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ミレアによりクリムゾンボアが撃破された。
その後の自爆攻撃に対しても、シンヤの結界魔法により事なきを得た。
彼らは湖岸へと向かう。
その道中、クリムゾンボアの魔石が湖底に沈んでいくのが見えたが、今は放っておく。
治療が先だ。
岸に着いたシンヤ達を待っていたのは、レオナードのパーティメンバーだった。
「シンヤ殿……。ご無事でしたか。先ほど何やら轟音のようなものが聞こえましたが……」
「ああ。クリムゾンボアが出たんだ」
「何と! それで、レオナード様は……」
「心配はいらない。彼は無事だよ」
シンヤはそう答える。
「おお! それは良かった! して、レオナード様はどちらに……?」
「ん? ここだよ。俺の背中に担いでいる。負傷してしまったのでな」
シンヤはそう言って、体を半回転させる。
すると、そこにはぐったりとしているレオナードの姿があった。
「おお、それは気づきませんでした。よくぞご無事で……。……ッ!!??」
リーダーらしき男が安堵の声を上げた直後、突然言葉を失う。
その顔色は真っ赤になっていた。
「……おい。どうした? 何かあったのか?」
「な、なぜお召し物を脱いでいらっしゃるのですか? ああ、レオナード様の玉体が……」
男は顔を手で覆っている。
だが、指の間からしっかりと見ている。
「何言ってるんだよ……。こいつは男だぞ。お前、まさかそういう趣味が?」
シンヤは呆れたような表情になる。
「は? 男? いったい何を……」
男が混乱しだした直後、ミレアが異変に気づいた。
「シンヤ! その話は後にした方がイイ!」
「え?」
「レオナードの顔色がおかしいゾ!!」
シンヤが慌ててレオナードを見る。
すると、確かに彼の顔は青紫になっており、さらには呼吸が荒くなっていた。
「これは……。まさか! 【ポイズン・インスペクション】」
シンヤはすぐに魔法を発動する。
毒の状態異常を確認するための魔法だった。
「やっぱりか……!」
シンヤは唇を噛む。
「ど、どういうことだヨ!?」
「クリムゾンボアの攻撃には、猛毒が含まれていたようだ。おそらく、レオナードは俺達が駆けつける前に、クリムゾンボアの攻撃を受けていたんだろう。それが今になって効果が現れたというわけさ」
「何だト……! そんなことガ……」
ミレアは絶句している。
「クリムゾンボアの劇毒……! 聞いたことがあります……。どんな治療魔法士でも、ポーションでも、絶対に助からない猛毒だと……。あああああぁ……。レオナード様、我らの警戒が甘かったせいで……」
男が崩れ落ちる。
彼を始めとしたレオナードのパーティメンバー達は、少しでも働きを見せるために湖の周辺を警戒していた。
ただ、シンヤやミレア、レオナード達が好き勝手に湖水浴を始めたのは予想外だった。
クリムゾンボアの襲撃は、彼らの警戒範囲外の出来事だったのだ。
「おい。しっかりしろ。まだ死ぬと決まったわけではない」
「ですが……」
「俺に任せろ。いいか、まずは落ち着け。そして深呼吸をするんだ」
シンヤは男の肩に手を置く。
「は、はい……」
男は言われた通り、ゆっくりと深呼吸をした。
他のパーティメンバー達も同様に、若干の落ち着きを取り戻している。
「よし。落ち着いたところで、レオナードの治療を試みるぞ」
「治療ですか……? しかし、話に聞いた限りでは、治療魔法もポーションも効かないと……」
「そうかもしれない。だが、一縷の望みはある」
「と、言いますと……?」
「話は実演しながらだ。まずは、レオナードを地面に寝かせるぞ」
シンヤはそう言うと、背中から彼を下ろす。
「レオナード様にお召し物を……」
「不要だ。そんなことをしている場合ではない」
「しかし……」
「それに、だ。これから行う治療には、衣服が少し邪魔なんだ。ない方がいい」
シンヤはきっぱりと言い切る。
「あ、ああ……。分かった……」
男は一瞬だけ躊躇したが、すぐに納得したようだった。
シンヤはレオナードを地面に仰向けに横たえる。
「では、始めるぞ」
「はい……」
「まずは、毒が全身に回っているかを調べる」
シンヤはそう言って、レオナードの体に手をかざす。
「【ポイズン・サーチ】」
そして、即座に魔法を発動させた。
「これは……」
「何か分かったのですか?」
「ああ。この状態からなら、まだ間に合う。治せるはずだ」
「ほ、本当ですか……!?」
「ただし、かなり危険な賭けになるがな。それに、お前達にも手伝ってもらうかもしれん」
「それでも構いません! お願いします!」
「承知した。じゃあ、早速治療に入るぞ」
シンヤはそう言ってレオナードの腹部に手を置き、魔法を発動させる。
「【キュア・ポイズン】」
それは、解毒魔法だった。
毒による状態異常を取り除くための、中級魔法の中位に位置するものだ。
「う……。おおぉ……」
レオナードがうめき声を上げる。
それは非常に苦しそうな声色だった。
しかし、声が出るということは命があるという証拠にほかならない。
「おお、レオナード様!!」
男がレオナードの手を取り、涙を流しながら喜ぶ。
他のメンバーも同様であった。その一方で、シンヤの表情は厳しい。
「ちっ! 出力が足りん……! だが、力任せに出力を上げれば、逆に毒が回る可能性も……」
シンヤは焦っていた。
規格外の魔力量に任せた力押しは、彼の得意技だ。
しかし反面、治療魔法のように繊細な魔法操作を必要とする技術はやや苦手としていた。
大ケガ程度であれば問題なく治療できるが、今回のクリムゾンボアの劇毒は厄介な代物だったのだ。
「お前らの力を借りる時が来たようだな……。おい、お前ら! 今から俺の指示通りに動いてくれ!」
シンヤは振り返ると、男やミレア達に指示を出し始めたのだった。