テラーノベル
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そわそわしたまま土曜日になった。私はこの短い時間の中で考え尽くしたコーディネートで来た。
雛西、嬉しがってくれたらいいな。
緊張で、やたらと手で髪をいじってしまう。
この髪、雛西は気に入ってくれているのかな。長すぎたりしていないかな。
雛西はどういう髪が好きなのかな。
私の、好きでいてくれたら…
髪は最低限切らないようにしている。
悠樹と別れたとき、ばっさり切った。
髪が落ちたとき、大切なものを失くしたように頭がふっと軽くなった感覚を覚えている。
あの言葉にできない喪失感。
笑えもしない、泣けもしない。
喪失感に感情を支配されないように、泣くのを必死に堪えた、醜い顔をしていた。
髪を切るとあの時のことを思い出してしまうから髪は切らない。
でも別れてからだいぶ経っているし、髪は結構伸びている。
だから必要な部分だけささっと切るだけ。
それに、雛西と会ってから全く切りたくなくなった。
…理由はあまり意識しないでおく。
私はそんなことを考えながら、すっかり伸びてしまった髪をいじり続けた。
そうこうしてるうちに駅の前の銅像が視界に入ってくる。
「…はあ」
ここにも悠樹との記憶がある。
私が彼の浮気に気づいた日、この駅前には大きなクリスマスツリーがあった。
そうだ。ここは彼と最後に訪れた場所。
もう忘れたいのに、いざ来たら思い出してしまう私の記憶を恨む。
この場所が、雛西のおかげでいい場所になってくれないかな。
雛西に上書きしてほしい。
このデートで。
「…いや」
だからデートじゃない。一個下の友達と遊んでるだけだよ。
でもデートって聞くとやっぱりドキドキする…
私は脳内で、あの日雛西が言ってくれたデートについてのセリフを再生する。
あんな可愛い声で、デートって言われたらさ…もう耐えられないでしょ。
もし今私が家にいたとしたら、迷わず治らないお腹の下の熱に手を伸ばしていただろう。
雛西と出会ってから、ずっと雛西のことを妄想してしている。
私に覆いかぶさって、雛西の熱い吐息が私の顔にかかって…
待て待て。雛西のことすぐ性的に見るのやめろ私。
外でもお構いなしに興奮してしまう私に半ば呆れながら、銅像の近くのベンチに腰掛ける。
うーん、と伸びをして辺りを見渡す。
ふと目線を右に向けたとき、あるものが私の目に飛び込んできた。
「!!!!」
雛西だった。
「先輩こんにちはーっ!」
フリルワンピースを着こなし、可愛らしいリボンがついていて、目元にはどことない陽気さを感じさせる丸眼鏡をかけている。
スカートは短めで、雛西という素材を充分に活かしたような可愛さだった。
「先輩、どうですか、これ?」
驚きを隠せない私を気に留めず、無邪気に聞いてくる雛西。
「…かわいい、と思うよ」
途端、雛西の表情がパッと明るくなる。
「えへへーっ!でしょでしょっ?」
嬉しそうに飛び跳ねる雛西。
腰を捻ったりして、いろんな角度から雛西の可愛い部分を私に見せてくれる。
可愛くて眩しいな、この子は。
顔が気づかないうちにうっすら微笑みを浮かべていることに気づき、改めて雛西の力を実感した。
「…まあ、行こ」
なんとなく自分の顔が紅潮しているような気がして、私はくるりと回ってカフェの方向へ行く。
髪を整えるふりをして、耳を触る。
あつい。
全く、何でこんなことまでわかってしまうようになったんだ…
雛西に何度も顔を赤くされているからだ…そうだ、そうに違いない。
「先輩、照れてます?」
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どくん。
雛西の一言で心臓の鼓動が頭の奥深くまで届いて、私は動けなくなった。
