それからすぐに、 赤津と輝夜がこちらに合流してきた。
「 おや、鶴吉クン、思ったより早かったね…もう少しかかると思ってたよ 」
「 ボクも今回の伝令は少し大がかりだと思ったのでね、 なるべく急いできたんですよ、 赤津氏。 …ところで、 美味しい食事はどこに? 」
「 帰ったら、 たらふく用意しよう …それより、 椎名クンはどうしたんだい? 」
千春は、しめた、と思い、 慌ててその会話に割り込む。
「 椎名さんは、 まだ1人で戦ってるんです! かなり強そうな死呪人だったので、 きっとこうしてる間にも…! 」
「 それはないわよ 」
千春の訴えに口を開いたのは、 以外にも輝夜だった。
「 私、 あの人と1度手合わせをしたことあるけど… 勝てなかったもの。 権能も私より戦闘向きで、 はっきり言って、 あの人が苦戦するようには思えない… たぶん、 本当にあなたが邪魔だったんじゃない? 」
「 でも、 右腕が… 俺のせいで… 」
「 なら尚更、あなた邪魔でしょ? 完全に。 あの人はそういう人よ 」
ぐうの音も出ない。 だが、椎名が 1人で戦っているのは事実だ し、とにかく1度行った方が、 と言っている矢先、椎名 が1人で歩いてき た。右腕が無くなっている。
「 あら、 みんなおそろいなのね?鶴吉も 」
「 椎名さん! 無事だったんですね! 良かった! 」
「 これ見て無事に見える? 」と
椎名は無くなった腕の方を抑えながら 言うが、その顔は笑っていた。
「 おや、 椎名氏、 やっぱり無事でしたか! 死呪人は? 」
「取り逃したわ… おそらく感電死かなにかの権能だと思うけど… にしては規模が大きかった、 注意した方がいいかも 」
「 あの、 椎名さん、 腕は…? 」
「 ああこれ? 大丈夫よ、 焼け焦げる程度ですんで良かったわ、 焦げてる部分を切り落とせば、死んで治るもの 」
それは安心していいのか? 治るからいいのかもしれないが、 千春からすれば、ビリビリに破いた紙を、 「大丈夫大丈夫、元に戻せるから」と 言われているようなものだと、 感じざるを得なかった。
「 僕もここに来るまでに一応市民や死呪人が居ないか探したが、 いなかったよ。 一旦一段落したようだ 」
「 しかし、不自然だね? ボクらをとどめておくにしては、 あまりにも、 敵が弱すぎる… 」
「 はい、私もそう思います… 戦闘経験も、 それに準ずる覚悟も、 今回の死呪人には感じられなかった… 」
「 捨て駒、 と言うやつかな? ま、 我は深く考える必要なんてないと思うがね! 敵を倒せばいい、 ただそれだけだ! 単純明快だろう? 」
「少しはキミも考えなよ、 百田。 …まァだが、 一理ある。 敵の集団がいる居場所も分からないうちから、 考えてもあまり意味は無い。 今は、 みんなが遭遇した死呪人の情報を共有し、 対策を練ろう。 」
「あの、赤津さん 」
「なんだい、千春クン 」
「俺、いりますか?これ… 」
「どうしたんだいいきなり? そんなネガティブだったかキミ 」
「いえ、そういう訳じゃなくて… 思ったんです… 百田さんや椎名さんはもちろん、俺より年下の輝夜にも、当たり前に戦えるだけの力がある… でも、 俺はいつも皆さんに守ってもらってばかりだし、今回だってそうだ、 椎名さんが突き飛ばしてくれなかったら、 雷に当たって今頃死んでたかもしれない 」
「キミはまだ新人だ、しかも今回が初任務な上、戦闘に関する指導も行っていない。それはしょうがないというやつじゃないのかい?」
「そうですけど、俺がいないほうが、皆さんの労力も使わず、死呪人を殺すことに全力を注げると思うんです。自分で望んでおいてなんですけど、なんで、俺を特葬課に入れてくれたんですか?」
「キミの特葬課に入りたいという思いは、その程度のことで揺らぐような決断だったのかい?」
「えっ?」
「人に気を使って、自分の思いを踏みにじる気かい?僕ァね、強いか弱いかじゃない、キミに期待してるんだよ… 新人が欲しかったのもあるが、キミが死呪人なのは、なんとなく最初から分かってたんだ。それでも、僕がキミを欲しがったのは、輝夜クンが初めて殺さなかった死呪人に、可能性を見出したからなんだよ」
「ちょっと待ってください。どういうことですかそれ」
輝夜が反論するが、 気にせず赤津は続ける。
「キミがこれから強くなるか、それとも呆気なく死ぬか、はたまた心が折れて特葬課を辞めてしまうのか。それは僕が決めることじゃない。キミ自身の選択で起こった結果なんだよ。もしキミが迷惑をかけるから辞める、と言うなら止めはしない」
赤津の言うことに、思わず下を向いて納得 してしまった。 自分はなんて馬鹿なことを聞いたんだ。 これ程自分に対して真摯に向き合ってくれ る大人に、初めて出会った、ということも あったが、それ以上に、自分の心の弱さ を、実感したからでもあった。 本当は、怖気付いていたのかもしれない。 予想以上の命のやりとりに。 自分がいない方が、と言い訳をして、 この戦いから上手く逃げようとしていたの かもしれない。 千春は、自分が情けなくなった。
「…すみません、変な事聞いて」
「いいんだよ、気持ちは分かる。だがあまり気負わなくていい。まだ若いんだ、キミには充分な伸びしろがある」
「はい!ありがとうございます!」
「赤津さん、さっきのどういうことですか?ちょっと説明してもらいたいです」
2人の会話が終わると、輝夜が赤津に詰め寄ってくる。他の3人は、千春達の会話を聞きながら、千春達には聞こえないように話していた。
「乗せるの上手いわね、赤津」
「ああ、奴は人たらしだからな。我も奴には頭が上がらん」
「あんたあいつより役職上でしょ、なんで下手に出てんのよ 」
「ははは!たしかに!じゃあもっと偉そうにするか!」
「百田氏、それはちょっとボクが受け付けない。なんとなくだけど、今でギリギリ威厳保ってるとこあるから」
「同感。あんたに偉そうにされたら、こっちが持たないわ」
その後、再びトランシーバーで伝令があ り、一旦帰還するようにとのことだった。 帰り道、千春が横を歩く他のメンバーを見 ると、輝夜はまだ赤津に詰め寄っていた。 輝夜の意外な一面を見れた気がして、 少し嬉しかったのは、秘密だ。
コメント
3件
読むの遅くなりすみませんでした! やっぱり鶴吉好きだわ~カッコいいし可愛い(?)し!!
赤津さん人垂らしだ…!言葉が優しい!!