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「木蓮」

「なによ」

「おまえ、売れ残ったな」

「どういう意味よ」

「婚約は破談、気の毒にな」

「さ、最初から背中にイモリを入れるヤツと結婚する気はなかったわよ!」


 蓮二は困ったものだとため息を吐き、美咲は「睡蓮の代わりに木蓮がお嫁に行けば良いんじゃないかしら」と言い出した。


「ばっ、馬鹿じゃないの!」

「指輪も貰ったんでしょう、雅樹さんも満更でもなさそうよ」

「いっ、いえ、睡蓮さんが駄目なら木蓮さんとかそういう訳には」

「泊まった事だしな」

「えっ」


 木蓮と雅樹の顔色が変わった。


「そうよ、雅樹さんのお部屋にお泊まりしちゃったんでしょう」

「だっ、誰が」

「睡蓮から聞いたわよ」

「そ、それは!」


(……….睡蓮!)


 木蓮は睡蓮を睨み付けたが彼女は泣きじゃくりそれどころでは無い。


「遊びだったのかい?」

「遊びだなんてそんな事は」

「雅樹さん、婚約中にお泊まりだなんて非常識よ」

「お母さん、それは私が頼んだの!」

「勿論、木蓮も非常識です!はしたない!」


 ピシャリと手を叩かれ木蓮は飛び上がった。


「……..ごめんなさい」

「申し訳ありません」


 睡蓮と伊月は丸く収まったが木蓮と雅樹は針の筵状態だった。気不味い時間が流れ木蓮と雅樹は石像の様に固まっていた。


「和田さんはウチとの縁談をと言って引かないしなぁ」

「………父がそんな事を」

「困ったわぁ」

「木蓮を寄越せとも匂わせている」

「そんな、私は物じゃないわ!」


 木蓮はソファから立ち上がり蓮二を睨み付けた。


「それは駄目です!木蓮はうちの跡継ぎなのよ!」

「しかしなぁ我が社としても和田さんとの繋がりは欲しい」

「すみません、宜しいでしょうか」


 雅樹がおずおずと手を挙げ、周囲の視線が集まった。


「どうしたんだね」

「お義父さん、お義母さん、厚かましいお願いなのですが僕を婿養子に、という訳には。も、木蓮さんの婿養子………なんですが」


 蓮二と美咲は顔を見合わせた。


「あんた、なに寝ぼけた事言ってんのよ!」

「本気だよ!睡蓮がそれが良いんじゃないかって!」

「また人のせいにして!あんたって本当にフラフラと落ち着かないわね!」


 然し乍ら両親の反応は違った。


「…………ああ、それは一石二鳥ね!」

「お母さん、なに呑気に四字熟語しちゃってんの!」

「婿養子かぁ….それは考え付かなかったな」


 蓮二は薄くなった額をペシペシと叩いた。


「お父さん、こんな良い加減なフラフラした男の何処がいいの!」

「婿養子はそれくらいが丁度いい…..それにおまえは気が強いから雅樹くんとはお似合いだ」

「もうお泊まりした仲ですもの…….ねぇ?」


 美咲の言葉には圧と棘があった。その後、和田家に叶家が押し寄せ「雅樹を婿養子に」と迫った。当然、和田家はそれを拒んだが美咲の一言で場は収まった。


「あら、うちの後継を傷物にして知らん振りですか?」


 雅次と百合は青ざめた。


「叶さん、そんなつもりでは」

「しかも睡蓮との婚約中に!非常識も甚だしい!」

「叶さん、落ち着いてください」

「あーこの業界狭いですわよ、ねぇあなた」

「叶さん!」


 和田医療事務機器は一旦、美咲の兄が引き継ぎ将来的には叶製薬株式会社に合併される事となった。

 荘厳なパイプオルガンが響きマホガニーの扉が大きく開いた。蓮二の肘にウェディンググローブの指を添えた木蓮が深紅のバージンロードを静々と進んで来た。胸元が大きく開いた白銀のウェディングドレスは腰から裾に掛けてリボンが折り重なり、ヘッドドレスにカサブランカの白い花弁が咲き乱れた。




「汝、和田 雅樹は、この女、叶 木蓮を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


「誓います」


「汝、叶 木蓮は、この男、和田 雅樹を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」


「誓います」




 左の薬指に輝くプラチナの結婚指輪。荘厳なパイプオルガンが2人の門出を祝う。雅樹の離婚から3ヶ月という事もあり結婚式は近しい身内だけで挙げた。






「返して」


 木蓮が新居のマンションに移り住む荷造りをしていると部屋の扉が音を立てた。その声は睡蓮、扉を開けると仁王立ちでこちらを睨んでいる。木蓮が何事かと怯んでいると睡蓮は無言で手を差し出した。


「な、なによ」

「返して」

「なにを」


 睡蓮は段ボール箱から顔を出した焦茶のティディベアを指差した。


「なに、あんたもう要らないって投げ付けたじゃない」

「九州に連れて行くから返して」

「分かったわよ、ちょっと待ってなさいよ」


 木蓮が後ろを向いてしゃがみ込むと背中に温かいものを感じた。


「ありがとう」


 睡蓮が木蓮の背中を抱きしめていた。


「ちょっ…….ちょっとやめてよ、恥ずかしい!」

「ありがとう」

「なんの事か分かんないけれど……..どーいたしまして」


 涙が背中を伝いしんみりしていると睡蓮は突然立ち上がった。


「…….返して」

「なに、まだなんかあるの」

「そのくま、返して」


 その指はベージュのティディベアを差していた。


「なに、あんた執念深いわね」

「それは私のティディベアなの」

「はいはい、ベージュと焦茶抱えて九州に行きなさい」


 木蓮はダンボールの奥からベージュのティディベアを取り出すとポンポンと形を整えて睡蓮の腕に抱かせた。


「これで寂しくないわ」

「え」

「これでいつも木蓮と一緒だわ」

「睡蓮」

「……..あなたは私、私はあなた、何処に居ても一緒よ」


 亜麻色の髪の睡蓮、ロイヤルブラウンの髪の木蓮、瓜二つの顔を持つ2人はそれぞれの道を歩み始めた。






こちらは「私の夫を差し上げます」のSSサイドストーリーとなります

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