「百ぢゃんはお母さんが好ぎなんだねぇ。」
女は俺に言う。
「…何も知んねえぐせに。」
そう吐き捨てて女を一瞥すると、女はへにゃりと笑う。何だこいつ。変なやつ。
「確がにねぇ。ごめんね百ぢゃん。気悪ぐしたべ。」
やっぱり変だ。早く帰ろう。嫌な予感がするので急いで踵を返す。すると、女は俺の腕を掴んできた。
「もう少し話さねえ?」
「嫌。」
昨日も食卓には鴨は並ばなかった。いっつもあんこう鍋。そろそろ飽きるし、帰っても来ないやつのために夕餉を用意しなくてもいいと思う。でも、おっかは一向に鴨を食べようとしてくれない。おっかは鴨が嫌いなのか?今日はキジを取りに森へ入った。
「ん?こんちわー。」
女が居た。俺より1尺ほどでかい女。女は山吹を積みに来たと言った。聞いてもないのに。女は立ち話も何だ。と言って地べたに座った。女は俺に座るように促す。
「そういえば、おめ名前はなんて言うの?」
「…百之助。」
「んじゃ百ぢゃんだ。」
「…は?」
「あ、そうそう!ばあぢゃんがお花大好ぎでね。よぐごごで積んで帰んだ。百ぢゃんは何で森に来だの?」
「…キジ取りにぎた。」
「キジ?何でよ?」
「おっかに食べて欲しいがら。」
そして女は冒頭で述べた言葉を並べた。
「んー、いいべ別にぃ、」
「キジの処理をしなきゃいけない。」
「まだ、何もどってねえよね?」
「…….」
「…んじゃ、これあげるよ。」
そう言うと女は、経木の小さな包みを俺に差し出した。
「?」
「御握り《おにぎり》だよ。」
「御握り?」
「うん。中に梅干しも入ってるの。沢山あるからあげる。だからお話しようよ。」
梅干し…米…どれも最近高価で簡単には手に入らないもの。受け取っておいて損は無い?
俺は女の問いかけにこくりと頷いた。
「やった。んじゃ百ぢゃん何がら話すべが。」
女は、口元に狐を描く。
「おめが好ぎなように話せ。」
「…まあ、まずこっちの余ってる御握り食べよ?」
女の膝元には、こちらが持っている経木の包みを指した。
「一個しかねえがら半分ごね。」
ぱかりと御握りを少しガタガタな半分にすると、俺に差し出す。
「ん」
「…いや、いい…」
「遠慮すんな食え。」
女はグイグイと口に入れようと御握りを俺の頬に押し付ける。
「…やめろ。」
女は、尚ニコニコとしている。腹立つこいつの顔。でも、どこか圧を感じる。身の危険を確保するため、しょうがなく口に含む。
「…」
長らく、鍋以外の物を口にしていなかったので久しぶりの白米に、あまりの美味しさ故か、無意識のうちに笑みがこぼれる。
「んふふ、うめえねえ。」
__やっと、百ぢゃんの笑顔が見れだね。
「その方がずっと可愛いよ。」
コメント
6件
なんか聞いたことある方言だなって思ったら茨城弁だった😳😳ウレチイ!!
文章めちゃくちゃ上手すぎて もう神やん……(( おかゆさん絵も上手いのに、文章も上手いとか多彩すぎてまじで尊敬する😭✨✨ あと男の子と女の子の言葉が好き 何弁なのか すっごく気になる!!!!