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山奥の更に奥。
木々が生い茂る大自然。
本来ならば少し暗く見えてもおかしくない様な場所だが、不思議と明るい。
そんな中、苔が付いた、石階段を登り、目に映ったのは─
小さいながらも、堂々とそびえ立つ神社。
その境内を清掃している巫女が、階段から上がってくる人を見かける。
「おや?参拝の方ですか!?」
「えー……と迷子になっちゃったんスよね……」
紫色の髪と綺麗な金色の瞳。
後ろに垂れるほど長いマフラーで神社に居そうな和風の服を着ている人物。
「ボクの名前は朝東風伊吹、此処は何処なんスか?」
「……うん?もしかして君、外の世界の人間?」
「おぉ!早苗以外にも居るとはな!」
境内で清掃をしていた人物の奥から、
つまり本殿の方から二人の声が聞こえる。
1人は金髪のショートボブ。青と白を基調とした「壺装束」と呼ばれる女性の外出時の格好をしている。足には白のニーソックスを履き、市女笠のような帽子に目玉のようなものが付いている。
もう1人は紫がかっている青髪で、サイドが左右に広がった、非常にボリュームのあるセミロング。
冠のようにした注連縄を頭に付けており、右側には、赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。
瞳は茶色に近い赤眼。そして背中に、複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたものを装着している。
外で清掃していた人とは違い、巫女のような服装をしていない。
二人から普通ではないオーラを感じ
取れる。
本殿にいることから恐らく本当の神聖な……
そして、最初にされた質問の意味を聞き直す。
「外の世界?」
「諏訪子様〜それ最初に言われても分かりませんって!」
そう突っ込んだのは境内で清掃をしていた巫女のような人物
胸の位置ほどまである緑のロングヘアー、
髪の左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている。
頭には蛙と白蛇の髪飾りが取り付けてある。
ファッションセンスは分からないが不思議と似合っている。
金髪の少女、諏訪子と呼ばれていた人物がハッとしたように話し始める。
「あ、そっか、え〜もう説明面倒くさいから早苗おねがーい」
緑のロングヘアの巫女は早苗と言うらしい。
「私ですか!?幻想郷の事情なら加奈子様のほうが詳しいんじゃ……」
本殿に居るもう1人、紫がかっている青髪の加奈子と呼ばれていた人物が話し始める。
「こういう説明は巫女である早苗、お前の役割だろう」
やれやれ、という感じで説明責任を丸投げにする。
「それ面倒くさいだけですよね!?」
「良いからやってよ〜」
……ボクの存在忘れられたのだろうか?
目の前で茶番を広げる彼女等に対して、どう声をかければ良いのかわからない。
すると諏訪子がそれに気付いたのか、こちらに振り向き声を掛ける。
「ほら君も、伊吹君だっけ?そんなところ暑いから中に入りなよ〜」
仮にも、本殿であろう場所に招待される。
「えぇ……そこ本殿でしょう?ボクが入って大丈夫なんスか……?」
「安心しろ!神様である我々が直々に赦す!」
やっぱり神様だったのかこの人達。
尚更大丈夫じゃないと思うのだが……
そう考えつつも、一応神様からの招待なので無下には出来ないと思い、大人しく本殿へと上がる。
「さて、それじゃあ自己紹介だね」
本殿へ上がり、落ち着いたところで、諏訪子が話し始める。
「私は洩矢諏訪子、気付いてるだろうけど、一応神様だよ。
幻想郷にはみんな能力を持っていてね、私は坤を創造する能力。
それでこっちが─」
加奈子の方に手を向け、紹介しようとしていたところで、被せるように話し始める。
「この私こそが山の神であり!此処守屋神社の祭神の一柱!八坂神奈子である!」
あまりの迫力に、思わず体を後ろへ逸らす。
そんな事をしていたら、早苗が隣で突っ込む
「それで?加奈子様はいつまでそんな迫力を出しているおつもりですか……?」
「……もうしなくて良い?」
「しなくていいと思うよ〜」
身内でしか分からない話を不思議に思いながら聞いていると、次の瞬間
「いや〜……威厳を保つのも辛いわね」
威圧感が、消えた。
「……え?……ええ??」
あまりの豹変ぶり……というか温度差に困惑を隠せない。
