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今日も遅い
あいつはいつも酔って甘い匂いをつけて帰ってくる
香水じゃない
コンビニの袋にも入ってない
——人の匂いだ
俺の知らない誰かの。
氷の溶けた麦茶を一口すする。ぬるい。
窓を少し開けても、熱風しか入ってこなかった。
「……おかえりって言えるかな、今日は」
けど、声はすぐに喉の奥へと引っ込んでいった
冷蔵庫には、今日も二人分の夕飯
冷ややっこ、茹でたとうもろこし、冷やし中華
簡単なもんだけど、あいつの好きなものばっかり。
けど、きっと今日も食べないんだろうな
最近は、「食べてきたからいらない」って言葉を何回聞いたか分からない
玄関からガチャ、と音がした
——帰ってきた。
ドアが開く音
そして、夏の夜の空気よりも重たい沈黙
「……ただいま」
いつもの声。少し酔ってて、どこか他人行儀で
それでも、俺は笑う
「おかえり。……暑かったでしょ、お風呂沸いてるよ」
「マジで?サンキュ〜……助かる……」
汗だくのシャツを脱ぎながら、あいつはリビングに入ってくる
その腕に、うっすらと赤い跡
誰かに掴まれたような、それとも自転車か何かの……って、そんなふうに思いたかった
「ごはん……食べる?、冷やし中華作っといたよ」
優しく笑ってみせたけど、あいつはその笑みに気づいただろうか
「ん〜……いや、今日はいいかな。飲みすぎてちょっと気持ち悪くて」
「そっか」
言葉がぽろりと落ちる。
悲しいとか、寂しいとか、口にするほどの力もない。
ただ、うちわで自分をあおぎながら、俺はまた氷を入れ直した麦茶を飲んだ
「……ねぇ」
ふいに、若井の声
「ん?」
「お前さ、怒んないの?俺がこんなで」
答えようとして、でも言葉が見つからなかった
怒れたら、楽だったのにな
怒って、泣いて、ぶつかって、それで何か変わるなら。
けど——
「……怒ってほしいの?」
自分でもびっくりするくらい、柔らかい声が出た
「……わかんない。でも、お前が優しすぎて、たまに怖くなる」
笑いながらそう言った若井の顔は、ほんの少しだけ、泣きそうに見えた
俺もだよ。
優しくして、繋ぎ止めて、それでもいつか見捨てられるのが、怖い
だか今回は僕の中で何かが切れた気がした。
頭で考えるより先に体が動いていて、お風呂に行く若井の腕を掴んだ
次は🔞かと思われます〜