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ruruha
821
#執着
さぶれ
1,802
49
#元カレ
まぁ
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あの圧倒的な演奏が、今も耳から離れない。私の心を根底から激しく揺さぶった、あの音の残響が。
いつもならとっくにベッドに入り、深く眠りについているはずの時間だった。けれど今夜は、どうやっても眠ることができなかった。
あの旋律を、どこかで聴いたことがある気がしてならない。それなのに、どれだけ記憶の糸を手繰り寄せても、どうしても思い出せないのだ。
「もう一度……聴きたいな」
暗い部屋の中でぽつりと呟いた、その瞬間だった。
ベランダのガラス窓から、コツッと小さな音が響いた。
最初は夜風の悪戯かと思い気に留めなかったが、何度も規則正しく続くうちに、さすがにおかしいと気付いて窓へと歩み寄った。
そっと窓を開けると、空を覆う暗雲によって月は隠れていた。
ひんやりとした夜風が吹き込み、薄手のカーテンを穏やかに揺らす。
「……誰も、いない……?」
気のせいだったのだろうかと呟き、部屋へ戻ろうとした――まさにその時だった。
「こんばんは」
「っ!?」
あまりの突然さに息をのんで振り返る。ベランダの低い手すりの上に、見覚えのある人物が静かに佇んでいた。
「レ、レオ様……!?」
そこにいたのは、昼間のパーティーで鮮烈な印象を残したあの冒険者の青年――レオだった。
「どうしてこのような場所に……!? 警備も非常に厳重なはずですのに……」
「ええ。重々承知しております」
彼は静かな声で答え、手すりの上からふっと視線を下の庭園へと落とした。
そこには、本来なら夜間の見張りについているはずの練達の近衛兵が、力なく草の上に倒れ込み、静かな寝息を立てていた。
「まさか……眠らせてしまわれたのですか!?」
「はい。体に害のない睡眠薬を少しだけ使わせていただきました。命に別状はありませんので、ご安心を」
「……信じて良いものか分かりかねますけれど」
「まあ、不法侵入者に警戒されるのは当然です。こんな夜更けに忍び込んだわけですから」
さらりとそう返す彼の口調はどこまでも淡々としていて、不思議と恐怖や怒りを覚えることはできなかった。
「それで、一体何の用ですの? こんな危険を冒してまで忍び込まれたからには、何か重大な理由がおありなのでしょう?」
「ええ。リリー様と……どうしても直接お話がしたくて、来ました」
「……え?」
「今日の演奏……いかがでしたか?」
思いがけない質問に、一瞬だけ言葉に詰まった。けれど、胸の中の答えは最初から一つに決まっていた。
「……とても、素晴らしかったです。本当に、魂を直接揺さぶられるようで……。自分でも気づかないうちに涙が零れていて、驚いてしまったくらいに」
レオ様はその言葉を聞くと、どこか愛おしむように少しだけ表情を緩めた。
「……それを直接聞くことができて、本当によかったです」
「まさか……私に感想をお聞きになるためだけに、わざわざ忍び込まれたのですか?」
「はい。それだけです」
迷いのない即答だった。あまりにも拍子抜けしてしまうほどに。
レオ様は小さく微笑んだ。その穏やかな表情は、昼間に見せていたクールな無表情とは違って、どこか柔らかで温かかった。
「……一度も聴いたことがないはずの曲でしたのに、なんだか酷く懐かしくて……胸に強く響きましたの」
「……そのお言葉を聞けただけで、ここに来た甲斐がありました」
それ以上、彼が何かを深く追及しようとしてくることはなかった。
その穏やかで包み込むような声に、荒立っていた私の心も自然と落ち着いていく。
「また……演奏なさるのですか?」
「はい。機会があればいつでも。……その時はまた、聴いていただけたら嬉しいです」
「もちろんですわ。必ず伺います」
考えるよりも先に、自然と答えが口をついて出ていた。
もう一度、あの愛おしい音の波に包まれたい。心からそう思えたから。
「では、そろそろ失礼します。衛兵たちが目を覚ます前に戻らなければ」
「……本当に、無事にお戻りになれますの?」
「ええ。これでも冒険者ですから、慣れています。……それに、無事に帰れなければ困りますからね」
そう言うと、レオ様はベランダの手すりに軽やかな動作で足をかけた。
「あの……っ!」
去ろうとする彼の背中に向かって、叫ぶように声をかけていた。
「また……来てくださいますか? もっと、レオ様とお話ししたいです……!」
レオ様はわずかに目を見開き、すぐに愛おしそうな笑みを浮かべた。
「もちろん。必ずまた来ます」
静かに告げると、彼は夜の闇の中へと風のように溶け込んで消えていった。
「……不思議な方」
けれど、冷え切っていた胸の奥は、ぽかぽかと温かいものに満たされていた。
あの美しい音色も、彼が残していった優しい言葉も、確かに私の中に生きている。
コメント
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しろのねさん、第15話読みました……! 夜のベランダに現れたレオ様、かっこよすぎてちょっと心臓やられたんだけど🥀💘 「直接感想を聞きたかった」って理由で警備すり抜けてくるの、重すぎず軽すぎず、めちゃくちゃドキドキしました。 リリーの「また来てください」も素直で可愛くて、あの余韻がすごく好きです。 ふたりだけの秘密の時間、本当に尊かった……次の話が待ちきれないです🌙🤍