「いや〜神様として神聖保つのは大事なんだけどね。
堅っ苦しいのは好きじゃないのよ」
普通の女性のような話し方になっている
先ほどの、堅苦しい雰囲気とは違い、物腰が柔らかさそうな、フランクな雰囲気を纏っている。
そんな考えをしていると、諏訪子が呆れ顔で話し始める。
「良いからさっさと説明しちゃおうよ、早苗早く〜」
入った時からずっと本殿の畳の上でゴロゴロしている諏訪子に急かされ、早苗がようやく説明を始める。
そうして、一通り説明を受けた後。
「つまり、此処は幻想郷っていう外とは陸続きの異世界で、神様とか色んな種族が暮らしている場所ってことッスか」
まぁ、何となく異世界な感じはしていたが、いざ言われると、改めてここに飛ばされている理由が分からない。
「理解力たっか、似たような状況でも経験したことがあるんですか?」
早苗が驚いたように話す。
特に答えられない質問でもなかったので、自分の状況含めて一応話しておく。
「ボクは元は神社生まれで、生まれつき霊感が高いんスよ。
そのせいで幽霊とか見えちゃうんスけどね」
昔から不気味がられていた特異体質。しかし、ここの人達は違うようで」
「え?幽霊が見える……ですか?」
「ここじゃ普通だな」
「その辺にいるよ〜」
不思議そうに話す早苗達。改めて、ここが幻想の世界なのだと悟る。
そんな事を考えていると、上から声が降ってきた。
「助けて下さああああい!!!」
次の瞬間、地面が少し凹むほどの着地と、衝撃音が鳴り響く。
「あ!また空から落ちてきたの!?ゆっくり降りてこいっていつも言ってるでしょ!!」
いつもの事なのか、諏訪子が怒りながら注意する。…… 可愛らしい。
「いやぁ!ごめんごめんってば!
新しい子がうちに来てね!霊夢から御札をもらいところなんだ!」
半ば謝る気があるのか無いのか分からない。ただただ楽しそうな彼女は─
「そこ、直してから行ってくださいよ?
あ、そうだこの方は天界に住む比那名居天子という方です、一応は偉い方なんですよ」
早苗が簡素に紹介をしてくれる。
その隙に逃げるように去っていく天子。
「あ!こら待て!!今日こそは許さないからね!!」
諏訪子が大声で叫ぶも、笑い声だけが響いて消えていった。
「今の……新しい子って……」
見覚えがある。
同じ学校の……同じクラスの……天瑞観月。
以外な人物との再会、向こうはこちらには気づかない様子で連れて行かれたが。ボクは知っている、彼の事情を、彼の惨状を。
だからこそ”ありえない”はずだ。
だが、今の彼は何処か楽しそうに……。
一つ、会話中に聞こえた言葉について質問する
「なんで彼女は霊夢さんに会いに行くんスか?」
「新しい子が来たって言ってたから幻想郷に住むんだと思うわ」
幻想郷に住む……それが出来るなら……ここが幻想の世界だと言うならもしかしたら……。
「ボクもここに住んでいいスか?」
「……唐突だね、どうして?」
諏訪子が聞き返してくる。畳の上でのんびりしているように見えるが、少し警戒しているようだ。
「……さっきの外の世界のやつ、ボクの同級生なんスよ。
ちょっと心配で……それにここがめちゃくちゃ楽しそうじゃないスか!!興味あるんスよね!」
少し、嘘臭く感じたのか、諏訪子は少し、しかめっ面になる。しかし早苗が間に入って続ける。
「いいじゃないですか!信仰者が増えれば加奈子様達のお力も増えますし、何よりこれだけ霊力がある子が入れば頼もしいですって!」
「それもそうだわね、まぁ、お前さんが何か起こしたら早苗、お前が対処してくれよ」
少し圧を纏った声で話す加奈子。改めて本物の神様なのだと認知する。
「お任せあれ!それでは早速霊夢さんのところへ向かいましょうか!」
そう言われ、手を引っ張られる。その手は、何処か温かく、離さないようにこちらの手を握り締めていた。
「さて、一応だけどさ、あの子警戒したほうが良いんじゃない?」
二人が見えなくなった頃、諏訪子が話し始める。
内容は勿論、伊吹という外の世界の人間について。
「悪いやつには見え無いけどね、外界戦争のこともあるし、一応警戒はしておきましょうか」
そんな言葉は、伊吹には知る由もなく、最後の人間は幻想郷に住むため、博麗神社へと向かう。
─どこかの洞窟の中、フードを深々と被った人影がポツリと、呟く。
「……ようやく、役者が揃った……。」
その言葉は洞窟の闇へと消え、誰にも届くことは無い。しかし、その闇影は、確実に進行していた。