていった。
しかし、その口元は少しだけ…、ゆるりとほころんでいるような気がした。
彼曰く、[完]
コメント
3件
物語の展開と伏線の回収が鮮やかすぎて思わず膝を叩きました、あの世界観の再解釈が素晴らしすぎる…!ちょっぴり切ない🟡🧪をありがとうございます🙏
読みながらニヨニヨしてしまいました。そして新しいものに目覚めました🤤