湖の浅瀬にて、ミレアがクリムゾンボアと対峙している。
「しぁあっ!」
彼女が瞬く間に距離を詰める。
そのまま拳を突き出し、クリムゾンボアの顔面を殴ろうとする。
だが、その攻撃は空振りに終わる。
彼女の動きを見切ったクリムゾンボアが身を翻し、彼女の攻撃をかわしたのだ。
「クッ……。やはり、そこらの雑魚のようにはいかないカ……」
ミレアが悔しそうな顔をする。
「任せてくれ。俺も援護するぞ」
シンヤはレオナードを背負いながら、ゆっくりと歩き出す。
そして、魔法を発動させた。
「【ウインドブレイド】」
風の刃が出現し、クリムゾンボアに向けて飛んでいく。
だが、これもまた当たらない。
クリムゾンボアは軽々と回避して見せたのだ。
「速いな……。これじゃあ、当てるのは無理か……。出力を上げれば攻撃範囲は広がるが、ミレアやレオナードも巻き込んじまうしな……」
シンヤの奥義は【マジックバースト】だ。
純粋な魔力をそのまま溢れさせ、敵にぶつける。
下手な小細工をしていない分、シンヤの持つ規格外の魔力量を存分に活かすことができる。
しかし反面、特殊な効果を付与できない。
普段の魔法に込めているような、『味方に当たったら威力が減退する』等といった効果がないのだ。
「大丈夫だヨ。あいつの動きは読めたからナ」
「そうなのか?」
「ああ。シンヤはもう一度さっきの魔法を撃ってくれ。当たらなくていいカラ」
「陽動ということか。分かった」
作戦会議を済ませたシンヤとミレアは再び動き出す。
まず、シンヤが先ほどと同じように【ウインドブレイド】を放つ。
クリムゾンボアはそれを難なく回避して見せると、今度はミレアに向かって突進してきた。
「今ダ!」
ミレアはタイミングを合わせ、大きくジャンプをする。
「はああぁっ! 【炎熱煉獄脚】!」
ミレアの必殺技が炸裂する。
炎を帯びた右足による蹴りだ。
クリムゾンボアに直撃する。
「グガァァァ!?」
悲鳴を上げるクリムゾンボア。
その隙に、ミレアは空中で一回転をして水面に着地する。
ダメージは与えたものの、まだ倒すには至っていないようだ。
「やっぱり強いネ……。でも、これで終わりダ」
ミレアはニヤリと笑う。
彼女は魔力を練り上げていく。
すると、彼女の前方に大きな魔方陣が出現する。
「……これはマズイかも知れん」
シンヤは直感的に危機を感じ取る。
ミレアからかなりの魔力が伝わってきているのだ。
「喰らうがいいサ。【紅蓮爆火球】!」
巨大な火の玉が出現した。
それが、クリムゾンボア目掛けて放たれる。
「ゴオオォォォォ!!」
クリムゾンボアが雄叫びを上げた。
超火力により、奴の身体が焼けていく。
「やったカ!?」
「ああ。間違いなく致命傷だ。しかし……」
シンヤは違和感を覚えていた。
確かにクリムゾンボアは倒れ伏している。
だが、その魔力量が減少しているように見えないのだ。
「どういうことダ……? これだけの攻撃を受けておきながら、死なないのカ?」
「そんなはずはない。前に倒したクリムゾンボアも、それほどの生命力はなかった」
シンヤには誤算が一つだけあった。
前回のクリムゾンボアは、彼のマジックバーストにより有無を言わさず死に至らしめた。
今回のミレアの攻撃は一般的に見て十分な高火力であったが、シンヤのマジックバーストには及ばない。
致命傷なのは間違いないが、完全に死に絶えるまでまだ少しの時間がある。
「とりあえず、トドメを刺しておくか」
シンヤは腰に差していた剣を引き抜く。
その時だった。
死に体のクリムゾンボアの魔力が急速に膨れ上がったのだ。
「何だと……!?」
「まさか、こいつはまだ生きているのかヨ!」
「いや、違う!! これは……」
シンヤが魔力の動きを急いで解析する。
彼ほどの実力や知見をもってすれば、魔力の動きだけで何が起きようとしているのか把握することが可能だった。
「間に合うか……! 【絶対零度の隔離陣】!」
咄嵯の判断で、シンヤは氷属性の結界を展開する。
それとほぼ同時にクリムゾンボアの体が大爆発を起こした。
ドゴオオオオォーーンン!!!
凄まじい轟音が鳴り響く。
それは、自爆であった。
「ハァ……。何とか助かったカ……」
ミレアはホッとした表情を見せる。
「すまない……。もう少し早く気づいていれば……」
「いやいや。何を言っているんダ。シンヤがいてくれたからこそ、あたしは助かったんダ。感謝の気持ちしかないゾ」
「そう言ってもらえるとありがたいよ」
シンヤは苦笑いを浮かべる。
「それにしても、クリムゾンボアにあんな奥の手があったとはな。まだまだ知らないことばかりだ」
「そうだナ……。ただ、さっきの戦いで確信したヨ。あたしは強くなってイル。でも、まだ全然足りないってナ……」
「まあ、俺も似たようなもんだ。お互い頑張っていこう」
シンヤはそうまとめる。
反省は大事だが、無事にピンチを切り抜けた今、過度に落ち込んでいても仕方がない。
そう思ったのだ。
「そういえば、レオナードはずいぶんと大人しいナ?」
ミレアはレオナードに視線を向ける。
レオナードは先ほどまでとは違い、静かに目を閉じている。
「どうやら、意識を失ったらしい。無理もないさ」
シンヤは肩をすくめる。
「クリムゾンボアとタイマン張っていたからな。本当によく無事だったと思うぞ」
「まったくダ……。命は大丈夫なのカ?」
「問題ない。戦闘中も、初級の治療魔法を掛け続けていたからな。本格的な治療は、さすがに戦闘中には無理だったが」
「なるほド。さすがはシンヤだ」
「それほどでも」
シンヤは軽く笑って見せる。
「なら、早く陸地に戻って、こいつの手当てをしてやろうゼ」
「ああ。そうだな」
こうして二人は、気絶してしまったレオナードを抱えて湖岸へと向かうのだった。
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