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「……一人じゃないほうがいいですよね」
その言葉が、やけに残った。
優しい、とかじゃなくて。
当たり前みたいに言われたことが、逆に刺さる。
「……なんでそんな普通なの」
ぽつりとキヨが言う。
「普通って?」
「いや……もっとさ、引くとかあるじゃん普通」
「んー」
うっしーは少し考えて、
「引く理由ありますか?」
って、あっさり返した。
「……あるだろ」
「ある?」
本気でわかってない顔。
「男で妊娠とか、普通にめんどいし」
「めんどいのはそうですね」
あっさり肯定。
「……じゃん」
「でも、それでキヨがしんどいのは変わんない」
「……」
言い返せない。
「だったら、そっち優先でよくないですか」
さらっと言う。
本当に、深く考えてないみたいに。
でもそれが——
(……ずるい)
じわじわくる。
「……なんなのほんと」
「だから、お人好し」
「自分で言うなよ」
「言われ慣れてるから」
少し笑う。
その軽さに、少しだけ空気がゆるむ。
⸻
「……あのさ」
キヨが、少し視線をそらしたまま言う。
「ん?」
「さっきから敬語やめて」
「え?」
「なんか距離ある感じする」
自分でも驚くくらい、自然に出た言葉だった。
「……あー」
うっしーがちょっとだけ笑う。
「じゃあやめるわ」
「うん」
「キヨもタメ口でいいし」
「最初からそうだけど」
「たしかに」
くすっと笑う。
それだけのことなのに。
少しだけ、距離が近づいた気がした。
⸻
「……寝る?」
うっしーが聞く。
「んー……」
正直、疲れてはいる。
でも。
「寝れる気しない」
「そっか」
それ以上は無理に勧めてこない。
「じゃあ適当にダラダラする?」
「なにそれ」
「テレビでもつける?」
「……いい」
結局、ソファに並んで座る。
適当に流れてるテレビの音。
でも、どっちもあんまり見てない。
沈黙が続く。
でも、さっきまでとは違って苦しくない。
⸻
「……ねえ」
しばらくして、キヨが小さく呼ぶ。
「ん?」
「なんで俺なんか拾ったの」
またその話。
でも今度は、少しだけニュアンスが違った。
「んー……」
うっしーは少しだけ考えて、
「なんか放っとけなかった」
「そればっか」
「それしかないし」
肩をすくめる。
「キヨ、あの時やばそうだったし」
「……そんな顔してた?」
「してた」
即答。
「今にも倒れそうだったし、泣きそうだった」
「……泣いてないし」
「はいはい」
軽く流される。
でも。
「……でも、ありがと」
ぽつりと出た。
自分でも、ちょっとびっくりした。
「ん」
うっしーは、それ以上何も言わなかった。
ただ、普通に受け取っただけ。
それが、逆にありがたかった。
⸻
そのまま、しばらくぼーっとしてたけど。
「……っ」
また、気持ち悪さがこみ上げる。
「……キヨ?」
「ちょ、っと……無理……」
慌てて立ち上がろうとして、ふらつく。
「おい」
すぐに腕を支えられる。
「大丈夫じゃないだろ」
「……平気って」
「無理すんなって」
そのまま、ゆっくりソファに座らされる。
「……くそ」
思わず舌打ちが出る。
体が言うこと聞かないのが、イラつく。
「水、飲める?」
「……ん」
差し出されたコップを受け取る。
手が少し震えてた。
それを、さりげなく支えられる。
「……過保護かよ」
「今はしゃーないだろ」
「……」
言い返せない。
少し落ち着いてきて、息を吐く。
「……ほんとめんどい体」
ぽつりと漏れる。
「そうだね」
否定しない。
「……否定しろよ」
「でも事実じゃん」
「……」
また何も言えなくなる。
でも。
「でも、それでキヨの価値が下がるわけじゃないし」
さらっと続ける。
「……は?」
「いやだから、めんどいのは体であってキヨじゃないって話」
「……なにそれ」
「そのまんま」
あまりにも普通に言うから、
逆に、頭に残る。
「……意味わかんない」
「いいよ、わかんなくて」
軽く笑う。
その空気に、少しだけ力が抜けた。
⸻
「……ねえ」
キヨが、小さく呼ぶ。
「ん?」
「今日さ」
「うん」
「ここ、泊まっていい?」
ほんの少しだけ、間があった。
でもすぐに、
「いいよ」
って返ってきた。
「……ありがと」
「ベッド使っていいよ」
「いや、それはいい」
「なんで」
「なんか嫌だ」
「じゃあ俺が床で寝る」
「いやそれも嫌」
「めんどくさ」
「うるさい」
少しだけ、笑いが混じる。
「じゃあどうすんの」
「……一緒でいい」
ぽつりと、キヨが言う。
「……」
さすがに、うっしーが少し黙る。
「変な意味じゃないし」
すぐに付け足す。
「ただ……一人無理」
正直な言葉だった。
少しの沈黙のあと、
「……いいよ」
静かに返ってくる。
⸻
ベッドに並んで寝る。
距離は少し空いてる。
でも。
「……近くない?」
「これ以上詰めたら落ちる」
「それもそう」
小さく笑う。
部屋の明かりを消して、暗くなる。
静かな空間。
でも。
(……あったかい)
人の気配があるだけで、こんなに違う。
「……うっしー」
「んー」
少し眠そうな声。
「明日さ」
「うん」
「……病院、行く」
その言葉に、少しだけ間があって。
「そっか」
静かに返ってくる。
「一緒に行く?」
「……いいの」
「いいよ」
迷いがなかった。
「……じゃあ、お願い」
「ん」
それだけで、十分だった。
⸻
「……ねえ」
「まだなんかある?」
「……なんでもない」
言いかけてやめる。
でも。
「……ありがと」
小さく、もう一度言った。
「はいはい」
軽く返される。
でも、その声は少しだけ優しかった。
⸻
その夜。
キヨは久しぶりに、ちゃんと眠れた。
隣に、誰かがいる状態で。
#ご本人様には関係ありません
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