案内されたのは、広さのある談話室のような空間。置いてあった3人がけのソファに、左から若井、僕、元貴、という形で座った。目の前のソファには、西山さんと天海さんが座っている。氷室さんはと言うと、別の部屋で百合乃ちゃんの相手をしているらしい。
「わざわざここまで足を運んでくれたことを感謝するよ。」
「…嘘つけ。」
「元貴…!」
保冷剤で頬を冷やしながらそう言葉を発する西山さんに、隣にいた元貴がボソリと呟いた。あまりにも一触即発な雰囲気に気が緩めない。
「君達は……大森元貴さんと若井滉斗さんだよね。」
「はい、あんだけ情報嗅ぎ回ってたならそのくらい分かると思いますけどね。」
「ちょっと若井…!」
両サイドの2人が喧嘩をする気満々で挑発するから慌てて止める。
「成程……そこまで知っているなら深く話す必要も無さそうだな。」
「…さっきの心臓移植したってどういう意味だよ。」
「心臓移植…?」
僕が聞いた覚えのない単語に首を傾げる。その言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは百合乃ちゃんだけど…。
「ははっ、真っ赤な嘘だよ。そうでも言わないと君達は止まらなかっただろう?」
「…っ、てめえ!!」
「元貴!!」
全く状況が分からないが、西山さんに掴みかかりそうな勢いで立ち上がった元貴を制止する。何だか凶暴な大型犬のようで、手がかかる。僕が真ん中に座っていて本当に良かった。
「娘の心臓移植は本当だが…まあ、そこから話そう。私の娘に移植できる心臓が必要だった。ただ、真っ白な人間から探すのも気が引けてな、犯罪の履歴を持っている人間から探していた。だが見つからず、気は進まないが一般の人間から探した。」
「…お前は田崎翔平と関係ないのか? 」
西山さんの口から発せられる出来事には僕が知らなかったものも含まれていた。新たな事実に驚いていると、静かに聞いていた若井から聞き覚えのある名前が呟かれた。
「関係がない、と言ったら嘘になる。娘の心臓はそいつのものだ。」
「でも…、!田崎は前科があったはず…。なんで涼ちゃんの事も攫ったんだよ!」
「…一般の人間と前科を持っている人間、それぞれで探していたんだが、田崎と藤澤を見つけたタイミングが被ってしまったんだ。結局は田崎に決めたが、様々な機関を通して世間体には藤澤を死んだように扱わせた。1度攫ってしまった人間を外に出すなんて、どうぞ私を捕まえてください、と言ってるようなものだろう?」
何となく事の全容が掴めてきた。既に知っている話に織り交ぜられて初めて聞いた内容もある。ここに長く居たせいで、全てを分かりきった気になっていたがそうでもないらしい。
「……なんだよそれ。行こ、涼ちゃん。こんなとこ居るべきじゃない。」
そう言い立ち上がった元貴に手を引かれる。本当は素直に着いていきたかった。前みたいな楽しい生活に、戻りたかった。でも、怖いんだ。だって……
「僕はもう…死んでるんでしょ?」
「は…?何言ってんの、今目の前にちゃんと……」
「違うよ。」
僕の言葉を否定しようとした元貴に言葉を被せる。
「…元貴達とは帰れない、」
ここを出た僕は、”死んだ”ことになっている。それが意味することはただ一つ。元貴達と一緒に帰ったとしても、僕の居場所は無い。ここでしか僕は生きていられないんだ。
「……さあ、そろそろ帰って頂こう。」
西山さんの言葉に反応するよう、繋がれた元貴の手にぐっと力がこもった。
「天海、客人方を外までお送りしてあげなさい。」
「……はい。」
ソファから立ち上がった天海さんと瞳が合う。青を縁どった輪郭が不安定に揺れていた。そして、1歩を踏み出した天海さんに全てを諦めた。もう若井達と会うことは出来ない。堪えていた涙が零れ落ち、俯いて顔を隠した。頬を伝う涙を拭った時、天海さんの震えた声が耳に届く。
「……私は、藤澤様がここに居るべきだとは思いません。」
「…天海、どういうつもりだ。 」
思わず顔を上げると、そこには西山さんにナイフを突きつけている天海さんが居た。 状況が分からないのは元貴と若井も一緒のようで、事を唖然とした表情で見つめている。
「…もうこんなこと辞めましょう。本当は田崎を見つけたタイミングで私が連絡をするべきだった。けど、それを怠って藤澤様を連れてきてしまった。それなのに、何故私は責任を取らされていないんですか、? 」
「……何が言いたいんだ。」
場に走る重い空気。一瞬向けられた天海さんの瞳が、細められた。
「藤澤様を、元の生活に戻してください。」
コメント
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ここで読めないの?めっちゃ気になる!天海さんのキャラが最高だな。また読みにきます♪
天海さんほんとにナイスすぎてる😭😭ありがとう🫶🏻💗涼ちゃんも諦めないでよぉー!😢