困惑の表情でなんとか首を回して雛西の方を見ると、彼女は妖美な笑みで言った。
「…えへ」
彼女は丸眼鏡のブリッジをくいっと上げる。
ずるいって。ほんとうに。
「…照れてないから、ほら行くよ」
そんな苦し紛れにもならない反論をして、私は再び脚を動かす。
あんないたずらっぽい顔で言わないでよ…全くもう。
カフェの扉を開けると、ちりんちりん、と軽快なベルの音が響く。
「いらっしゃいませー」
どうやらお昼過ぎに時間をずらしたおかげで、行列にはなっていないようだった。席の数も多い。
10分もしないうちに席に案内される。
店員さんの案内を聞くに、このカフェは古今東西のお茶が楽しめるらしい。
一番安いセットでも最大5種類。
なにしろお茶の種類が多いもので、私と雛西は結構悩んだ。
「…んー」
時々うなり声をあげて、首を捻って考えている。
私はひとつ提案してみる。
「二人で違うお茶を頼んで、二人で飲み比べてみるのはどう?」
「それだ!!先輩天才!!」
雛西の顔がぱぁっと明るくなって、早速私たちはそれを実行してみることにした。
二人で話し合って飲みたいお茶を決めて、デザートも足して注文した。
注文すると、雛西のさっきのはしゃぎ様が嘘のように静かになり、待っている時間をどう過ごしたらいいのかわからず、私はちょっと焦る。
こういう時間ってなにすればいいんだろう。
私はいつのまにか二人の間に生まれた沈黙の膜をなんとか破ろうとして、一つの質問をする。
「…ねえ」
ゆっくり口を開く。
「…ん」
少し俯いていた雛西の顔がゆっくりこっちに向く。
「お待たせしましたー」
ちょうど頼んでいたお茶とデザートが来た。
かなり良い環境が揃ったかも。
そして雛西はなんとなく哀しげを含んだ瞳でこちらを見つめてくる。
こういう雛西も可愛いかも。
「なんで、カフェに誘ってくれたの?」
これは純粋な疑問だ。
ドラマとかの見過ぎかもしれないけど、カフェに行く時って大体何か重要なことを話すような気がするから。
その雰囲気を雛西から感じたから。
だから訊いてみた。
雛西はアールグレイティーを一口すすってから答える。
「…先輩に、ちょっと話したいことがあって…」
「やっぱり」
「やっぱりって…」
「そんな感じするもん、今の雛西」
「………」
ありゃ、黙っちゃった。
雛西はあてもなく、ただ流れるようにお茶をちびちびと飲んでいる。
「話しにくいこと?」
「…はい、ちょっと、今は」
「じゃあ私の話から聞いてもらおうかな」
「えっ、先輩もあるんですか?」
「あるよそりゃあ、雛西は信頼できるからね」
「…!ありがとう、ございます」
お茶を口に運ぶ雛西の手が止まった。
ちょっとびっくりした瞳でこちらを見ている。
あの美しい赤い瞳で。まっすぐに私のことを。
私はちょっとそのまっすぐさに怯みそうになるが、深呼吸をして話を続ける。
「じゃ、私から話すね」
これは、誰にも言っていない私の秘密。
私は、はじめて他の人に打ち明ける。
あの、悠樹のこと…
☆プチあとがき☆
大ボリューム!!結構疲れました!
一気に距離感縮まりましたね、この二人。
ツッコミどころとかいっぱいあると思いますが、これからゆっくり精進していくので応援よろしくお願いします!!
コメント
1件
ああ、もう、この二人の距離感がたまらなかったです……!「デート」って言葉に耐えきれずに妄想しちゃう先輩と、無邪気なのに妖しい表情をチラ見せする雛西ちゃん、そのギャップが心臓に直撃しました。特に「えへ」って眼鏡くいっと上げるシーン、ずるすぎますよ。それでいて、過去の恋愛を“上書きしたい”って願う切なさが、デートの甘さをより深くしてる。プチあとがきの「一気に距離感縮まった」に、本当にその通り!って頷きながら読み終えました。続き、すごく気になります。